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季節外れの怪談

 朱美と修はスズキの隼GSX1300に乗って美山街道を南下している時だった。どこまでも続くアスファルトの山道、九月だと言うのに気温は30度をキープして停車すると地獄のように暑い。昼間はツーリングのライダーがたまに追い越していくか軽トラが前を走っているくらいで人影はほとんど見かけなかった。前方は秋晴れの遠山に入道雲が横たわっていて、まだまだ夏を忘れさせないでいる。

 二人乗りは90分に一回休憩した。アライのヘルメットを単車につないで鍵をかけ、道の駅のレストランへ入って行った。修はお好み焼きとかけ蕎麦を朱美は山菜うどんと唐揚げを食べた。食後、修はソフトのチョコ味を食べるので朱美はお土産コーナーを見て回った。見慣れない野菜もあった。山芋のような形で食べたら牛蒡だった。後で聞いたら牛蒡なのだそうだ。

 朱美はマスカットが欲しかった。去年ここで買ったマスカットが忘れられなかった大粒で茎も青かった。甘くて美味しい。「葡萄売りのおばあさん今日は来ないですよ」どうも定休日らしい。残念だった。

 30分の休憩が終わると朱美と修は隼に跨って帰路を急いだ。夕方になる前に山間を抜けたいからだ。去年と同じ風景がどこまで続いた。「修、ここはさっき通った道じゃない?」「そんなことないだろう。まっすぐ162号を抜けて行ってる。後一時間くらいで京都市街を抜ける。しっかりつかまってろよ」私は風景に誘導されているようで気味が悪かった。

 早く帰りたくなった。夕日が見えてきているのにまだ市街に入れない。「修、やっぱりおかしいよ」「朱美疲れてるみたいだから、左手のゲーセンで休憩しよう」一時間も走っていないのにまた休憩をした。無人のゲーセンは自販機と小さな駐車場と水洗トイレは付いていた。どこかに防犯カメラは付いているはずだがその気配はなかった。またまたおかしいことがある。真っ暗になって蛍光灯が点灯した。

 「修、夜になるの速くない?」「そう言われたら、そうかも」「それにこのゲーセンのBGMうるさいよ。何の曲だろう、聞いたことないよ、早く出ようよ」急にバシバシ バタンと言う音を立てて蛍光灯以外のすべての電源が止まった。朱美と修は慌てて外に出た。入口には「五時に電源が切れます」と書いてあった。「ええ、お昼済ましてからまだ一時間のはずだけど」スマホの時計は確かに17時だった。私たちは恐怖のあまり急いでその場所を立ち去った。

 夢中で走った。やっと市街に入ったようだ。マックが見えてきたのでここで休憩することにした。お客もたくさんいてやっと戻って来た感じだった。スマホの時計をみると18時40分だった。 それほど走ったようには感じなかった。

 修はさっきのゲーセンが気になってスマホで調べるとどうもそのあたりは墓地らしい。修はマックの店員にツカサというゲーセンの場所を尋ねた。「ここからは道が変わっていますので行けないはずです。墓地の裏に去年まで有りまして今は物置になっているはずです。お客様が見られたのはツカサの看板だけだと思いますよ」朱美はマックもよく見たら客が引いていたことに気づいた。朱美も店員に尋ねた。「貴方もグルなんでしょ」「わかりますか?(笑)」

 朱美と修は急いで隼に跨り一号線に出た。八幡まで来ると空気はいつもの生温かさに戻った。

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