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淡路島には最古のお好み焼(=肉天)が今も残っていた_2

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「クルーズ」がある湊地区を離れ、福良地区に向かう。
福良地区のお好み焼店の多くは夜だけの営業だが、1店だけ昼も営業している店がある。
それが「まりも」だ。
早じまいすることがあるとネットの情報にあったが、何とか営業時間内に滑り込むことができた。

まりも

昭和53年(1978年)創業の老舗で、この店にもメニューに肉天がある。
にくてん(豚)とにくてん(スジ)だ。
ご年配の女性が店主で、息子さんが手伝っておられる。
最初、店主の圧が強めなので驚いたが「私は福良弁(漁師言葉)が強いから」と言われ、口調は別にして親切に色々教えてくださった。
漁師は船の上の仕事なので、ちょっとしたミスが漁獲(売上)に直結するし、時には生死に関わるので、漁師町はどうしても言葉がキツくなる。
優しく伝えていたら死ぬかもしれないからだ。

にくてん(スジ)を焼いているところ

肉天はスジ肉が基本とのことなので、それをお願いした。
焼き方は、薄く生地を広げたところへキャベツを一掴み、青ネギを少し、味付けして煮て、細かく刻んだコンニャクを少し、紅生姜を少々散らし、予め煮て冷蔵していたスジ肉をのせる。
神戸市ではスジ肉とコンニャクを一緒に煮たものをぼっかけと呼び、お好み焼に加えるが、淡路島では別々に煮るのが主流だった。
高砂市のにくてん調査でも老舗は別々に煮ていたので、別煮がより古い調理法で、後年、一緒に煮て簡略化したものが神戸市のぼっかけと推測できた。
スジ肉の上から繋ぎの生地を少しふりかけ、ひっくり返してしっかり焼き、ソース(メーカーは秘密)、味の素、青海苔、鰹節で完成だ。

「クルーズ」の肉天と異なり、玉子が使われない

店主曰く「福良地区ではどこでもコンニャクを入れるし、最盛期にはお好み焼店が10店ほどあった。年寄りは今でも『にくてん焼いてくれ』と言う。子供も食べなくはないが、どちらかといえば大人が酒を飲みながら食べる料理だ」とのこと。
またコンニャクは混ぜ焼きにも入れるとのこと。
「クルーズ」の店主は自分が好きだからと言っていたが、7店回った結果、コンニャク入りは淡路島の老舗共通の流儀であることがわかった。
これは「クルーズ」の店主がウソをついたのではない。
店主のお母様がお好み焼にコンニャクを入れていたのは、淡路島の食文化であると把握していなかった上、ラーメン店など他業態とは異なり、お好み焼店の店主は他店のお好み焼を食べないため、他の店でも入れていることを本当に知らなかったのだ。
同様の事例は食文化調査を行っていると頻繁にある。
証言は大切だが、重要なのは材料、作り方などの事実で、それらを基に仮説を立て、裏取りを行い、やっと真実が見えてくるのだ。

いちばん

昭和61年(1986年)創業、女性店主一人で営業している。
ここから3軒は夜専門になる。
昔ながらの漁師がいなくなっても、肉天は酒を飲みながら食べる料理であることは変わっていないのだ。

昼間は置き看板も営業中の札も出ていないので飲食店とはわからない

品書きにはすじ焼と書いてあるが、それが昔の肉天で、由良地区では洋食と呼ぶこともある(後述の「うがい食堂」参照)と店主は述べた。
焼き方は「まりも」とほぼ同じで、天カスが入る点のみ異なる。
生地、キャベツ、青ネギ、コンニャク、紅生姜、スジ肉、天カスの順に重ね、上から生地をかけてひっくり返す。
天カスが入る以外「まりも」と重ねる順序が全く同じだ。

「まりも」に比べてキャベツがやや少なく、青ネギが多め、天カスが入る

提供時には二つ折りにされ「昔は二つ折りだったのよ」と言われた。
片面には生地があるけれど、下の写真を見てもらえばわかるように、もう片面は具が貼り付いているだけ。
現在ではここへ玉子を貼り付けて剥がれ落ちないようにするが、昭和30年代以前の玉子は病人のお見舞いに持って行くほど高価なので使えない。
開いたままだと具が剥がれ落ちるので、二つ折りにして脱落しないようにした。
現代のクレープと同じ考え方だ。

具は圧着によって貼り付いているだけで、繋ぎの生地がかろうじて表面を固めている
二つ折りは具が脱落する悲劇を防止するためだ

雑貨店兼駄菓子屋兼お好み焼のような店では子供たちが肉天を食べ、酒を出す店では大人が食べていたとのこと。
つまりこの店は後者になる。
昔はスジが安かったから肉天に使えたが、スジの中でも安いスジ。
今は随分高くなったと言われた。
また、
・大人向け、子供向けを含めると肉天を出す店は福良地区に20軒くらいあった。その頃の人口は10,000人を超えていたけれど、今は半分よ」とのこと。
・店主(70代)が子供の頃は5円か10円で、生地、キャベツ、青ネギだけで、コンニャクすらオプションだった。
・好いた焼という料理もあり、焼いた生地に砂糖や醤油を加えただけだった。
と色々教えてくださった。

また、他の客がモダン焼を注文したので作るところを見ていると、豚バラ肉をヘラで細かく刻んで炒め、キャベツ、青ネギ、天かす、紅生姜、調味料、水で濡らした蒸し麺、ウスターソースで全体を炒め、焼そばを作った。
おおぉっ!!と驚いていると生地を薄く伸ばし、魚粉を振って、その上に先ほどの焼そばをのせるではないか!
完全に神戸モダン焼で、焼そば三原スタイル、焼そば呉スタイルのルーツとなる焼き方だった。
やはり淡路島のお好み焼は神戸市の影響を強く受けているのだ。

生地の上にのせられた焼そば!これは神戸モダン焼だ。

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