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人を自由にしてくれるものは何か。映画『マラソン』韓国、2005年


見終わって一日たっても、まだ幸せな映画です。
いろんな人に勧めたくて、特に母親な知り合いたちに勧めたい映画です。
レディースデーの料金で見ちゃったりして申し訳ないくらい。1800円払っても、ちっとも惜しくない、多分、今年一番の映画でした。久々にパンフを買ったし、できればもう一度劇場に見に行きたい映画です。

人が輝くってこういう感じかなあと思わせられるような、きれいな映像の丁寧な積み重ねとちゃんとした演技がとても心地よかったです。光があって、躍動感があって、肢体がのびのびとして、表情が豊かで。ユーモラスで切なくて、でも元気が湧き出てくる映像。
韓国の伝統画のようなすばらしい映像美とかなんとか言われていた映画『酔画仙』の景色よりも、春川マラソン大会の映像の方がわたしにとっては素敵でした。あの風景を実際に見てみたいです。

自閉症の子供を抱えた母親の希望が、「息子が自分より一日先に死ぬこと」ってセリフが重くてリアリティありました。20年も苦労しているから、笑顔で出てくるセリフだけど、同時に母親なら当然持っている息子に対する所有欲もわかりすぎました。だって同じ内容を言うなら、「息子より一日だけ長生きしたい」って前向きなセリフでもいいわけで。

途中で母親の考えは「息子より一日だけ長生きしたい」に変わるけれど、やっていることは前と一緒。保護、干渉。保護、干渉。マラソンを押し付けないと言いながら、結局息子にマラソン禁止を押し付ける。こういう母親の行動も、ものすごくリアリティがある。最後に母親を振り切ってくれたのは息子だけれど、その振り切り方がとてもやさしい。監督の脚本がとてもやさしくて救われます。

健常者の弟との関係も、疎遠になった父親との関係も映像でさりげなくさらっと見せられて、その巧さに感心しつつ、しんみりしてしまいます。だって、母親が自閉症の子供の世話を完璧にしようとするのは、別れた夫へのあてつけの側面も大きいから。母親が頑張りすぎる反動で、健常者の息子への配慮がなおざりにされてしまうのもリアリティがある。おそらく実際にこんな家庭があれば、この映画の家族のようにハッピーエンドにはならない場合がほとんどじゃないかとも思う。でも、だからこそ、この映画のハッピーエンドは心に響く。実話ベースといわれても、ちょっと信じられないくらい。

マラソンコーチと自閉症の息子との交流は、もう本当におもしろくて感動的で。なんというか、典型的な「韓国」っぽい頑固で、面倒くさくて、かわいい男性キャラクターで。とにかく1つ1つのシーンがよかった。笑えた。

あんまりにもよかったので、その後、DVDを購入しました。保育園時代の娘は、何度もこの映画を見ているわたしの横で、「やさしいおにいちゃんのDVD」と呼んでいました。すごい、ぴったりなタイトル。


邦題:マラソン(原題:말아톤)
監督 チョン・ユンチョル
脚本 ユン・ジノ
出演者 チョ・スンウ、キム・ミスク、イ・ギヨン
製作:韓国(2005年) 117分

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