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Archibusを日本の建築・経営・ファシリティマネジメントに用いる課題

 Archicbusの活用可能性に驚いた私が、実際に日本のファシリティマネジメントに用いる課題について感じていることをメモしておきたい。
2022.11.02

1.Archibusの概要

 Archibusは世界全体では、800万人のユーザーがおり、企業の「不動産・プロジェクト・スペース・資産」らを管理するSAASである。もともと SpaceIQ 社が開発したもので、日本では代理店(アイスク ウェアド社)がローカライズを行い、代理販売している。
ARCHIBUS社はボストンにて1982年より事業を開始した。Archibusは事業計画や会計、施設管理といった作業とそれらに関する情報の総合プラットフォームであるため、使い方は三者三様といったものである。そのため一般的にはIWMS(統合ワークプレイス管理システム)で理解されるが、見方自体も見る人によって多様であり、CAFMとも呼ぶ人もいる。

 IWMS(Integrated Workplace Management Systems) という言葉は2004年ごろに、当初GartnerのMichael Bellによって定義され、単一のテクノロジ プラットフォームとデータベース でアセットマネジメントやスペースマネジメントなどといった複数の機能ドメインの主要コンポーネントを操作・統合する ソフトウェアプラットフォームの立ち位置を画一した。

 またCAFMは、企業や組織のFMに関する日常業務を追跡、管理、および報告するツールという理解で使われることが多い。日本で開発されたいくつかのソフトウェアも含めて、実際にはIWMSと同様にスペース管理、保守管理、データ分析、経営管理、などを行うことが可能なものも多いが、言葉の通りファシリティマネジメントの各実務を、ある程度個別的にコンピュータでの作業効率化によって支援する意味合いが強く、分野横断的な取り組みの統合プラットフォームとしてのIWMSの理解とは若干違いがある。この点を踏まえるとArchibusが国際的に使われている状況はIWMSとしての立ち位置で間違いないと考えている。

 海外では会計強化ツールの視点で使うことも多いそうだが、もちろんきちんと包括的に使いこなした場合である。日本で一般的な会計ソフトと比較すると、一目瞭然ではあるが、CADやBIMなどの資産のジオメトリやプロファイル情報を、実際に存在する物理的な関係性に近いまま取り込んでおくことも可能なことや、IoTなどでデータ化したものを積極的に取り込める点で、より広範な分析・企画に適したものといえるだろう。

2.Archibusを利用する

 実際にArchibusの使い方について見聞きしてみるとかなり有効な情報統合プラットフォームであるようにに思える。
情報のベースは、企業の経営に関する事物を、
①不動産
②プロジェクト
③スペース
④資産

に分割して、それぞれにおける情報を入力・閲覧するプラットフォームであり、成熟している。これらに基づくB/Sシートもタイムリーに確認できる。また伴ってもちろん、ROAの計画要因につながるLCCやNPVについても、入力情報を整備することが確認ができるため、適切なユーザーが入ればビジョンに基づくKPI設定に大きく有効である。

 上記の入力によってカバーできる業務範囲として、Archibusのホームページには下記7つの項目がある。

①Space Planning Management
②Building Operations & Maintenance
③Sustainability & Risk Management
④Workplace Services
⑤Capital Project Management
⑥Real Estate Property
⑦Asset Management

 最初は私もかなり疑ってかかっていたが、実際ソフトウェアを少しばかりハンドリングした範疇において、確かにそれぞれのマネジメント職種を業務とする人によって、必要な機能はそろっている。

3.組織の体制調整や人の成長が必要

 ここまで機能がそろっていることについて、有効性が世界で注目されてから何年もたった今やっと気づいた私であるが、同時に実際に使いこなせる企業や人員が日本にいるのかというところに疑問を思った。

 これ確実に使いこなす人材になるため、私の主観では、
・経営の知見
・建物の設計、施工、維持管理・修繕に関する技術的知見

をベースとして、
・デジタルツールを使いこなす能力
・プロジェクトマネジメントに関する知見
・BIMに関する知見
・会計の知見

が必要になるように感じている。

 しかし今、Archibusに注目する”ファシリティマネージャー”たちの実際の状況はどうだろうか。多くの企業で”ファシリティマネージャー”の立ち位置を考えると、インハウスでファシリティマネジメントを行う施設部や管理部、総務部の人員も、また設計事務所やゼネコン、工務店において業務を行うFM部でも、
ファシリティマネジメント ≒ ”維持管理・修繕”
の側面が圧倒的に強い。

 どちらが原因でどちらが結果かはわからないが、学問についても多くが工学部建築学科で教えられ、またそこでは本来の全体プロジェクトマネジメントや資産の企画・構想の側面は建築家や設計士の特権業務として学んだのちに、できた建物の運用フェーズを支える知識体系としてFMが教えられている。最近は様々な書籍の出版やBIM理解の深まりにおってその状況も打破し始めていると考えたいが、この状況からもファシリティマネジメントが維持管理・修繕側面のみと考えられている状況が推測できる。
 維持管理・修繕においての実際の作業の多くはもちろんデジタルな資産ではなく、建物といった物理的なものを扱う作業であり、またそれら建物を情報化したデータも書類や紙図面としてあることがほとんどである。建物資産は非常に長持ちする者であるのに対して、私たちの生活にデータを生み出すようなデジタルツールが一般化したのが1990年代後半からのみであるので、その状況は当たり前かもしれない。

 また経営視点の優れた知見をもってファシリティマネジメント業務や監査を行う方も少しずついるが、昨今の入力する施設情報の複雑さに迅速なフォローアップができず、より抽象的なコンサルティングに進んでいく方も多いように感じる。

こうした状況では、ArchibusのようなIWMSは、お手軽なデジタル便利ツールには感じるような人材が少ないように思えるのである。

 ファシリティマネジメントに様々な情報を巧みに整備し、経営や事業を劇的に向上するためには、こうした人材を育てる仕組みや、新たな体制を作っていかなければ、より良い状態までたどり着かないように感じている。

4.私たちが加速的に追いつかない限りますます使いづらい?

 さらに危惧している点が、こうしたツールの有効性と実際のFM体制との差異が拡幅していくところである。

 前途したが、ファシリティマネジメントに用いる情報は、目下データとしてあるものでもかなり高度化・複雑化(高負荷化)してきている。また今後さらに広範かつ複雑な情報になっていくことも容易に推測できる。

 一方で、現状その人材が育っていない状況であるので、上記に伴うツールの進化があると一層差異が拡幅していく。そうならないためにも、組織体制の見直しや、人員の確保、教育の変化によって、国際標準に対して日本の状況をコンバージェンスしていく必要がある。加速的なFM業務の向上が急務だと感じている。


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