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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#26. 2020 J1 第20節 vs名古屋 レビュー&採点~

浦和にとっては長く苦しい5連戦がようやく終了。結果はホームで4敗(すべて完封負け)、アウェーで1勝と、ともすれば監督コーチ陣の首元も涼しくなりかねない結果になってしまいました。

とはいえ、内容を観てみると絶望感の大きかった横浜FC戦、FC東京戦に比べればポジティブな面も見られたように思います。アンケート結果も後ほど掲載しますが、少なからず好転している印象です。
内容が良くなっていただけに、勝ち点、せめて得点を取って選手だけでなくスタンドも含めてポジティブなものを共有できればよかったのですが、名古屋も決して悪い出来ではなく、自分たちの強みはきちんと出せましたので、そういう意味ではどちらも勝ち点3、1、0のすべての可能性があったと思います。

それでは、早速試合の流れから振り返っていきましょう。

試合の流れ

両チームのメンバーは以下の通りです。

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浦和は前節がイエローカードの累積で出場停止だった関根が復帰、さらにマルティノスがついに今季初スタメンを勝ち取りました。2トップは最近お疲れ気味かつ杉本との相性がイマイチのレオナルドではなく興梠を起用しました。

一方の名古屋は相変わらず少数精鋭の中での選手起用。水曜日の神戸戦からは右SBを宮原からオジェソク、2列目を阿部から相馬に変更した以外は同じメンバーでした。


◆名古屋の強みは流動的な前線①

名古屋はボールを持っている時はSBはボールサイドの選手だけ前に出る、ボランチは上がりすぎず中央から離れない、とスタートポジションを順守しカウンター対策をきちんととった上で攻撃を行います。

そして、先にチャンスを迎えたのは名古屋でした。
2:50に右サイドから中央の金崎を経由して左の外側に開いた相馬まで展開します。この時に相馬への対応で橋岡が外に出ていきます。これによって空いた内側のスペースへ前田が流れてきたためデンがそのままついていきますが、今度はデンがいたスペースに金崎が走りこみます。

ここは長澤が埋めに行ったことで一度は外へ追いやりますが、今度は長澤がいたスペースへ米本が走り込んでこの対応に再びデンがつり出され、デンが捕まえていた前田がフリーになってシュート。

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シュートは枠のギリギリ外へ流れましたが、試合開始早々に名古屋は前線の攻撃的な選手が片方のサイドに集結して局所的な過負荷、数的優位を作り決定的なシュートまで至りました。


試合の序盤は名古屋がビルドアップではあまり下から繋がず大きい展開を続け、その反撃をする浦和は名古屋の守備組織が整う前に前に進もうとしたため、ボールが慌ただしくピッチを行ったり来たり。
その中で浦和は右SHマルティノスの突破力で吉田豊を殴りに行った結果、9:00はライン際での1on1からマルティノスが吉田を抜き去りグラウンダーのクロス。エリア内には杉本、興梠、関根と3人が飛び込み、興梠の華麗な身のこなしからシュートを放ちますが、ここはJ1屈指の守護神・ランゲラックが右とにシュートストップ。

リプレイで観返してみると抜かれた吉田のカバーに丸山がつり出されたので、ニアの杉本に中谷、中央の興梠にオジェソクがついてファーの関根はフリーだったため、興梠がクロスをスルーする余裕があれば関根がゴールネットを揺らすことができたかもしれません。

たらればを言っても仕方ないですが、両チームとも試合開始から10分でそれぞれ決定的なチャンスを作り出しました。


◆浦和の原則が見えるビルドアップ

11分を過ぎたあたりから両チームとも非保持ではブロックを作り、保持では相手の出方をうかがうようになり試合のテンポが落ち着き始めます。
そして、このあたりから徐々に浦和のビルドアップでの狙いが表現され始めました。

浦和のビルドアップの原則は次の通りでした。

◎ポジショニング
1) 名古屋の2トップに対して3vs2を作る
→2CB+橋岡or宇賀神orエヴェルトン
2) 2トップの背後に人を置く
→長澤は出来るだけ下りずに2トップの背後を取る
3) SBとSHは縦のレーンで被らない
→どちらが内でどちらが外でもOK。どちらが前でどちらが後ろでもOK。お互いがスペースを作りあう、埋めあう関係性

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◎ボールの動かし方
・ 2トップの脇から運ぶ
・下りてきた選手に当ててレイオフ
→1列目を超えた位置で前向きにボールを持つ選手を作る

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こうして、クリーンに名古屋の1列目を越えた位置で前向きな選手を作り、その前向きな選手からさらに前へとボールを進める形を作れたことで、浦和はビルドアップでは安定してボールを保持することが出来ました。

レイオフによって前向きな選手を作れたシーンとしては20:00~が挙げられると思います。
デンに対して前田がプレッシングに来ていて運ぶことは難しいので、相馬と米本の間に杉本が下りてきます。杉本は後ろから丸山のチャージを受けますがきっちり長澤に落として、長澤がピッチ中央で前向きな状態になりました。

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さらに、この後良かったのは前向きな長澤が米本に向かってボールを運んでいった時に、マルティノスがバックステップを踏みながら長澤との距離を保って中間ポジションをキープしていたことです。
これによって相馬と吉田はマルティノスへ意識が向くので外側にいた橋岡がフリーになりました。長澤からフリーでパスをもらった橋岡は相馬との1on1を縦に突破してクロスを上げるところまで行けています。

25:13には2トップの間の位置でボールを受けた長澤が前を向き、一気に名古屋のDFライン裏へ動き出した興梠へボールを出し、同時に抜け出したマルティノスへパスを出しますが、ここは惜しくも合わず。
中央で前向きな選手を作ったことでチャンスを作りましたが、ゴールを奪うところまでは至りませんでした。


◆マルティノスvs吉田豊

SBとSHの関係性のところでは名古屋は相馬が橋岡とマッチアップになり、橋岡とマルティノスのポジションが被らないため、マルティノスにボールが入った時には相馬はプレスバックが難しくなり、マルティノスvs吉田の構図で、マルティノスの個の能力を発揮させやすい状況が作れていました。

26:54では橋岡がスローインを入れるため相馬が橋岡にいたため、スローインを興梠→杉本とつないで外側でマルティノスvs吉田の局面を作り出し、マルティノスは見事に吉田を交わしてクロスを上げました。
ここは丸山が吉田のカバーを出来たためクロスはカットされましたが、マルティノスのこの能力が発揮されたシーンでした。

そして、41:30はこの試合の決定的なシーンになりました。
丸山のクロスを槙野が跳ね返し、関根→杉本と繋がったボールが興梠のもとへ。興梠は稲垣、米本、中谷に囲まれていたにもかかわらず、驚異的なキープ力を見せたと思いきや、そのまま一気に前がかりになっていた名古屋の背後に空いた広大なスペースへ蹴り出します。

抜け出したマルティノスは右サイドからゴールへ向かってドリブルを開始しますが、遅れ戻ってきた吉田のスライディングに接触。PKかと思われましたが、マルティノスが吉田を避けようとして飛んだのがオーバーアクションととられたのか、ノーファウル。

吉田がスライディングを途中でやめて足をたたんでいた、荒木主審は吉田の背中側から見ていたのでマルティノスのドリブルコースと吉田のスライディングしたコースがどれくらい重なっていたのか見えなかった、そもそもマルティノスのアクションが大げさに見えてファウルだと思わなかった、などなど、色々なことが考えられますが、、、、、ジャッジリプレイで取り上げてほしかったですね。

全体的には浦和のボールを持つ時間が長いながらも決定機の数はお互い互角といった展開で前半が終了しました。


◆名古屋の強みは流動的な前線②

後半はスタートからどちらがボールを多く持つということもなく五分五分な状態で始まります。
そんな中で54分に名古屋が先制しますが、その要因はやはり名古屋の前線の流動性でした。

前半は自分のスタートポジションである右サイドに留まることがマテウスがスルスルと中央、そして左サイドまで流れてきます。
そして、浦和の守備が全体的に名古屋から見て左サイドに寄った狭い局面の中でボールを受けたマテウスはエヴェルトン、マルティノスを次々とかわします。
この時に浦和はゴール前にデン、槙野、宇賀神の3人がスタンバイしていますが、前田がニアサイドにいたことによって引き付けられてしまったのか3人とも中央からニアサイドに偏ってしまいました。

狡猾なストライカー金崎がこの偏った守備体系による穴を見逃すはずもなく、マテウスがドリブルでペナルティエリアに侵入してくるのに合わせてファーサイドへ入り込みゴール。

右SHのマテウスが逆サイドまで流れてのドリブル突破と、マテウスがいなくなったことによって空いたスペースへ金崎が入り込むという名古屋の前線の流動性が見事に表現されたゴールでした。


◆原則+αの「ボランチ柏木」

59分に浦和が選手交代を行います。
杉本と関根に代えてレオナルドと柏木を投入。柏木は横浜FC戦の後半、FC東京戦に引き続きボランチに入り、長澤を右SH、右SHのマルティノスを左SHへ動かします。

ここ2試合は柏木はビルドアップ時に最終ラインまで下がり、スタートポジションに関わらずボールのある場所へ寄っていき、周りの選手が柏木の動きに合わせるという展開でしたが、この試合ではそれまで長澤がこなしていた2トップの背後、センターサークル付近でボールを待って出来るだけ前向きにボールを捌くことに専念しました。

このタスクを長澤と柏木のどちらが行うのが適しているのかと言われれば間違いなく柏木であり、チームとしての原則やタスクの中で使える選手の適正に合わせた配置で起用したと言えると思います。

73:33ではエヴェルトンが槙野とデンの間に下りて3vs2を作り、デンが金崎の脇から運ぶ素振りを見せます。これに対して金崎が早めにデンの運ぶコースを塞ぎましたが、前田に代わって入っていたシャビエルはエヴェルトンへバックパスを阻止しようとしたため2トップの間が空き、2トップの背後で待っていた柏木へとパスが通ります。ピッチ中央で前向きにボールを持った柏木は外側から走り出した橋岡と名古屋の最終ライン裏のスペースを見逃さず正確なパスが出ました。

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惜しくもボールは繋がりませんでしたが2トップの背後で前向きにボールを持つというチームの原則の上に柏木という個の能力が上乗せされた良いシーンでした。


しかし、柏木の投入や武藤と山中を加えてキャラクターの変化を起こしても決定機を作り出すには至らず。さらに85分にはコーナーキックからのカウンターでシャビエルが抜け出したところをデンがファウルで止めてしまい決定機阻止(DOGSO)で一発退場。そのままタイムアップとなり、今季ワーストの3連敗となりました。


◆浦和のビルドアップの課題

試合後にこのようなツイートもしたのですが、浦和としてはビルドアップの形が整理され、狙っていたものを表現できていたように見えます。しかし、決定機を作るまでに至らなかった要因はどこだったのかを少し考えていきます。

これまでの浦和は8月のガンバ戦あたりから、ビルドアップ時に両SHと2トップは相手のDFとMFのライン間に4人横並びのようなポジションを取り、後ろから運んだ選手からの縦パスを受けた選手がターンして前を向くか、縦パスを隣の選手に渡してその選手が前向くという手段を取ることが多かったです。

しかし、これは相手がライン間を狭めてきた時にはボールの刺しどころがなく、強引に刺し込もうとして途中で引っ掛かったり、パスの出し先を迷っているうちに相手に距離を詰められて奪われてしまったりすることが多く、このボールの失い方が悪かった時には一気にカウンターを受けて失点まで行くこともありました。

その流れからかどうかは分かりませんが、MFとDFのライン間へボールを刺し込むのが難しい時にはFWとMFのライン間で前を向く選手を作りましょうというパターンBも選択肢に増やそうとしたのではないかと思います。

しかし、パターンBが新たに追加されたことでそちらへの意識が強くなり、パターンA(MFとDFのライン間で前向きな選手を作る)よりもよりリスクの低い選択肢だったことから、パターンAを行うべき場面でもパターンBを行ってしまったように思えるシーンが散見されました。

19:00は西川まで下げたところから、エヴェルトンが金崎の脇からボールを前に運んでいきます。しかし杉本はエヴェルトンが運んでいく先(マテウスと稲垣の間)に下りてきてしまい、エヴェルトンが2トップを越えた位置で前を向けているのに、自ら前線の枚数を減らしてしまっています。

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図のように杉本がMFとDFのライン間で待てていれば、ゴール前の局面では数的同数で決定的なチャンスを作れたかもしれません。

また、2トップの背後に人を置いたことで名古屋のボランチは必ずその選手(長澤)への意識を持たないといけなくなりますので、前から下りずにDFとMFのラインの中間ポジションを取ることで後方の選手が運べた時には、相手のボランチに対して2トップの背後にいる選手なのか、DFとMFのライン間にいる選手なのかの2択を突き付けて空いてる方を使う。さらに言えば、SBとSHの関係性でDFとMFのライン間でも内側と外側の選択肢も突き付けることが可能になります。

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明確なパターンではなく、判断基準や優先順位を共有して選手自身が状況の認知、判断を行うため、やり始めたことがすぐに形になることは難しいです。ですが、マルティノスの試合後のコメントで出てきた「このように次に向かえるような内容で試合を続けていれば、あるところである瞬間から勝ちを連続して積み重ねられる流れになると思っています」という言葉は正にその通りだと思います。

理解や表現が難しいからこそそれが出来るようになるまでには苦しみますが、あるところ(原則を理解し表現する方法が会得出来た時)からは状況が好転するはずです。


採点結果

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マルティノスに吉田との1on1を用意することで彼の突破力を発揮させたり、チーム原則としてボランチが2トップの背後で前向きにボールを持って展開するものを用意したうえでボール扱いに長ける柏木を起用出来たりと、ポジティブな面は見られました。
しかし、ゴール前で決定的なプレーをしてほしい興梠が、レイオフのために下りてきたり、レオナルドが入って以降はボールが外に流れた時に真っ先に拾いに行くのが興梠だったりと、ゴールから遠い位置でボールを触るシーンが多くなってしまったのはマイナスかなと思いました。

アンケートでも

最後の3分の1のところをマルちゃんの個人技頼みになってたのは柏木に頼らないビルドアップをやりながら今ある武器、連戦中、相手がオープンで殴り合うと怖い名古屋と考えればかなり妥当なやり方かなと。

という意見がありました。
ビルドアップの構造を作った結果、表現できたのはマルティノスの突破力を活かす場面を作るというものでしたが、この試合で表現できたものに加えてこれまでの試合で取り組んできた相手の中間ポジションを取って、そこの選手に前向きでボールを持たせる選択肢も忘れずに持っておけると、ゴール前に入っていくバリエーションは増やして行けそうですね。


ボール保持の数的有利についての項目を自分は明確な原則を意識して表現できたので4点にしました。しかし、スピーディな展開や短時間でフィニッシュの項目は2点にしました。これについてはビルドアップの課題のところでも書きましたが、レイオフのために前線の選手が下りてきてしまったところが気になったからです。

自分と近い感覚かなというご意見もいただきました。

前半23分(飲水タイム直後)や後半のマルちゃんが左サイドになっていたタイミング(時間覚えてなくてすみません)この2つのシーンでは槙野が運んでいるんですが、関根やマルちゃんはその場ステイor下がってくるだったので、もったいないなと SB裏や宇賀神、エヴェが関与すれば数的有利を取れるのではないかなぁと感じました。

下がる必要がある場面とない場面の判断が出来るようになると、このご意見のように後方で作った数的有利を前にも繋げていけそうですね。


さて、ここでようやく試合のない1週間になります。
次戦はアウェーでの鳥栖戦。攻守にチーム原則の共有が体現出来ているチームが相手です。つい1月前の前回対戦から、お互いがどのように変化しているのかをしっかり見ていきたいですね。

台風が発生しており週末に日本列島への影響が出そうなので開催できるか難しそうなところですが、どこかに逸れて無事に試合が行われることを願います。(鳥栖はこの試合も延期になったらこの後に試合をぶち込む隙間はあるんでしょうか。。)

また、次戦以降もアンケートを行います。
アンケートのリンクは試合終了後にTwitterで告知しますので、引き続きご協力をお願いします。


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