キャラクタービジネス

僕は常日頃自己プロデュースについて考えている。

BAD HOPのKawasaki Driftと言う曲がある。先に断わっておくが、この稿の主題は音楽の話ではない。この曲は2018年のHIPHOP業界を席巻した1曲だ。彼らは川崎池上に生まれ育った8人のMCからなるグループで、貧困・ヤクザ・ghetto育ちといった背景をレペゼンしている。

川崎区で有名になりたきゃ 人殺すかラッパーになるかだ

というT-Pablowの一節は記憶に新しい。

また先月、梅田サイファーがこの曲をサンプリングして、OSAKA ANZEN UNTEN(大阪安全運転)という曲をリリースした。
彼らはBAD HOPとは違い、ナード系のHIPHOPアーティストである。RHYMESTERに憧れ、SOUL'd OUTを聞いて育ち、未だに毎週土曜に梅田駅前の歩道橋で円になってサイファーをする。そんな彼らが先月、初めて全国に流通するアルバムを出した。その中に、このOSAKA ANZEN UNTENは収録されたのだ。

大阪!大阪!安全運転
大阪!大阪!安全運転
大阪!大阪!安全運転
大阪!大阪!安全運転

というHOOK(サビ)にそのスタイルは前面に表れている。ウルフルズの大阪ストラットというゴリゴリのJ-POPから「大阪!大阪!」の箇所をサンプリングしている点も彼らのバックボーンが透けて見えてきて面白い。
この曲に関してはまた別稿で考察したい。

今回の主題は自己プロデュースの重要性についてだ。僕は大学1年の時にこれに目覚め、ここ数年はひたすら自身のブランディングを積み重ねていった。

先ほど例示した2曲は、自己プロデュースの成功例だ。
アーティストにとってのパブリックイメージは生命線とも言える重要なものだ。かの天才・川谷絵音は世間では未だにベッキーの人、センテンススプリングの人と思われている。「センテンス~」発言はベッキー発信なのにね。悪いイメージはなおのこと世間から消し去りにくい。
BAD HOPはKawasaki Driftで、それまでの「T-Pablowが所属するZEEBRA子飼いの若手クルー」から「川崎をレペゼンしてトラップでギャングスタラップをカマす日本の最先端クルー」というイメージを作り上げた。
梅田サイファーは、全国初流通の円盤で、改めて自身の立ち位置を「BAD HOPの対極だけど『ラップが上手いだけ それ以外何か必要なんだっけ?(peko/マジでハイより抜粋)』」という開き直りで示してみせた。

これはアーティストに限った話ではない。

新しいコミュニティに入り込むとき、既にそこにいる人たちに如何に第一印象を胸に刻み込ませるか、というのは誰しもがもっと考えるべきだと思う。
新しく中学・高校に上がるとコミュニティは刷新される。誰もが手探りの中、クラスや部活動を通して友達作りに精を出す。
大学に進学したらなおのことだ。サークル・アルバイト・ゼミで、「ヨッ友」に代表される上辺だけのコミュニケーションが必要になる機会も増える。だいぶ年上の先輩という新たな難敵も現れる。しかも、同級生だけで内輪でワイワイしていればよかった中高生時代と違って、彼らとは今後の人生長きにおいて密接に関わる間柄なのだ。
…社会人はまだよく分からないが、たぶんコミュニケーションは大事だろう。たぶん。まあ結局はどこまでいっても人と人だし。

つまり、初めて会う人たちに鮮烈な印象を残すためには何をすべきか、というところを考えなければいけない。大学1年の秋頃、この考えに至った。
中高が大学系属の中高一貫校出身で、大学入学後もしばらくは高校の友達と遊ぶ機会が多かったため、大学に入った当初は何も考えていなかった。

僕は、まず「自分のテーマソング」を宣伝した。
何かあるたびにSPYAIRのサムライハートを歌い、よく歌う奴がいるな、という印象付けを行った。
ひとつのイメージを付けさせることで、周りの人のバンド、音楽、カラオケといった関連した話題の時に自身の立場を明確にしてスッと話に入り込める。この作戦はかなり意味のあるものだったと思う。
選曲としては
・よく聞いている/歌い込んでいる
・アップテンポ
・途中でコールアンドレスポンス/掛け声がある(Hey!Hey!の部分)
・自分の音域に合っている
の四点を意識した。

さすがに一本槍だと飽きられてしまうかもしれぬと危惧したので、大学2年になってからは、サムライハートとCreepy Nutsの助演男優賞の2本立てでお送りした。この曲もHOOKで観衆との掛け合いがある。我ながらいい選曲だと惚れ惚れする。

このように、自分の専門分野を作り、ポジショントークを行うことでスムーズに会話を行うことができると気付いた。
この場合の専門分野とは「自身が造詣深く語れるのみならず、周りの人も『この話題ならこの人』と太鼓判を押すトピック」のことと定義したい。

その後は、専門分野を広げていく作業を行った。趣味をひたすら周りに周知していくのだ。

ラジオが好きだ。
僕は中学入学以降、深夜ラジオを週に30時間ほど聴き続けている。あまり聴いている人がいないだけに、聴いている人同士で変な仲間意識を持つ傾向にある。自分からラジオ好きを公言することで、同じ趣味を持つ人を引き寄せることができる。

ラーメンをよく食べる。
どこに需要があるのかさっぱりわからないが、インスタでひたすら寸評とともに食べた写真を上げている。それでもやはり反応があると嬉しいもので、新しい情報を紹介して他人を巻き込むことの楽しさを感じられる。
知り合い以外はフォロバしないストロングスタイルを貫いているせいでフォロワーが増えない。インスタグラマーは人の投稿を見たいからではなく、相互フォロワー獲得のためにアカウントを探しているのだと感じた。

巨人ファンだ。
堀内政権時代から応援し続けている。いちばん長続きしている趣味かもしれない。
野球の話はどこでも通用する。弊害としては、例え話の野球に占める割合が増えすぎてしまったせいで野球に興味のない人を置いてきぼりにしてしまうことだろうか。
これは骨の髄まで野球が染み込んでしまったせいで治せる代物でもない。まあ知らない人が悪いんだ。

こんな要領で『専門分野』を増やしていくと、自分に付随するキャラクターがどんどん増えていく。他にも将棋、お笑い、下北沢、乃木坂などいろいろとある。また、話題の守備範囲が増えることで、より多くの人と会話が弾むようになる。
あとは場面に応じてこのキャラクターを着脱していくだけだ。

大学2年のはじめの頃、ひょんなことから「エセ関西弁、けっこうそれっぽく話せるキャラ」を会得した。これがなかなか便利だった。
このキャラは話題という概念を超えている。喋り方自体にフォーカスしたものなので、どんな話題でも対応できるという優れものだ。
少し話題に困ったら
「でも自分あれやんなあ?関西出身やと一人暮らしやろ?俺絶対できひんもん、えらいもんやで」
とか抜かしておけば多少場が持つという荒業だ。
でも、すぐ賞味期限が来た。数ヶ月でこのキャラを脱いだ。今はクローゼットからたまに取り出す程度しか使っていない。
関西出身者のラジオを聴く中で、イントネーションをそれっぽく寄せることが出来たことから生まれた産物だ。関西人の皆々様を馬鹿にする意図は少ししかないのでご容赦いただきたい。

時を同じくして、フリースタイルラップができるようになり、積極的にキャラクター化した。
元はと言えば、大学1年生の時に高校の同級生にバトルを仕掛けられて惨敗したことに端を発する。負けず嫌いと言葉への探究心から、いつか彼に勝ってやると心に決め、風呂場や行き帰りの道端で練習に励んだ。数ヶ月すると、なんだか出来るようになったので、キャラクターのスタメンに名を連ねるようになった。
きっかけとなった彼と12月に遊んだ時に、大門から渋谷まで一緒に歩いた。その時にフリースタイルを仕掛けたら勝てたのでその時点で当初の目的は達成できた。
また、ラップは何も道具がいらないというのが最大の利点だ。飲み会、面接、暇つぶしと場所時間人数を問わず酷使している。その結果、相乗効果でどんどんスキルアップしている。もちろん未だに現役キャラクターで、なんならクリーンアップを張っている。

また野球の例えを使ってしまった。さすがにクリーンアップくらいは許してほしい。
先日知識が広いことの例えで「よく知ってんな、小坂(誠)だな」と言って変な空気にしてしまった時は少し責任を感じたが、今回は知らない人が悪い。
(※クリーンアップ…打順の3,4,5番の総称。チームでいちばん打力のあるグループを指す。
小坂誠…元ロッテ・巨人のゴールデングラブ賞常連のショートの名手。現楽天守備走塁コーチ)

話が逸れてしまったが、とにかく言いたいことは自己プロデュースの重要性についてだ。
最近、学生時代頑張ったことを問われる機会が多い。僕はこの文章に書いたようなことをギュッと纏めて話している。

備忘録も兼ねてこの文章を書いた。今回は妙に描写が丁寧だと感じた方もいるのではないか。いたとしたらこれは僕自身の就活のためだからというのが正直なところだ。
誰かの生きる上での助けとなることができたなら、それは素敵な副産物だ。

#コラム #エッセイ #キャラ #自己分析 #就活 #自己プロデュース

ありがとうございます!!😂😂