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昭和の歴史と天才棋士の話。『中の精神』呉清源


この本は、昭和囲碁界最強といわれた呉清源九段が、87年の波乱の人生を綴ったもの。『東京新聞』と『中日新聞』に「この道」として連載されていた文章をまとめたそうです。

桐山さんの『呉清源とその兄弟』が出たときに、ものすごく期待して読んだのに、少々肩すかしをくらったので、勢いあまって購入しました。『中の精神』を呉九段がまとめるときに、協力したのが桐山さんということで、桐山さんの呉九段に関する記述の多くは、この自叙伝に依っていることがわかりました。

だからこそ、桐山さんがその後まとめた『呉清源とその兄弟』では、呉清源九段ご本人のインタビューに忠実すぎて、彼の言葉に引きずられすぎて、呉九段本人が見えにくくなっている印象を受けてしまいました。

『中の精神』は、さらっと読めば本当にさらっと読めてしまうのですが、呉九段の生い立ちや背景、現在の活動を知っている人が読むと、ものすごく奥が深い言葉の積み重ねになっています。

呉清源九段は、1914年に中国福建省で生まれ、その後、北京で暮らしているときに、日本人の囲碁棋士に見いだされ、わずか14歳で来日し、プロになって大活躍します。お兄さんは明治大学に留学して、卒業後は「満州国」の官僚になります。呉清源が結核で療養中に、日中戦争が始まります。彼と家族は「敵国人」とみなされて辛い日々が始まるのです。

私も囲碁はできない、それほど囲碁界についても知らないので、最初は呉九段の言葉の意味するところが表面的にしか理解できませんでした。でも、慣れない日本で、自分ががんばって家族を養っていかなければいけない不安はわかる気がします。戦前は紅卍字会、戦後は璽宇と宗教に救いを求めるのは、結局そういうことなのかなと。

この本と一緒に、江崎さんの『呉清源』を読むと、そのふわりとした柔らかい呉清源九段の言葉の裏にあるものが、伝わってきます。ぜひ、2冊まとめてどうぞ。



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