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あるSL蒸気機関車のおはなし

はじめに

これは、4歳の子供にせがまれて、寝るときに聞かせたお話です。電車や車が大好きで、電車か車のお話をしてくれと言われ、作ったお話です。同じようなお子さんがいらっしゃる方、もしよければ参考にしてください。

大人気だったSL機関車

その町は朝から大賑わいでした。なぜなら、今日はこの町にSL蒸気機関車がやってくる日。今までは、どこに行くにも歩いていくか、ゆっくりしか走れない車や馬車でしか遠くに行けませんでした。

でも今日からは違います。

遠くまでかっこいいSL機関車に乗っていけるのです。ポッポーと白い煙を吐きながら真っ黒なかっこいいSL機関車が駅にやってきました。たくさんの人が乗りました。

おじいちゃんにおばあちゃん、ママやパパ、子供たち、中には生まれたてのような赤ちゃんもいました。子供たちは目を輝かせて、駅に停まったSL機関車をじっと眺めていました。

SL機関車は、毎日毎日、同じ時間に同じ駅にやってきて、たくさんの人を乗せて走りました。

時がたってある日

何年も何年も、気が遠くなるほどの回数、SL機関車はその駅に来ました。人々は嬉しそうに乗って、自分の行きたい場所に行きました。
最初は満員だった車両も、少しずつ人が減ってきました。地下鉄ができ、自分の車を買い、人々はSL機関車に乗らなくても遠くまで移動できるようになりました。

時が経って、SL機関車は4~5人の乗客を乗せて走るようになりました。それでもSL機関車は、毎日同じ時間に同じ駅にやってきて、人々を乗せました。

ある日、車掌さんがやってきて、いつもよりも一生懸命身体を拭いてくれました。
「残りの1カ月、一緒に走ろうな。」
ーああ、もう走れなくなるんだなあ。ー

そうです、あと1カ月でSL機関車と線路は無くなってしまうことになったのです。
最後の日が決まってもSL機関車は毎日走り続けました。同じ時間に同じ駅に来て、待っているお客さんを乗せて走りました。

最後の日

いよいよ、最後の日がやってきました。SL機関車は、いつも通りに走り続け、とうとう夕方終点へと向かいました。
すると、終点の駅がなにやら騒がしいです。
そこにはたくさんの人がいました。みんなが拍手でSL機関車を迎えてくれました。
「おつかれ~」
と手を振ってくれた若い男の人は、かつてSL機関車に乗るときに走って転んで大泣きした男の子でした。その男の人は3歳ぐらいの男の子を肩車していました。
「長年ありがとう」
大事そうに男の人の写真を持つおじいちゃんが言いました。その写真に写る人は、初めて走った日、一番前の列で必死にSL機関車の写真を撮っていた男性でした。

SL機関車が終点に停車すると、大きな花飾りをかけてもらいました。そうして、ひと時そこにいて、車庫へと入っていきました。
車掌さんと数人の人がSL機関車の中と外を念入りに確認して、ガシャンと音がすると、車庫もSL機関車の中も真っ暗になりました。
SL機関車は初めて走って日のことを思い出していました。
ーああ、楽しかったなー
SL機関車は、人々のきらきらした目を思い出しながら、ゆっくりと眠りにつきました。


それから・・・

なんだか音楽が聞こえます。
おいしそうなにおいがただよってきました。
ふとSL機関車が目を覚ますと、目の前には見知らぬ景色が広がっていました。白や黄色の小花がところどころに咲いた原っぱ。きれいな青空。人々の笑い声が聞こえます。

SL機関車の中に入ったり出たりして忙しそうに動き回っている人もいます。

「本日オープンしました機関車カフェです!!よろしくおねがいします。」
少し離れた通りでは、若い女の人が道を通る人にチラシを配っています。

しばらくすると、4人の家族がやってきて、SL機関車の中に入っていきました。4人が席についてしばらくすると、4人の前に料理が並びました。
「こちら、特性お子様ランチです」
「こちらは、マウンテンオムライスです。」
4人は楽しそうに話をしながら食事をして、しばらくすると帰っていきました。

その後もたくさんの人がやってきて、食事をしては笑顔で帰っていきました。

ーみんな、いい顔しているなあ。うれしいなあ。ー

SL機関車はレストランへと生まれ変わったのです。
もう走ることはないけれど、もう遠くには行けないけれど、これからも人々の笑顔をみることができる・・・。そう思うとSL機関車は幸せな気持ちでいっぱいでした。

おしまい


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