P.S.エイミー
―――意識潜航深度888メートル。
敵性霊を検知。漆黒の深海を見透すと、蠢く触手が見えてきた。
ZZZZMMMM……! 岩礁の間を迫りくるのは、山のように巨大なタコだ。ぐにゃぐにゃと触手を伸ばし、墨を吐き散らして周囲を塗り替えている。
「ワオ……デビル・フィッシュね。まさに穢れた悪霊だわ」
甲冑じみた潜水服を纏った少女は、目の前の光景を解析しつつ、周囲に自我固定呪符を散布していく。取り込まれたらおしまいだ。
「プシュキン、どう。誰かいる?」
少女の傍らに浮かぶウサギ型イマジナリ・マスコットが答えを返す。
《ああ。あのタコ野郎の内部に一人いるぜ。取り込まれた拝み屋だな》
「ふむ、まずは一人ね。行ける?」
《あの程度ならば、理論武装で問題なし。ちゃっちゃか行くぞ!》
「了解! サイコ・シフト!」
《プシュキン》が潜水服に収納され戦闘モードに変形! 単眼独角の精神的甲冑と化す! 四肢にエゴがみなぎる! これが深層意識戦闘用理論武装《犀玄佛(サイ・クロプス)》だ!
「江湖衛己(エゴ・エイミー)推参!」
VORRRRRRRRRRR! エイミーは背部ブースターから薬理推進剤を放ち、深層意識海中を突き進む!
「SHSHSHHYYYYY!!」
大ダコが怒り狂って触手を伸ばす! エイミーは吼え猛る大ダコの眉間めがけて、恐るべき威力の螺旋回転飛び蹴りを見舞う!
「悪霊退散! 《念動駆龍蹴撃(サイ・クロン・キィーック)》!」
KRAAAAAAAASH!!
「AAAARGHHHH!!」
大ダコは断末魔の叫びと共に雲散霧消! 周囲を覆っていた墨も消え、深層意識海域は一応の平穏を取り戻す。
「AMEN(エイメン)……!」
エイミーは十字を切る。だが……奥にまだいる。この大ダコを操っていた、さらなる大物が。
《拝み屋の意識を回収したぜ》
「肉体に戻してあげて。ここから先はもっとヤバいはずよ」
エイミーは《犀玄佛》を纏ったまま、暗黒の深淵を見下ろした。
【続く/800字】
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