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教育委員会に訴えられた暴力教師

1.1.お金とビールの家庭訪問

当時の恒例として4月の学期はじめに、家庭訪問というのがあった。

自転車で生徒に誘導してもらって、各家庭を放課後に回るのだ。

居間で母親と15分ぐらい生徒をネタに雑談し、勉強部屋なども見せてもらい、また次の生徒の訪問先へと自転車で向かうのだが、

大ていの親は、別れ際に贈答品を渡すのが慣例になっていて、その日の終わりごろには、私の自転車のかごが贈答品で一杯になる。

中には、贈答品の代わりに、お金を渡そうとする親もいる。チリ紙に包んだお金を渡そうとする親もいた。貰い物は拒まずの主義の私は有難く頂いた。

そんな中ある家に上がり込むと、いきなりビールが出てきたのには驚いた。仕事中だからとお断りしたが、それでも勧めるので、では一杯だけと言っていただいてしまう節操のなさ。

その後もどんどん注ぐので、調子にのって飲んでしまい、結構いい気分になってしまった。確かその日の最後の訪問先という安心感もあったと思う。

後日、このことがとんでもない事態を招くとはその時は想像だにしなかった。

2.授業中「出ていけ!」

数学の授業中だった。(免許外で数学も教えていた)後ろのほうが騒がしい。○○が何やら横の生徒としゃべっていてうるさい。私は授業中に私語されるのが何より嫌で、気になって授業に身が入らないのである。それと見つけるとすぐ注意できないのがまた性分で、しばらく悶々とした後、やがて辛抱たまらず暴言や暴力が出てしまうといういつものパターン。

自分が中学生の頃、理科の先生で私語をしている生徒を見つけると、すかさず持っていたチョークをいきなり投げつける先生がいて、当時はそれがとてもイヤでその先生も嫌いだったが、今ではその先生の気持ちがよく分かる。

○○は横の生徒と何やらもめているようで、この時は「○○!うるさいぞ!」とか言って割と早く注意した。

注意後のシーンとした中で、しばらくしてまた○○は隣としゃべり始めた。

たまらずもう一度「○○!」と名前だけ言うと、○○は静まるどころか何やら小声でぶつぶつ文句を言っている。ここで普通の先生なら生徒の言い分を聞いて上げるのだろうが、『生徒になめられてる』という強迫観念が動きだし動揺した私は「うるさいから出ていけ!」と思わずやってしまった。

なおもぶつぶつ文句を言いながら、○○は不服たらたらで椅子を乱暴に押し下げ廊下に出て行った。私は唖然と見つめる周りの生徒の反応を見る余裕もなかった。

翌日の放課後、授業が終わり、ほっと自分の机のうず高く積まれた本や書類の山に隠れるようにしてお茶を飲んでいると、ふと校長室のドアが開いたかと思うと、校長が手招きして私に来てくれという。

かしこまって校長室のソファーに腰を沈めると、何やら言いにくそうな校長の表情。

「実は教育委員会から連絡があって・・・・」
と教育委員会というい切り出しの言葉に不安はいや増し、校長の口から出た言葉「ビール」に私の不安と後悔と怒りにも似た感情は頂点に達した。

数学の時間に自分の子に授業を受けさせず廊下に出した上、この先生は家庭訪問の時に酒を飲んだ、と訴えられたらしい。

酒と聞いた瞬間、私の中で「自分で出しておきやがって・・・」と猛烈に反発する気持ちがあふれてきたが、そこは校長の手前、抑えた。

後で冷静になってみると、父兄が酒を出したことを責めればせめるほど自分の職務放棄を際立たせることになる。ましてカッとして生徒を廊下に出してしまったことは言い訳のしようがない。

後日、校長と二人○○の家に謝罪に行ったが、文句たらたらの生徒同様、親は厚顔で恥知らずのそれだった。

当時は自分の非はそれなりに認めはしたものの、それをとんでもない親がいるから気をつけなくちゃ、ぐらいにしか多分思っていなかっただろう。

今思えば、これは自分の潜在意識の歪みの部分が自分の前に出来事として出たのであって、決して他人事ではなかったのである。







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