「私が私であるために。」
外の光を感じて目が覚める。眠たい。目をこすりながら、ベッドにくっついていたい気持ちを乗り越え、がばっと起きる。一杯の水をごくりと体に流し込み、ささっと着替えて、外の世界へばっと飛び出していく。いつものことだ。
最近、朝歩いているときは、あたりを無心で眺めている。昨日までの重りが空っぽになった瞬間だからこそ、感覚を研ぎ澄ませて歩きたい。でも、相変わらず暑い。
そもそもなんでこの道を歩いているんだろう。いつもの道で安心するからかな。駅までの最短の道のりだからかな。人が少し行きかうからかな。それともこの道を歩くことは、運命として決まっていたのかな。その場所以外にも道はいくらでもあるはずなのにね。
ふと、手を耳に当てて塞いでみる。外からくる音の代わりに、内の音が耳でこだまする。はっきりと息の声が聞こえる。歩く音が足から伝って響く。心臓がどくんどくんと音を立てて今日も動いている。
耳に手を当ててふと思う。中に潜んでいる音を、どれくらい聞けていただろう。聞いてほしいと叫んでいる心の声をどのくらい拾っていたのだろう。
音が全く聞こえていなかったわけではない。音が聞こえても、どこかで蓋をしてしまって、何事もなかったかのように見ないふり。外からやってくる音に気を取られ、現れた声ばかり追って、行きつく先は疲弊駅。
私は本当の意味で自分をそっと包めていなかった。そう思う。崩れ落ちそうになる前に、自分を失ってしまう前に、そっと声を聞けることができてよかったのかもしれない。
内の音を取りにいこう。静かな声に耳を傾けよう。私が私であるために。
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