【つの版】ウマと人類史EX01:古代馬種
ドーモ、三宅つのです。前回の続きです。
近代史を追うのもここらで一区切りとしましょう。ここから本題に戻り、ウマと人類の関わりについて掘り下げて行こうと思います。
紀元前3500年頃、人類はおそらくウクライナ付近で野生のウマを家畜化し始めました。当初は食用や運搬、荷車牽引用でしたが、前2000年頃にスポークつき車輪が発明され、軽快な二輪戦車(チャリオット)が開発されると、ウシより脚の速いウマが牽くことで人類は卓越した機動戦力を手にします。そして、ついにはウマそのものにまたがる技術を身につけはじめました。
しかし、騎馬遊牧民だけがウマを用いたわけでもなく、軍事用にしか利用されなかったわけでもありません。まずは世界各地の古代社会におけるウマについて振り返って見ていきます。
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中近東馬
厳密な意味でウマの品種が定められるのは近世からですが、中央アジア・トルクメニスタン原産の「トルコマン種(ターク種)」は、数あるウマの品種のうち特に古いものです。有名なアハルテケやイオムドもこれに属し、大宛(フェルガナ)や烏孫(ジュンガリア)から漢代のチャイナにもたらされた天馬や汗血馬も、トルクメン種の先祖のウマではないかと思われます。ウクライナや北カフカースで家畜化されたウマは、欧州やアナトリア、中央アジアやモンゴル高原、イラン高原へと広がっていきました。
古代の記録によれば、ニサはザグロス山脈にある肥沃な平原で、現イラン西部のハマダーン州ニハーヴァンド付近に相当します。この地に産するウマは「ニサ馬」と呼ばれ、最高の名馬とされました。ミタンニやアッシリアはこれらの地域からウマを輸入して戦闘に用いましたが、この地に勃興したメディア王国は北方から襲来した騎馬遊牧民スキタイの影響を受けて軍事力を強め、バビロニアと同盟してアッシリアを滅ぼしました。メディアを滅ぼしたペルシアも騎馬遊牧民の戦力を用い、インダス川からエジプトに至る広大な地域を征服し、スキタイと戦っています。その後も歴代のイランの王朝は騎馬遊牧民を戦力に取り込み、騎兵によって有名でした。
トルクメン種に続いて現れた品種が、アラブ種とバルブ(ベルベル)種です。アラブ種はアラビア半島やその周囲の乾燥地帯、バルブ種は北アフリカに分布します。ヒクソス以後の古代エジプトやイスラエル王国は軍馬をアナトリア南東部のクエ(キリキア)から輸入していましたが、次第に各地へ定着して飼育されるようになり、遅くとも紀元前3世紀のポエニ戦争の頃には北アフリカ出身の騎馬遊牧民や騎兵が活躍しています。ウマは乾燥や寒冷には強いですが暑さや渇きに弱く、ベドウィン(遊牧民)たちは品種改良を重ねて砂漠に適応したウマを作り上げたのです。イスラムの大征服や十字軍などにより、アラブ種とバルブ種はさらに広い地域へ拡散していきました。
古欧州馬
北アフリカからジブラルタル海峡を渡った彼方、イベリア半島には、数万年前からウマが生息していました。旧石器時代のウマの子孫が現存するかは定かではありませんが、イベリア半島は古代から優秀な軍馬の産地として重んじられました。南からはバルブ種やアラブ種、北からはケルト系の馬が持ち込まれて混血し、南部ではアンダルシア、北部ではアストゥルコンなどの品種が形成されています。アンダルシア種は近世欧州においては最も優れた馬と讃えられ、各地に輸出されました。なおポルトガル産のアンダルシア種は1966年から「ルシターノ」と呼ばれるようになっています。
ヨーロッパ大陸へは、東方から何度もウマがもたらされました。ウマを最初に家畜化したと見られるヤムナ文化は、同時代の隣接する球状アンフォラ文化や縄目文土器文化にウマの飼育や利用を伝えています。青銅器時代から鉄器時代にかけて、彼らはヒッタイト、ギリシア、ケルト、ゲルマン、バルト、スラヴなどに分かれ、二輪戦車を導入し、各地へ進出していきました。
中央ヨーロッパに定着したケルト人は、紀元前5世紀頃からヨーロッパ全土へ広がり、多数の部族国家を築きました。一部はバルカン半島を通過してアナトリアにまで至り、ガラティア王国を建設しています。彼らは騎馬遊牧民ではありませんが大いにウマを利用し、戦車や騎兵を用いてギリシア人やローマ人、スキタイと戦いました。彼らやゲルマン人の用いたウマは、のちのヨーロッパにおける様々なウマの先祖となっていきます。
古蒙古馬
モンゴル馬は、中央アジアおよびモンゴル高原を原産地とする小柄でずんぐりしたウマです。野生種であるモウコノウマ(蒙古野馬、タヒ)に似ていますが遺伝上の繋がりはありません。この品種は北アジア・中央アジアおよび東アジア一帯に広がり、西暦4世紀末以後に日本列島(倭国)にもたらされたのもこのウマです。体格は小さいですが頑丈で持久力があり、モンゴル帝国の拡大や東アジアでの様々な戦争において活躍しました。
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しかし、戦場に出るだけがウマの役目ではありません。兵站や日常生活を支える食糧や物資を運ぶために、ウマを駄獣(駄馬)や輓馬(荷車を牽くウマ)として用いることは古くから行われました。牛やロバよりも力強く動きが速いことから、ウマを農耕や開墾、各種農作業に用いることも行われていきます。そのためには、戦場を駆けるウマよりも体格の大きさとパワーが求められます。人類はウマの選別や品種改良を行い、大型のウマを作り出していったのです。
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【続く】
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