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アメリカンドリームを求めて。映画『ミナリ』アメリカ、2020年


1980年代、韓国系移民家族の物語。リー・アイザック・チョン監督の両親の実話がベース。彼らが韓国からアメリカにやってきたのは、『KCIA 南山の部長たち』の頃。軍事独裁政権でデモやったら軍隊に鎮圧される韓国なら、毎年3万人がアメリカに移民するのもわからないでもないです。現代で例えるなら、ミャンマー軍事政権みたいな感じか?

主人公のジェイコブは、韓国で思うように生きられず、アメリカンドリームを夢見ています。でも、ちょっと危なっかしい。カリフォルニアでうまくゆかず、アーカンソー州にやってきます。先住者が逃げ出した(拳銃自殺)誰も買わない土地をジェイコブは購入し、一軒家でボロボロのトレーラーハウスに住みます。竜巻や蛇、水の問題、息子の心臓病などなど、そこら中にフラグがたちまくってて、見ているのが辛いです。

妻のモニカは、朝鮮戦争で父親や兄弟姉妹を亡くし、シングルマザーの母に育てられたしっかりものの女性。楽観的すぎるジェイコブは、いつも事後承諾を迫るので喧嘩ばかり。仕事に不慣れなこともあって、ストレスがたまっていきます。私はこの映画では、モニカ視点でしか見れません。

そんなモニカを心配して、ジェイコブは韓国からモニカの母スンジャを呼び寄せます。女で一つでモニカを育てた肝っ玉かあさんらしく、料理もできず、韓国女性にしては型破り。彼女は韓国から芹(ミナリ)を持ってきて、水辺に植えます。どこでも育って、役に立つ芹は激動の時代の朝鮮半島を生き抜いたスンジャの知恵の象徴のよう。

でも、娘のアンも息子のデビッドもアメリカ生まれなので、おばあさんらしくない祖母とは馴染みません。母モニカにとって、祖母は大事で、韓国人アイデンティティを支えてくれる存在だけど、アンとデイビッドにとって祖母はエイリアンのよう。実際、祖母は脳卒中を起こして身体が不自由になり、トラブルメーカーになってしまいます。

祖母の起こした大惨事で、家族は死の淵まで落とされてしまいますが、それが結果として家族の団結をうながします。日本昔ばなし風にいうと、貧乏神を追い出さずに仲良く暮らした……的な。唯一残った祖母のミナリを手に再起をはかり、地元に住む白人たちとの距離を縮めて、家族は韓国人としてではなく、アメリカに根付くことを選択したところで映画は終わります。

英語より韓国語が多い作品なのに、アカデミー賞では外国語映画ではなく、アメリカ映画としてノミネートされ、祖母を演じたユン・ヨジョンが助演女優賞をとって話題になりました。ブラッド・ピットがこの映画に関わっていることなんかも、いろんな意味で今現在のアメリカを象徴するような作品です。

ただ、1980年代が舞台なので、どうしても家族の価値観が古くて、夫の身勝手を妻は飲み込むしかないとか、娘も息子もいるのに、クローズアップされるのは息子だけという韓国っぽさが辛いので、いい映画だし、いろんな人に見てもらいたいと思いますが、好きかと聞かれるとちょっと答えに困ります。

邦題:ミナリ(原題:미나리、英題:MINARI)
脚本・監督:リー・アイザック・チョン
出演:スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、アラン・キム
ネイル・ケイト・チョー、ユン・ヨジョンほか
制作:アメリカ(2020年)115分

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