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マリメッコの創業者アルミの映画。『ファブリックの女王』フィンランド、2015年。

マリメッコといえば、私にとって北欧のおしゃれなデザインの代名詞みたいなブランドです。その創業者の伝記映画なら、さぞかし華やかで楽しい映画かと思ったら、全然違いました。

『ファブリックの女王』の監督は、マリメッコ創業者アルミ・ラティアを知る生き証人(初期のマリメッコの役員だったそうです)。なので、本人を美化することなく、自分の知るアルミを私たちに教えてくれます。

アルミは戦争で弟3人を亡くし、夫との間には子沢山なのに、自分は失業。夫の買収したオイルクロスとプリントファブリックの会社に仕方なく入社するも、アメリカの同業企業がフィンランドに進出してくるということで、夫の会社も危うくなります。

そこで、アルミはプリントした布を個人向けに売ることを思いつき、友人のデザイナーにデザインを依頼します。モダンでカラフルなデザインの布は評価されますが、斬新すぎて売れません。そこで1951年、アルミたちは洋服をデザインして売るための会社を設立します。

まだ、洋服の既製品がなかった時代。カラフルで着やすいマリメッコのデザインは大人気。1956年には海外にも輸出し、アメリカ大統領ケネディ夫人が愛用したことでマリメッコの服はアメリカでの知名度も獲得していきます。

ただし、アルミの私生活を映すシーンはいつも灰色です。布を染める工場の暗さ、夫と過ごす自宅の暗い照明。たまにしか出てこない子供。北欧の街の太陽の光の少なさ。男尊女卑の時代に、会社をワンマン経営するアルミには苦労がのしかかりますが、それを共有できるパートナーはおらず、いるのは社員や家政婦。彼女の仕事を支えきれない夫です。

この映画は、アルミを主人公にした演劇をつくるという形で話が進むので、最初と最後、そして途中の何回か、監督と主演女優がアルミについて語りあうシーンがあります。アルミは企画力や押しの強さはあるけれど、ビジネスに対しては臆病で、いつもアルコールや浮気や浪費で自分をごまかさずにはいられません。これでは、夫や子供たちとの関係が良くなるはずはありません。

女性社員たちのとの関係も創業当初から少しづつ変わっていきます。アルミは基本的に小心で、嫉妬深くて、気まぐれでわがまま。愛されたいけれど、他人を愛することは苦手なようです。まわりはそういう「アルミ」に合わせているだけで、愛されているとは言い難い。

だから、会社が大きくなって、成功しても「寄ってくるのは他人だけ!お金の欲しい奴らだけ!」と一人嘆くアルミには、すごくリアリティがあります。生きていくために創業せざるを得なかったアルミは、アイデアのある女主人。それが時代の波に乗って、大きなブランドを作れたけど、商売なんていつ頓挫するかわからない不安の中で、占い師に頼りだします。

もし、彼女の弟たちや工房が戦争でなくならず、戦後も家族に囲まれて助け合っていたら、きっと大好きな海を見ながら、自分の工房を切り盛りして、無難な一生を送ったかもしれません。

彼女はブランドで稼いだお金で、「マリメッコの村」という女性たちの共同体を夢見ました。それは男性優位の社会で会社を経営し、男性たちと競争し続けなければならないストレスから、守ってくれるお城と仲間が欲しかったのかもしれません。

邦題:ファブリックの女王(原題:Armi elää! /英題:Armi Alive!)
監督:ヨールン・ドンネル
主演:ミンナ・ハープキュラ
制作:フィンランド(2015年)85分

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