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2010年代の中華的リアルの多様さがわかる『さいはての中国』安田峰俊


深センのネトゲ廃人、広州のアフリカ人村、内モンゴルのゴーストタウン、そして東南アジアや北米カナダまで広がる中国人社会を切り取った一冊。それぞれのパートがおもしろくて、独特で、日本にいると一つの方向からしか入ってこない「中国」、ステレオタイプの「中国人」像をガラガラと揺さぶってくれる好著。

14億人もいる中国だから、日本人には考えもつかない世界が無限に広がっている。でも、日本のメディアが扱うのは、あいかわらずのステレオタイプの「中国」。むしろ、今ではYou Tubeの方が多様な中華世界が広がっていて、親しみやすい動画を提供してくれています。

活字で多様な中華世界の情報を提供するには、ちょっと不利な現代。でも、そこを専門知識と取材力と好奇心で補ってくれる安田さんにファンは多い。そして、孤軍奮闘する安田さんの取材は、NHKのドキュメンタリーも後追いするものがあるほど(ただし、テロップなどに安田さんの名前はない)

経済が大きく発展している国では、いいことがばかりのイメージが先行します。もしくは、○○な部分があるから、あの国はまだまだ途上国だ……みたいな言い方もされたりします。でも、経済が発展していく過程では、いいことも悪いことも、ひっくるめて大きくなるんだというのが、本書を読むとよくわかります。そんな馬鹿なと思う人は、日本のかつての高度経済成長が、公害問題と切り離せないことを思い出せば納得いくはず。

中国で急成長しているラブドールの会社が、日本留学経験者を中心にしているのは生暖かく笑うしかないけど、中国国内での歴史問題の扱いが、中国政府の外交政策によって北米カナダまで影響を与えて、留学生の活躍で現地のコミュニティをも変質させていく状況のレポートは、なかなか読ませてくれる。蝶の羽ばたきが世界を変える…みたいでおもしろいです。

そもそも『レイプ・オブ・南京』が売れていく経緯なんかは、善意から始まったはずなのに、途中からげんなりする状況になっているし、日本人の勘違いした活動家や、ビジネス右翼的な活動家にも嫌悪感しかない抱けません。でも、そんな人たちを、善悪で断罪せず、さらっとまとめる著者の若い感性は嫌いじゃありません。


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