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優しさは書く人の武器になる

株式会社エクシングのクリエイティブ・ディレクター、野村です。

知識とか、センスとか、発想力とか。文章を書いて誰かに伝えるために必要なことはいくつかあるけれど、いちばん大切なのは優しさだと思います。

僕もいまだにやらかしますが、テキストの表現で最も多い失敗は、「書いている人だけがわかるように書いてしまう」というものです。そんなメールや資料をもらうことはないですか? コピーライティングの世界でも、うまいことを言いたい、この仕事でほめられたい…そんな邪念がはたらいて、自分がわかっていることと読み手に伝わることがだんだん離れていってしまうことがあります。

クライアントに提案するだけなら、「このフレーズ、実は〇〇と□□をかけ合わせたダブルミーニングになっております」と得意顔で補足することもできます。少しは感心してくれるかもしれない。でも、世に出てゆく広告にそんなコメントを載せる場所はないのです。ないですよね?

ここでいう優しさとは、読み手である他人の状況や心情を推し量ろうとする力のことです。この書き方で伝わっているか? どこかに置いてきぼりになりそうな人がいないか? 誰かが傷ついていないか? そろそろ長すぎて退屈していないか? 読む人を思い浮かべてそういう気配りをするのは、やっぱり優しい人じゃないと難しい。理想を言えば、目の前にある原稿用紙やモニターを180度回転させて「読む側から書く」というイメージが求められます。

読む人の立場になって書け。よく言われることですが、簡単ではありません。自分というフィルターを通さずに世界を見るのは原理的に不可能だからです。何十年も前に自転車に乗れるようになったあなたは、自転車に乗れない人の身体感覚や恐怖心をまったく同じように想像することができるでしょうか? 

手法はさまざまですが、おしなべて優れたコピーには、クライアントが伝えたいことを知らない人にしっかり届けてあげたい、できるだけ読む人に負担をかけずに受け取ってもらいたいという優しさがあります。おっと、「優れる」と「優しい」に同じ文字が使われるのは偶然でしょうか。かつてお世話になった先輩たちも、このnoteを共同で担当している高沼さんも、これまでに出会った才のあるライターは優しく謙虚な人が多かった。自分もそうありたいものです。



去年の秋に初めてスピッツのライブに行きました。「他のバンドのようにステージからみなさんを『おまえら』なんて呼べないし、『おまえ』と言われるのも嫌」という趣旨の話をされていたのが印象に残っています。



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