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【つの版】ユダヤの闇13・聖地帰還

ドーモ、三宅つのです。前回の続きです。

第二次世界大戦中、反ユダヤ主義・ユダヤ人陰謀論に凝り固まったナチス・ドイツやその協力者によって、ユダヤ人に対する前代未聞の規模でのジェノサイドが行われます。しかし、ユダヤ人は死に絶えてはいませんでした。

◆愛を◆

◆取り戻せ◆

蘇聯反猶

ナチス・ドイツを直接滅ぼしたのはソ連でしたが、親ユダヤ派であったわけではありません。古くからロシアでは反ユダヤ主義が根強く、社会主義国になってもそれは変わりませんでした。そもそも「国際的なユダヤ人による金融支配」こそは、社会主義が打倒すべき資本主義そのものです。

ケレンスキー政権ではユダヤ人にも市民権が平等に認められ、アメリカのユダヤ系銀行から多額の資金援助を受け、ボリシェヴィキ政権にもトロツキーら多くのユダヤ人がいましたから、「ロシア革命はユダヤ人の陰謀だ!」と喧伝されたのも無理からぬことです。各地でポグロムが頻発し、革命政府内部にも反ユダヤ主義が蔓延しました。

1924年にレーニンが逝去すると、ジョージア出身のスターリンが後継者争いを制して政権を握り、政敵であったトロツキーらユダヤ系の人物は追放されます。また国内でのシオニズム運動を警戒したスターリンは、1928年に極東のビロビジャンにユダヤ民族区(ユダヤ自治州)を設置し、ウクライナやベラルーシなどから多数のアシュケナジム系ユダヤ人が移住させられました。

スターリンは政敵を次々と粛清して独裁政権を樹立し、ナチス・ドイツと同様にユダヤ人陰謀論を持ち出し、ソ連とその衛星国家においてユダヤ人の迫害を行いました。多くのユダヤ人が処刑され、1940年にはメキシコへ亡命していたトロツキーも暗殺されます。彼の故郷ジョージアには多くのユダヤ人が居住しており、比較的裕福だったので、スターリンの父は「やつらは額に汗して働かない連中だ」と憎んでいたといいます。

ドイツ軍が東欧諸国から駆逐されると、生き残ったユダヤ人は再びポーランドへ集まりました。しかしポーランド人は殺されたユダヤ人から土地や財産を奪い取っていたので、それを取り返されてなるものかと激しく彼らを迫害します。ソ連でもユダヤ人の迫害が続き、彼らは英国委任統治領パレスチナのユダヤ人居住区へ大挙して「帰還」するしかありませんでした。

聖地帰還

しかし、パレスチナもユダヤ人の理想郷ではありません。イスラム教徒やキリスト教徒、アラブ系住民や既にいたユダヤ人は、欧州から大量になだれ込んできた「ユダヤ人」といきなり共存するなど困難でした。新来ユダヤ人の中には社会主義者・共産主義者も多くおり、様々な主義主張がぶつかり合って暴動やテロも発生します。

1920-21年の反ユダヤ暴動、1929年の嘆きの壁事件、1936-39年のパレスチナ・アラブの反乱により、英国の委任統治は限界を露呈しました。英国はパレスチナをユダヤ・アラブ・英領に分割する案や、ユダヤとアラブの連邦制国家とする案を提出し、事態の収拾につとめますが進展せず、ついには欧州からのユダヤ人の移民を制限する有様でした。

そうこうするうち欧州ではナチス・ドイツが戦争をおっぱじめ、英国も巻き込まれて参戦します。アラブ諸国は英国のおかげで独立したこともあり英国につきますが、パレスチナではアラブが英国とユダヤに反抗し、ドイツに味方しようという動きが起こりました(ナチスも煽っています)。ユダヤ人の間でも意見がわかれたものの、ドイツやソ連でのユダヤ人迫害が伝わると、多くのユダヤ人が英国側について戦うことを決めました。

第二次世界大戦後、ユダヤ人がナチス・ドイツ政権下で被った恐るべき迫害が明らかになると(ソ連は隠しています)、ユダヤ系移民が多く力を持っていたアメリカを中心としてユダヤ人への同情論が西側諸国(資本主義・自由民主主義陣営)に広がります。多くのマスメディアがこれを喧伝し、英国にパレスチナへの移民の再開を呼びかけました。

連合国(国際連合)による協議の末、1947年にパレスチナ分割が決議されました。英国のパレスチナに対する委任統治は終了となり、パレスチナに住むユダヤ人とアラブ人それぞれが独立国家を建設し、エルサレムを国連が管理する特別都市とする、という案です。

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当時の両民族の住民比率から換算して、地中海沿岸の平野部やガリラヤ湖沿岸、紅海のアカバ湾に港を持つ南部のネゲブ沙漠がユダヤ人国家、それ以外の部分(内陸部やガザ周辺)はアラブ国家と決められます。ユダヤからもアラブからも難色が示されましたが、ユダヤ人にとっては多少狭くても独立主権国家を勝ち取れば、ということで賛成意見が多かったようです。アラブ側は強く反対したものの、国連では賛成多数で採決されました。

ペルシアやローマならぬ国連の後ろ盾を得て勝ち誇ったユダヤ人の一部は、アラブ系住民へのテロや迫害、土地の強制収容など問題行動を起こします。恐れをなしたパレスチナのアラブ系住民は難民となり、アラブ・イスラム諸国では反ユダヤ感情が高まり、古くから住んでいた(非シオニストの)ユダヤ系住民が迫害される事件も起きました。もはや待ったなしです。

中東戦争

1948年5月14日、独立主権の共和制国家イスラエルが建国されました。暫定首都は沿岸部のテルアビブです。アラブ諸国はこれを認めず、ただちにイスラエルへ宣戦を布告しました。長きにわたる中東戦争の勃発です。

イスラエル軍3万に対し、アラブ連合軍は15万と圧倒していました。しかし欧米列強の軍需支援を受けるイスラエルに対し、アラブ側は士気も練度も低く、寄せ集めゆえ足並みも揃いません。当初はイスラエルを押していたものの次第にアラブ側が不利となり、1949年に停戦となります。イスラエルでは独立戦争の勝利に沸き、国連の分割決議案以上の領土を獲得しました。

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これにより多数のアラブ系パレスチナ人が難民となり、ガザ地区やヨルダン川西岸地区へ押し寄せます。彼ら難民(イスラエル政府に言わせれば「不在者」)の財産や土地は没収されました。またイスラエル領にとどまった非ユダヤ系住民は軍政下に置かれ、市民権は与えられたものの居住移転・職業選択などの自由を著しく制限された二級市民とされます。

ユダヤ人がドイツとかにされたことをパレスチナ人にやってるわけですが、銃弾飛び交いテロが横行する弱肉強食のパレスチナで、理想主義的な平和人道主義を振りかざすのは非現実的でしょう。是非善悪はさておき、民族国家・国民国家の建設に際してはチャメシ・インシデントです。

その後もイスラエルとエジプト・シリア・ヨルダンなどとの戦争は繰り返されますが、世界大戦と戦後の植民地独立で衰退した英仏に変わり、アメリカとソ連の両超大国が中東問題に首を突っ込んできます。一応は西側諸国であるイスラエルに対し、ソ連はアラブ諸国へ支援を行い、「ユダヤ人による国際金融支配」に対して戦うよう呼びかけたのです。要は米ソ冷戦における代理戦争です。アメリカ側にはユダヤ人がロビー活動をがっちり行い、反共・反アラブを呼びかけ、ソ連は反米・反ユダヤを呼びかけます。

妄説蔓延

スターリンが1953年に死んだ後、ソ連ではウクライナ出身のフルシチョフブレジネフが政権を受け継ぎますが、彼らもまた反ユダヤ主義者でした。世界中の反米・反資本主義者はソ連に同調して反ユダヤ主義やユダヤ陰謀論を吹聴し、マスメディアに乗ってどんどん広がります。ネオナチや反共主義者にもユダヤ人陰謀論はますます広まり、オカルティズムや胡乱なパルプ小説と結びついて支離滅裂となっていきました。ソ連が崩壊した時も当然「国際金融ユダヤ人のしわざだ」とか言われましたし、アラブやイランなどイスラム世界では、今もユダヤ人陰謀論は普通に広く信じられています。

20世紀前半には大きく衰退したロスチャイルド家でしたが、完全に没落することはなく、戦後は金融業ほか様々な事業に出資して立て直しました。現代も相当に大きな規模を誇る国際企業グループですが、世界一というほどでもありません。ユダヤ陰謀論で未だにロスチャイルド家がどうのと取りざたされるのは、単純に歴史的な知名度によるものです。
イルミナティはフランス革命の直前に滅ぼされた啓蒙(イルミネート)主義者・無政府主義者らによる秘密結社ですが、秘密結社だったので怪しまれ、「フランス革命を起こした」と喧伝されました。その後も亡霊のように名前だけが陰謀論者に繰り返され、実態のないまま恐れられています。あほらしいので詳しくはご自分でお調べ下さい。

無責任なマスメディアや出版ブーム、インターネットの発達に伴い、こうした陰謀論は際限なく膨張します。無数の人がネットで「真実を啓蒙」され、事実と異なる妄想奇説を吸い込んでは垂れ流し、批判されても逆に信仰を強めるので手の施しようがありません。カルト宗教と構造は同じです。実際カルト宗教の多くでは反ユダヤ主義や反シオニズム、逆に親ユダヤ・日ユ同祖論などが唱えられています。のめり込みすぎた人は社会から孤立し、カルト集団を作ってテロを起こしたりするので現実的にも危険です。

客観的に見るならば、1500万人に及ぶ全てのユダヤ人が一致団結して「世界を支配しよう」と企んでいる様子はありません。ユダヤ人同士でもアシュケナジムとセファルディムでは文化が違い、互いに言い争っていますし、世俗派と敬虔なユダヤ教徒の間でも、ユダヤ教の内でも大きな違いがあります。生物学的にユダヤ人種というものは存在しませんし、ユダヤ教を信仰していないけれども先祖にはユダヤ人(ユダヤ教徒)がいた人物も大勢います。

民族の定義とは難しいものですが、少なくともユダヤ教を信仰してその共同体に加われば、自他ともにユダヤ人(ユダヤ教徒・ユダヤ民族)と認められるでしょう。先祖代々ユダヤ人であるという系譜でもあればなおよく、ヤコブやイサク、アブラハムまで遡ることができれば最高ですが、系譜は例によっていくらでも創作できます。イスラエル国では世界中に散らばるユダヤ人やイスラエル十二支族の子孫を追い求め、イスラエルに「帰還」させたりもしていますが、こうした移民たちも互いに文化が違うため衝突しています。

しからば、ユダヤ人のうちの上層部、超富裕層やシオニストなどが邪悪なる秘密結社を作り、世界の人類を搾取し、闇からコントロールしているというのは本当でしょうか。それこそ貧乏人の妬みやっかみ、ゲスの勘ぐりというものでしょう。富裕層が隔絶したコミュニティを作り、格差社会を拡大させるのはよろしくありませんが、ケオス極まる現実社会において一握りの支配層が全てをコントロールするのは不可能です。全知全能のヤハウェですら、一握りのユダヤ人をさえコントロールできなかったではありませんか。

それとも、ヤハウェは妬み深い宇宙人や邪悪なニンジャで、ユダヤ人を手先として操り、世界を暗黒支配しようとしているのでしょうか。いいえ、ニンジャはいません。それは想像上の生き物です。吸血鬼や宇宙人、爬虫人類やゲッター線や光の銀河連合も存在しません。あなたは精神的に追い詰められた状態にあるようです。しかるべき機関に相談し、家族や友人と他愛もない日常会話をして、一般社会における常識を取り戻して下さい。

◆God is watching us◆

◆From a distance◆

随分深入りしてしまいました。紀元前から現代まで、数千年に及ぶユダヤ人に関するミームを追う旅は、ここで終わりとしましょう。ありがとうございました。また何かします。

【ひとまず終わり】

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