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見応えある社会派サスペンス。中国ドラマ『ロング・ナイト』(沈黙的真相)2020年

仕事が鬼のように忙しかったですが、ようやく一息つけました。評判のドラマ『ロング・ナイト』(沈黙的真相)がなければ、乗り越えられなかったかも。すごくよかったです。12話っていうのもよかった。最近は60話とか70話の中国ドラマで鍛えられていましたから、「短っ!」って感じです。

何をさておき、このドラマの導入がかっこよすぎです。呂暁霖さん演じる刑事の任玥婷、現場責任者として度胸もアクションもすごい。強くて賢くてできる女性、超好きです! 

呂暁霖(任玥婷)

ドラマは、2010年、架空の都市で地下鉄で爆弾騒ぎが起きたところから始まります。犯人を捉えて、トランクを開けてみたら、入っていたのは爆弾でなくて死体。捕まったのは有名な辣腕弁護士で、元大学教授張超。訴訟ではたった1回しか負けたことがありません。その元弁護士&大学教授が死体を地下鉄で運ぶってだけでも怪しいのに、自白はすばらしく筋道が通っています。できる任刑事、当然疑います。

予想どおり、裁判が始まると張超はいきなり自供を覆し、無罪を主張。彼は犯行当日遠い北京でのアリバイがありました。捜査はストップ。妙な展開を始めたこの事件に、曲者の厳良刑事(廖凡)がやってきます。任刑事とはかつて仕事で協力した仲。厳刑事は特のやり方で捜査をするので、周りの反発を受けますが、任刑事のサポートをうけつつ、爆弾騒ぎ事件の背景にあった、10年ほど前の自殺事件にたどり着きます。

法学部大学院生だった侯貴平(陸思宇)の不審な死。彼の元恋人李静(譚卓)は、2003年、検察官になったばかりの元同級生江陽(白宇)に再調査を求めます。最初は成り行きで再調査を始めたものの、証拠不十分や検死報告の改竄などを知るうちに、法の番人としての職務に目覚めて事件にのめり込んでいきます。

譚卓さんといえば、実話ベースの映画『薬の神じゃない』でポールダンサーを演じたステキな役者さん。

それから白宇(バイユー)さんは、以前見た華版シャーロックみたいなコメディミステリードラマの主役でヒゲがすごくかっこよかったです。今回はヒゲなしだったので最初誰だかよくわかりませんでした。それぐらい役柄にピッタリの演技です。

白宇さん演じる江陽が、正義感で突っ走って冤罪事件を明らかにしようとする中で、仲間になっていくのが実直すぎて左遷された刑事(趙陽)や実利的な検視官(田小潔)。彼らの友情がなんともいえず心温かいし、彼らの努力がことごとく地方で利権を分け合うボスとその手下たちに踏みにじられ、関係者が殺されていくのが辛いです。

このドラマを見始めたとき、思い出したのは同じ頃に中国の田舎の学校であった実際の事件です。中国の田舎は毎日通学する手段がないので、小中学校や高校でも、遠方の子どもたちは泊まり込みになります。そんな寄宿舎を管理するはずの男性教師が、女子学生たちを日常的にレイプしていた酷い話。

でも、このドラマはもっとひどい政治絡みの事件で、地方の警察が役人や企業家と癒着していてひどいです。江陽たちが事件を立証できそうな証拠をつかむたびに、証人が殺されたりいなくなったり、警官にもみ消されたりします。中国あるあるな状況。

というわけで、2003年からスタートした江陽たちの冤罪事件の捜査と、2010年の爆弾騒動事件の捜査がリンクしてドラマは進み、時代の移り変わりも反映しながら、刑事たちの人間ドラマが展開します。12話と適度な長さのこともあり、最初から最後まで見ごたえがありました。

もちろん気になる部分もあります。たとえば譚卓さん演じる李静の立ち位置が微妙。彼女が江陽に再調査を依頼して、その結果、彼がのめり込んでいったのに、その後の李静はわりと江陽と距離をとっています。ドラマのクレジットでは主役級の位置にあるので、てっきり後半に彼女が活躍するのかと思っていましたが、最後までそれほど出番なし。

代わりに最後になって、超絶協力的になるのが夫役の張超。最初は大学教授として保身に走りがちだったし、李静との恋愛がもとで大学をやめた後、弁護士になったあとも、江陽の事件では結構基本的な失敗をしています。全体的に慎重な態度で、江陽にもあまり協力的じゃなかった彼が、最後の最後で李静の反対を抑えて、メインの協力者になるのが若干不自然。

あと、呂暁霖さん演じる任刑事も最初の厳良刑事とのバディものっぽい感じから、厳良刑事個人に比重が偏っていって、ドラマの最後は厳良刑事の英雄譚っぽくなってしまっています。ちょっともったいないです。このドラマは原作があるらしいので、もしかするとドラマにする段階でエピソードを端折ったのかもしれません。原作が気になります。

そして、個人的に一番気になったのは、ドラマの終盤が「清廉潔白な江陽検察官の死をムダにしない」「侯貴平の冤罪を晴らす」部分だけに焦点があたったこと。確かに、このドラマの主役は江陽検察官だし、侯貴平の両親のために冤罪を早く解決しようとするのは、親至上価値観の中国的にめちゃくちゃ大事なのもわかります。

わかるけど、わかるけど、外国のいち視聴者として、地方ボスの被害者になった女性たちの存在がちょっと軽視されてると思わずにはいられません。彼女たちはただの証人じゃないし、不幸な被害者で済ませられるのもつらい。

ともあれ、満足度の高いドラマだったことは間違いないです。このドラマがシリーズものだと知ったので、他の2作『バッドキッズ』や『バーニングアイス』もみたいし、原作もあれば読んでみたいです。

余談ですが、任刑事や厳良刑事の上司たちがいい役人すぎるのは、中国ドラマ特有のつっこみ待ち部分なので、苦笑いしつつスルーが「定石」。地方レベルの役人や警察には悪人がいてもいいけど、中央や上層部の官僚たちは清く正しいってのが、中国ドラマや映画の政府の検閲を通るためのルールなので。『破氷行動』もその他のドラマも全部そう。

あと、中国ドラマでは、警察(公安)がすばらしい仕事をしないだめ。警察より優秀な探偵は、現代中国に存在できません。というわけで、舞台を海外にしてジレンマを問題を解決したのが『唐人街探偵』シリーズとのこと。ドラマ『紳士探偵L 』の舞台が中華民国時代のフランス租界にあるのも、そういうことでしょう。こんな風に裏読みしつつ、中国ドラマや映画を見るのも、また楽しみだったりします。

邦題:ロングナイト(原題:沈黙的真相、The Long Night)
原作:長夜難明(紫金陳)
主演:廖凡、白宇、譚卓、寧理、黄堯、趙阳、田小潔、呂暁霖ほか
制作:中国(2020年)12話



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