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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#29. 2020 J1 第23節 vs仙台 レビュー&採点~

6-0というスコアだけでなく、その内容も今季目指してきたものがしっかり表現できたことも喜ばしい試合になりました。この試合を現地観戦された方は相当満足して帰途につけたのではないでしょうか。

仙台の現況や選手個々の能力差が云々という意見もあるとは思います。ここまではそうした相手であっても、なかなか目指しているものが表現できなかったのになんだか勝っちゃった試合や順当に負けてしまった試合があったわけです。

それに比べれば、たとえ相手が上位チームでなくともやりたいことが表現できたことはとても良いことですし、なにより個人的に試合後の食事では会話も弾んで美味しいお酒が飲めることがとても嬉しく、「勝つって大事だな」とつくづく感じました。

ということで、この試合は多くの人がわざわざ説明をしなくても「今年のレッズがやりたいことはこういうことだね」というのが分かるものだったとは思いますが、そこをしっかり確認、共有していきたいと思います。


両チームのメンバーは以下の通りです。

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監督からも選手からも柏戦の内容に手ごたえはあったことから、このまま良い部分を継続していきましょう、積み上げていきましょうということで浦和はスタメンは柏戦から変更なし。
ベンチメンバーはなかなかホームで勝てていなかったこともあり、どんな展開になっても攻撃の出力を上げられる準備ということで、CBの鈴木ではなくSHの関根を入れたのではないかと思います。

仙台の方は怪我人が多くなかなか思うようなメンバーが選べない中でクエンカが復帰したことは好材料だったと思います。
ただ、最終ラインは右SBとして起用されることが多かった柳を左SBで起用したり、2月のルヴァン杯では埼スタで2ゴールを挙げたものの、その後はなかなか出場機会に恵まれなかった田中を久しぶりにスタメン起用したりするなど、成績が上がってこないことに加えて苦しい台所事情が窺えるメンバーになったと思います。


◆攻守の切れ目が無かった先制点

仙台戦の前の金曜日に行われた定例会見の内容がしっかりこの試合に反映されていましたね。

「攻守に切れ目のない」サッカーを目指すためには攻撃でのポジショニングがそのまま守備に入れ替わったときの初手に影響します。直近の柏戦での失点に繋がったマルティノスのボールロストではこのポジショニングがきちんと出来ていなかったのでそこはきちんと意識しましょうという内容でしたが、そこがきちんと出来たことによって浦和の先制点が生まれました。

7'23に岩波が最終ライン中央で前向きにボールを持てたところから前進開始。これに対して右サイドの橋岡とマルティノスはお互いに指示を出し合ってマルティノスが外側に開き、橋岡が内側から前に出ていきます。

橋岡が内側を上がってきたことでレーンが被った武藤は入れ替わるように外へ逃げつつ、橋岡を追い越さない高さでストップ。ここには柳がついてきたため、マルティノスは外レーンでの縦方向の前進から内側へ方向転換して柳と島尾の間を狙って速いパスを送ります。
意図としては中央からハーフレーンへ斜めに動き出した興梠を狙ったのだと思いますが、このレーンにいた橋岡は自分に来たと思ってボールに触ってしまい仙台ボールに代わってしまいます。

ここで橋岡に対してのビハインドサポート(ボール保持者の後方でレイオフを受けられる角度でのサポート)の位置を取っていた武藤がそのまま第1守備者に変わります。田中の前を塞ぐことで前進を遅らせることが出来、そこへ橋岡も戻ってきたところでボールの奪回に成功しました。

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ボールを奪回し武藤が前を向いた瞬間に、興梠、汰木がそれぞれ相手選手のいないスペースを見つけて走り出し、長澤も先に前のスペースを見つけて走った2人に追随する形でゴール前へ。

大槻監督は常々「相手の陣形が整う前に攻め切りたい」と話していますが、まさに浦和が攻撃から守備への移行がスムーズにできたことで即時奪回に成功し、守備から攻撃に移行しようとポジションを取り直そうとした仙台が守備の陣形に戻す前に攻め切ったことによる先制点でした。


仙台側からすれば、田中は隣の椎橋がフリーなのでここにボールを預けられたのでは?とも見えますが、田中としては長澤が椎橋にプレッシングに行けそうな体勢になっているのが見えたので横に逃がすのはやめたのかもしれません。
あるいは、リプレイの北ゴール裏からの映像を見るとゲデスがマルティノスとエヴェルトンの間から顔を出そうとしていたので、田中はそこまでパスが通せそうだと判断したのかもしれません。ただ、マルティノスのエヴェルトンの間は岩波も前に出て行こうとしていたので、ここに出していても岩波が前向きにパスカットしていた可能性もあります。

つまり、橋岡がボールを奪われた時にはそれぞれの選手がすぐにボールを奪い返せるようなポジションを取れていたとも言えると思います。攻撃時に全体が適切な距離と角度を作れていたことで、攻撃から守備への移行がスムーズに行えたシーンでした。


ちなみに。
ボール保持者に対する直接的なサポートは
(1) 前進 (2) 継続 (3) 緊急
の3つ
と言われており、
大槻監督が定例会見で話していた「ビハインドサポート」は (3)緊急に該当します。

個人的によく参考にしているサイトにサポートの仕方に関する記事があるのでこちらを合わせて紹介しておきます。この記事ではボール保持者に直接かかわる選手のサポートが3種類、3人目の動きとしてのサポートが1種類ということで合わせて「4種類のサポート」として解説されています。

ボール保持者の状況に応じたサポートの角度や距離をイメージしながら観られると、ボール前進が上手くいかない状況に対して守備側が上手く対応しているのか、攻撃側が自分たちの首を絞めているのかがなんとなくわかるような気がしてきます。なんとなくですけどね。


◆仙台のビルドアップでの狙いと課題

仙台のビルドアップはボランチの片方をCBの間に下して浦和の2トップに対して3vs2を作り、残ったボランチが2トップの背後に立つことで浦和の2トップを出来るだけ中央に留めるようにします。

また、両サイドはそれぞれSBがライン際で幅を取る、SHが浦和のSHとCHの間を前後に動いて浦和の守備を揺さぶるという役割を担っていたように見えます。

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浦和の方はこうしてズレを作ってくる仙台のビルドアップに対して10'36に汰木と宇賀神がそれぞれ縦スライドしてズレを潰しに行きますが、この場面では汰木とアピアタウィアの距離が遠かったためプレッシャーが十分にかからずに前に運ばれてしまいました。

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浦和は一度この形でプレッシングを裏返されてからは、ビルドアップを潰しに行くのではなくミドルゾーンで構えて対応するようになりました。その結果、仙台がボールを保持する時間は増えましたが、最終ラインが前にスペースがあってもなかなか運べなかったり、SHやSBの選手がボールをもらいに下りて行ってしまったりと、浦和側からすればボールは持たれているが自分たちの陣形を崩されるほどの展開はなく、あまり脅威を感じない時間が続きました。

仙台がボール保持を持って配置を取るところまでは出来ていても、なかなか良い状態でゴールに近づけない理由は今季の浦和を観てきた人であれば分かるのではないかなと思います。
配置を取るのはあくまでもスタート地点に立つだけのこと。そこからどうプレーするかが大切です。ポジショナルプレーはポジションを取って終わりではないですよ!


◆課題克服を証明した追加点

皆さんはAWAY清水戦の大槻監督の叫びを覚えていますか?

「幅作ろう!!汰木!!幅!!」

33分過ぎだったと思いますが、右サイドにボールがある時にどんどん中央のスペースに吸い寄せられてしまって清水の選手も浦和の選手もピッチの右半分に偏ってしまった場面でした。
そんなシーンを思い返してからこの試合の4点目を振り返ってみようと思います。

49'56の西川からのゴールキックをシマオマテがラインの外にクリアします。この時にちらっと映っていた汰木のポジションはセンターサークルから左に数メートルの地点。
そこから橋岡がスローイン、武藤が落として興梠が逆サイドへボールを逃がした時には汰木は逆サイドのライン際まで移動していました。

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ボールがある場所から離れてしっかり幅を取っていたからこそ、自分が有利な体勢でドリブルを仕掛けることが出来ました。

また、このシーンだけでなく28'29の右サイドでの橋岡のスローインの際も、お互いにボールを跳ね返しあいながらの展開の中で少しずつ汰木はボールがある場所とは逆の方へ遠ざかっています。
ボールが自陣にこぼれてきた時に岩波はこれを逃さずに汰木へ大きなサイドチェンジ。トラップを足元にストンと落とすとそれをさらおうと足を出してきた飯尾をひらりとかわして一気に縦突破。ゴール前にクロスを届けてチャンスを作りました。

柏戦でもエヴェルトンからのサイドチェンジをトラップ一発で川口を外したシーンもあったように、ほんの1月前の清水戦からしっかりポジショニングを修正することで自分の強みを発揮できるようになっています。


成長が見えているのは岩波も同様です。
シーズン序盤は槙野と共にビルドアップ時にポジションを取りなおす動きがないことで、ボールを受けた時に相手のプレッシングを思いっきり受けてしまってパスコースがなくなってしまうようなシーンがありました。

自陣からのビルドアップで見事に仙台のプレッシングをひっくり返して奪った6点目は岩波の成長が見られた素晴らしい展開でした。

ゴールキックを西川→槙野→山中と繋いでいきますが、関口が山中の前を塞ぎに来たことで左サイドからの前進を取りやめます。ボールは山中→槙野→西川と戻っていきますが、この時の岩波のポジションの取り直しがとても良かったです。
山中から槙野にボールを下げた段階で岩波はバックステップを開始して、西川からパスを受けるまでに10数メートル移動しています。
このポジションの取り直しのおかげで相手選手との距離を確保してボールを前向きに受けるだけでなく、自分に対して詰めてくる石原の動きを観ながら次のパスの出し先を選択することが出来ています。

さらにもう1つ見逃せないのは、ビルドアップの段階で岩波にボールが入った時からの長澤のサポートの動きです。
石原が岩波の正面を塞ぐように立とうとしているところに対しては同じ高さに下がって継続のサポート体制を取り、岩波から橋岡に出た時には橋岡が後ろ向きでボールを受けていて背後から蜂須賀が潰しに来ているので緊急のサポート体制を取っています。橋岡に対しては関根や杉本もサポートに入っていたため、長澤自身はボールには触りませんでしたが、杉本が橋岡に対してパスを送ると長澤はそのまま杉本を追い越してゴール前まで入っていきました。

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この3連戦で鳥栖戦は後半からの途中出場でしたが、柏戦と仙台戦は連続フル出場。そして試合終盤になってもBoxToBoxで走れる長澤の運動量は素晴らしいです。

このゴールは個人的に今季ここまでで最高のゴールかもしれません。


採点結果

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出ました!今季初のQ10.試合全体の満足度がアンケート含め全員5点満点です!ホームで6-0の試合をしてくれて満足しないはずがないですね。最高です。
それに加えて、アンケート結果では非保持2項目(Q8、Q9)以外の全てが今季最高点でした。

この試合での不満点というか、もっと改善してほしいという点は、先ほども言及しましたが仙台のビルドアップに対して前向きに潰す解決案を作れなかった点です。早い時間帯でリードしたこともあって、無理に前のめりになる必要はなくなったのですが、仙台のビルドアップは配置を取ったところから何か大きな崩しを生み出せるほどの動きがあったわけではなかったので、そこでさらにラインを押し上げで前線からのプレッシングが出来たりしたらもっと良かったかなと思います。

3点目のPK獲得は仙台のキックオフがスタートになり浦和はミドルゾーンでブロックを作ったところでのボール奪取からでしたので、これも良かったのですが、そうではなく仙台のビルドアップを窒息させるようなプレッシングからショートカウンターが出来たりするとQ8、Q9の点数はもっと上がったかなと思います。


Q3については1点目の即時奪回、2点目のFKもスローインからのボールを奪われる、奪い返したらすぐに橋岡が武藤に縦パス、武藤のクロスがカットされたところにすぐにマルティノスがプレッシングとほんの10秒ほどの時間で攻守が入れ替わる中で切れ目なく振舞ってファウルを獲得したところからと、自分たちがボールを持っているから攻撃/持っていないから守備ではなく、ボールを基準に味方同士で適切な距離感を取り続けてプレーしたことで得点を奪うことが出来ました。まさに今掲げているプレーコンセプトを表現できたからこそ奪えたゴールだったと思います。

Q1は西川や岩波のキック、長澤とエヴェルトンの攻守において周囲の選手のサポートを怠らない運動量など各ポジションの選手がチーム原則の中でそれぞれの長所を発揮するシーンがたくさん出たので5点をつけました。レオナルドがあと2つの決定機も決めていたらゲージを振り切って10点とかつけても良かったですかね。

Q6、Q7は仙台が遅らせる守備をあまり出来ていなかったこともあり、浦和としてはスペースを見つけて一気に突くことが出来ていたのでこれらも5点満点をつけました。


「相手の質がどうだったから」という視点は別として、あくまでも「この試合で三年計画のプレーコンセプトが表現出来たのか」を評価しているので、この試合でアンケートを含めて高い点数が付いたということは、目指しているものが表現できるとこういう試合になるんだね!というのが現場だけでなく観ている人にも共有できたのだと思っています。

こうした状況になれたのは、まずはビルドアップ段階で後ろが安定して前向きにボールを出せる状況が再現性高く作れるようになったことが大きいと思います。相手のプレッシング隊に対してボランチやSBを含めた数的有利の確保と、ボール状況に合わせたポジションの取り直しのスピードや精度は高くなってきています。

興梠が試合後に「僕の考えですけど、いい攻撃ができるときは、後ろのビルドアップがうまくいっているときです。」と話していたように、ビルドアップの初手で躓きにくくなった分、前の方も安心してポジショニング出来るようになってきたように感じます。

5連戦の最中にこのようなことを思っていたのですが、今回の3連戦はお互いが最低限のことを出来ると信頼することで、それぞれが自分のポジションでの役割を全うできるという好循環があったと思います。

これは、8月後半からの槙野の急成長や柏戦、仙台戦で見せた岩波の変化もそうですし、宇賀神が入ったことで左SBが内側のスペースでボールを持った時に多少ポジショニングが怪しい場面でも宇賀神は右利きなので左利きの山中ほどボールを受けるときの体の向きが窮屈になりにくいことが良い方向に作用していると思います。


この試合の点数が次のセレッソ戦でも継続すれば素晴らしいですし、そうなっていけたときには三年計画の時に掲げたように「常に優勝争いが出来るチーム」になっているのだろうと思います。そうした過程を見届けるためにも、次節以降もアンケートへのご協力をお願いします。

最後まで目を通していただきありがとうございました。
では、また。

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