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【雑感】2022/10/1 広島vs浦和(J1-第31節)

ポジショナルプレーという静的な配置をスタートにして相手をしなやかに蹂躙するスタイルが多くの指導者にインストールされていき、その後それに対するアンチテーゼとして前から捕まえに行って相手から時間を奪いに行くハイプレスが広まっていくという流れは欧州の主要リーグでも起こっている現象で、それ流れはここ1~2年でJ1にもやってきたと思います。その象徴的なチームとして挙げられるのは横浜FM、鳥栖、札幌、柏そして今季の広島でしょう。

日程くんのいたずらによって浦和のラスト5試合はいわば水と油の関係にあるこれらのチームとの試合が連続するわけですが、逆に言えばこの連戦の中でビルドアップ隊に時間を与えてもらえない、中盤でゲートの間に立たせてもらえない(ゲート自体が存在しない)、そうした時にどう対抗するのかをトライ&エラーを繰り返しながら高めることは可能だと思います。


結果的には2試合続けて相手のハイプレスによって自陣からの脱出が困難になり、ビルドアップをひっかけられて失点を重ねてしまいました。先週のC大阪戦との違いは相手がプレッシング時は明確に人を捕まえに来るという部分だと思いますが、その対抗策として約1年ぶりに江坂・小泉を前線に置いた0トップ型を取り入れたのだろうと思います。

SHに大久保と松尾というスピードのあるタイプの選手を入れることで、江坂や小泉が下りて行って空いたスペースに飛び出していけるようにしたことと、この4人はSHでも前線でもプレーしてきた選手なので、ボールを奪われて非保持に移行する時にそれぞれがポジションを戻さなくてもそのまま対応できるという強みはあります。


そして、35'40~のように江坂や小泉がそれぞれハーフレーンあたりを手前に引いてきてボールを引き取ってプレスを外した場面は恐らくこの試合で狙っていたものだったと思います。

江坂と小泉が下りて行ったスペースに大久保、松尾だけでなく敦樹も出てきたので、広島の3バックやCHの川村は誰が誰についていくのかを決めにくかったのではないでしょうか。

それより前の時間帯でも17'20~あたりに似たような感じで江坂と小泉が手前に引いてボールを触る場面もあったので、このような形は狙っていたのだろうと思いますが、ほとんどの時間帯でそもそもビルドアップ隊がオープンにボールを持てずにボールを蹴らされたり、手前にパスを出しても後ろ向きに受ける浦和の選手に対して広島の選手が縦方向に出てきてターンをさせなかったり、中盤で優位を取る前段階が上手くいかなかったように見えました。


基本的に浦和のビルドアップ隊は2CB+岩尾の3枚なので、広島は3トップをそのまま当てはめやすく、しかもしっかりと縦方向から矢印を出して寄せているのでオープンにボールを持つことは難しかったと思います。

前線は先述の通りポジションを入れ替えることで相手の目先を変えようとしていましたが、ビルドアップ隊はポジションが固定されているので相手の目先もズレなくてプレッシングを受けやすかったように見えます。


それに対する試行錯誤として、43'12~や47’33~のように大畑がショルツの脇まで引いてきて茶島から距離を取って前向きにボールを持てるところから始めたり、ビルドアップ隊に変化をつけるトライはありました。

手前から繋いでいくという前提に立つならば、例えばビルドアップ隊のポジションも流動的に入れ替えたりすると相手のマークを難しくすることが出来たかもしれません。いない選手の名前を出したところで仕方ないですが、3月の磐田戦で犬飼が出た時には岩尾とポジションを入れ替えながらビルドアップをする場面があったことを覚えている方はそれをイメージしやすいかもしれませんし、そうでなくても前線から誰かが下りてきたら岩尾が代わりに前に出ていってアンカー役を交代するという手段も考えられます。

ただ、ポジションを入れ替えた時のリスクとして、途中でボールを奪われた時にネガトラや非保持で本来得意ではない役割を押し付けられてしまうことがあります。極端な例を挙げるなら、小泉が岩波のところまで下りてボールを前進させようとしたとして、その流れでボールを奪われた場合にそのまま小泉にCB役としてカウンターに対処させる場面が生まれる可能性を許容するのかというと、それは現実的では無いよねとなります。このあたりはボード上で選手を動かすのと、実際に人間がピッチ上で動くのとでの違いであり難しさなのですが。


それなら、ロングボールを蹴っていったん相手を押し下げたり中盤を間延びさせる局面を作ろうという判断をしても良いはずです。実際にプレッシングを受けて岩波から前線へボールを蹴りだす場面は何度もありましたし、前線には大久保や松尾といったスピードのある選手がいます。

ただ、ロングボールをスペースではなく人がいる場所へ蹴っていた(余裕が無かったのでそうせざるを得なかった)ので、そうすると大久保vs佐々木、松尾vs塩谷というフィジカル的に不利な状況になっていましたし、そこでボールがこぼれても他の選手は手前からボールをつなぐために引いているのでこぼれ球回収の担当者が割り当てられていません。それならロングボールはスペースに蹴って競走させないと分が悪いかなと思いますが、それも松尾や大久保が一旦手前に引いてスペースを空けておいた上で蹴っ飛ばしてもらうという準備も必要でしょう。


ロングボールについては広島のビルドアップと比較すると分かりやすいですが、広島はそもそも手前から繋いでいくという前提はあまりなくて、保持も非保持も敵陣にボールがある状態からスタートしたいという考え方でやっているように見えます。なので、28'45~のように江坂が荒木まで追いかけても周りの選手が下りてきてサポートするのではなく、荒木が前線へ蹴ったボールのこぼれ球を回収するために残っています。

彼らにとってはロングボールがプランAなので、最初から中盤より前の選手が手前に引かないのですが、浦和は手前から繋いでいくことがプランAなので、プランBがロングボールの場合はその切り替え条件を共有しておかないとこの試合で頻発したようにただただボールを捨てるだけになってしまいます。

ただ、サッカーは状況が流動的に変化するし、途中でタイムを取って打合せすることも難しいので、そこの認識共有は口で言うほど簡単ではないと思います。ベンチから、あるいはピッチ上で、誰かが全員に届く声で「上手くいってないからロングボールに切り替えるぞ!」と言うわけにはいきません。近くの選手同士でゴニョゴニョ話したり、周りの状況や雰囲気を見て察したりするしかありません。とはいえ、この試合では飲水タイムがあったので前半の途中でも共有する時間はあったのですが。。


後半から松尾と小泉のポジションを入れ替えました。小泉をよりビルドアップ隊の近くからスタートさせてサポートを早くしたかったのかなと想像しますが、これでもなかなか状況は好転せず選手交代の準備をしている間に2失点目。

ユンカー、柴戸、そしてついにラストピース・リンセンを投入し、ユンカーとリンセンの2トップ、江坂がトップ下のような並びになりました。2人が縦へのアクションを出して、中盤でスペースが出来れば江坂が活きるし、ボールがこぼれれば柴戸が噛みつくし、ということで求める役割は分かりやすくなったかもしれませんが、ゴールキックを手前から繋ぐ流れでボールを奪われて3失点目。

結局、ビルドアップ隊のポジションを固定したままゴールキックを始めた結果、その次の場所(柴戸)も捕まってしまってボールロストという流れでした。ここはベンチが選手や配置の変更をしてもピッチ上の選手たちはプランAを続行してしまったチグハグさがあったかなと思います。


自分たちのスタイルが明確になってきて、それで結果も出てきて、となると相手は当然対策してきます。そこで上手くいかなくなった時に考えられる方法は2つあって、1つは相手の対策に応じたプランBを持っておくこと、もう1つは相手に対策されても打ち勝てるくらい自分たちのスタイルを磨くことです。

どっちが必要なの?と問うならば、リーグ優勝をするという戦略的な視点ではどっちも必要だと思います。今のチームのレベルでこの試合を戦うなら前者が必要だったと思います。

前者については先述した通りなので、後者の方を考えてみます。相手がハイプレスをしてきてもボールをつなげるようにするにはどうするべきか。もちろん、パスを思った場所に速く出せるようにすることやそのボールを正確にコントロールして受けることは必要です。ただ、それだけでは不十分で、パスを受ける選手は誰と繋がった状態になっておくべきなのか、それをパスの出し手や周りの選手が認識できるのかということも必要だと思います。

ボール保持者に対して自分でパスを受けるためのサポートをするのは誰か、その選手に対してのサポートをするのは誰か、その選手までボールが届いたときにどのような状況になるか(どのようにアクションを起こすべきか)、これらをチーム全体で無意識に行えるようになると、判断スピードが上がり、相手より先にアクションを起こしてポジションを取れるようになると思います。多分、今のマリノスはそういう状態になっているのではないでしょうか。

ミシャのようにこうしたアクションの連動をパターン化して反復練習させるのが手っ取り早い方法ではあると思います。ただ、リカルドはそうしたパターンを作るのではなく、その場に応じて相手を見て、状況を把握して、判断するというスタンスを取っているように見えます。

公式を1つポンと渡されて問題を解くのと、解答例をいくつか受け取ってそれを参考にしながら問題を解くのとでは、後者の方が正解を導き出すためにかかる時間がかかりやすいのと同様に、リカルドの採っている方法は時間がかかるし難易度が高いという面はあります。

ただ、後者は「これがこうだからこうなる」といった具合に自分で論理を組み立てられるようになるので、きちんと習得することが出来れば自分でアレンジの仕方を考えることも出来るようになるでしょう。

それでも、リカルドがパターンを全く作らなかったかというと、昨年は飲水タイムなどで明確にポジショニングを指示して状況を改善したり、今年も6月のホーム名古屋戦(2週間半の中断明け)には縦方向のパスを受けた選手には横サポートを入れて、そこへ預けたら再び縦方向へ出ていく(要はワンツー/壁パス)という細かいアクションのパターンも作っていたように思います。なので、チームの状況によってはリカルドも明確な公式を渡すこともしているはずです。


誰かに指示する時にやり方を管理者が決めるのか、現場に委ねるのか、その割合はどのくらいにするのか、というのはどんな分野でも直面する悩みであり、絶対の正解はないものです。僕が書いた2020年、2021年の振り返りでもこの「決めると委ねるのバランス」を話題の中核にしてきました。

選手たちが自立して判断できるのであれば指導者はあれこれ細かい部分まで決める必要は無いわけです。ここ数試合、前半の途中などで明確な戦術変更がされていないように見えるのを考えると、7月~8月でチームとしてポジションの入れ替えを上手くできるようになってきたように選手たちで判断できるようになってきたと踏んでリカルドは「委ねる」割合を増やしているのかもしれません。

昨年はまだ出来ること、選手自身で判断できることが少ない分、リカルドが手を入れる場所が多くて「決める」割合も高かった分、観ている側も「今何をしたいのか」を探しやすかったし、プレーする選手も「これをやれば良いんだ」と思いやすかったのかなと思います。

ただ、一度「委ねる」割合を増やす(選手の権限を強める)ことをした後に、再び「決める」割合を増やす(選手の権限を弱める)というのは監督と選手の信頼関係を保つ上では周りが思うよりデリケートな部分のような気がします。「お前たちに任せても上手くいかないから、やっぱこっちでもうちょっとやり方決めちゃうわ」と言われて現場は良い気はしないじゃないですか。(そんな言い方はしないでしょうけど)


上手くいっている時より、上手くいかない時の方がマネジメントは大変ですし、ある程度時間をかけて積み上げたものがある中で起きるであろう課題にリカルドは直面しているのだろうと思います。徳島時代も2シーズン目は選手が多く入れ替わった中で成績も前年より落ちていって、同じように苦しんだと思います。僕はリカルドのスタイルが好きなので来年以降も彼が監督を続けて欲しいので、残り4試合を彼自身も成長して乗り越えてもらいたいです。鳥栖、札幌、マリノスとハイプレス志向の相手が続くわけですから、ここで内容を向上させられなければ、風当たりも強くなってしまいそうです。頑張れリカルド。


今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。

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