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談義⑧ 「破壊的ファシリティマネジメント」の0→1思考 -FM×建築で考える“遊休資材”と“人”の新しい出会い方-

 前回の談義⑦では、今までになかったモノの新しい関係性を作り出し、更なる価値を生み出すことが “破壊的ファシリティマネジメント(破壊的FM)”と述べた。

 事例をあげれば、Airbnbでは「空き家」というモノを「オープンな宿泊運営プラットフォーム」により、本来そこに生まれなかった民泊運営者-空き家-観光客という新たな関係性を創出している。結果としてその新たな関係性が、空き家ストックの活用・観光需要の受け皿・地域経済の貢献等あらゆる社会問題の解決を手助けしており、まさに従来にはない新たなFMと言えよう。

 今回は、私たちなりに考えた破壊的FMの0→1(新たな関係性を生み出す)についてのアイデアを論考していきたいと思う。早速であるが、その新しい関係性を生み出すスキームについて下記に示してみる。
 建築の中でも廃材や端材(= “遊休資材”と名付ける)に焦点を当て、オープンデータ(Fab OpenData(仮))を挿入することによる、今までになかった “遊休資材”と “人”の新しい出会い方と新たな価値を提案したい。

"遊休資材"と "人"の新しい関係性 Fab OpenData(仮)


1. “遊休資材”-ますます増えていく、端材・余材・廃材

 建材を作る段階(生産)、建築を作る段階(組立)、壊す段階(解体)それぞれに端材、余材、廃材と “遊休資材”は生まれてしまう。

 例えば、生産プロセスにおいては、山から伐採した丸太を板材や柱材に製材するとき、丸太の皮や端の部分など30%から40%程が端材として余ってしまうと言われている。また組立プロセスでは、型枠材のおよそ10%が、サイディング材(外壁に用いられる)は約20%が余材となり廃棄されると言われる。鉄、ガラス、アルミ…あらゆる建築資材が例外ではない。建築を作る段階で、 多くの“遊休資材”が生み出されて、今でも製作所等に積まれていたりするのである。
 
 そして解体時には、まだ使える木材、鋼材、家具といったものが廃棄され、活用されることなく廃材となってしまうことも多い。また、少子高齢化社会を背景として年々空き家率は上昇しており、現在約14%と大きな数字となってきている。これからも住宅だけに留まらず他用途にわたり、まだ活用できるはずの廃材がますます増えていくと考えられる。

 こうした建築系廃棄物は、世の中に生まれる産業廃棄物全体においても約2割を占めており、建築分野の地球環境への影響は大きいと言えないだろうか。


2. “人”-高まりつつある廃材を活かすニーズ、環境意識、ESGやCSR-

 昨今では、SDGsやサステナビリティが社会に浸透され、デザイナー、企業、あるいは個人レベルまで本来捨てられる資材を生かすような取り組みや意識が芽生えつつあると感じている。

 デザイナーレベルでは、廃材を生かしたアートやプロダクトデザインがもはや当たり前になっている。株式会社NODでは、「RECAPTURE」というプロジェクトの一環で卵の殻を活用した大型3Dプリンター家具を生み出している。
https://recapture.jp/

 企業レベルでもESG(Environment, Society, Governance)がバランスシート(投資)に対して重要なだけでなく、直接の商品価値(プロダクトバリュー)にも影響するようになってきた。またCSR(corporate social responsibility 企業の社会的責任)においても企業の利潤だけを追求するのではなく、環境や地域に対して適切な対応をとる義務があるとされている。

 個人レベルでも、パーソナルファブリケーションの発展によって、ものづくりのプロセスに積極的に関与することができるようになってきた。具体的にはDIY、ファブラボが挙げられ、ものづくりがより身近になっている。SDGsも個人レベルに浸透しつつあり、環境配慮・サステナビリティに対して関心を示す方々も増えていると感じる。


3. “遊休資材”と“人”をつなぐ-Fab OpenData(仮)-

 1, 2の背景を踏まえ、使われない“遊休資材”と、それを使いたい・活用できる“人”をFab OpenData(仮)でつなぎ合わせ、新たな関係性を生み出すスキームを提案したい。

"遊休資材"と "人"の新しい関係性 Fab OpenData(仮)


3-1.Fab OpenData(仮)とは?

 私たちが提案するFab OpenDataとは、 製作所や施工者、解体業者等から保有する “遊休資材”の情報を共有いただき、その得た情報をオープンかつデータデータ化したものである。

 後述するがそこには資材の基本情報だけでなく、①材の活用方法(活用レシピ)の提案、②材が辿った歴史・ストーリー、③パーソナルファブリケーション用のプロファイル(3Dデータ等)を付加させ、いわゆる建材アウトレットではなく、クリエイティビティを誘発し支援するような “遊休資材”と “人”の新たな出会い方を仕掛ける。

 ほぼ全ての人がスマホをもち、常に情報に触れることができる環境であることと、普段廃材や端材と馴染みのない都心部等の企業やデザイナー、個人に対しても素早く効果的に情報を提供できるように情報はオープン化する。

 また、データベース化することで管理のしやすさはもちろん、種目別や活用方法別など、受け手の検索のしやすさに配慮できる。そして将来的に蓄積させたデータベースを分析することで、ニーズ/デマンド予測に役立てることも見越している。


3-2. “遊休資材”の活用レシピ

 単なる廃材のホームセンターではない。Fab OpenDataにおいて、企業や個人にとって思いつかないようなクリエイティブな活用アイデア・レシピ(必要な材料、図面やコスト等)を付加させることで、「こんな使い方もできるんだ。」と、より “遊休資材”自体のもつポテンシャルを人々に知ってもらえる工夫を行う。そしてそれがきっかけで、普段では繋がらないはずの “遊休資材”と “人”の新たなマッチングを誘発できると考えている。

 何度か前談では参照しているが、モクチンレシピがイメージとしては少し近い。モクチンレシピでは空き家や部屋の改修アイデアを掲載し人々の改修をサポートするが、Fab OpenDataでは、実在する廃材とその廃材の活用アイデアを提案し、人々の改修をサポート+「廃材需要や活用人口の増加、それに伴う廃材ロスの減少」に新しい価値があると考えており、モクチンレシピと少々異なる点である。

モクチンレシピ


3-3. “遊休資材”のストーリー

 加えてFab OpenDataでは、その “遊休資材”が辿った歴史を記述する。どこから生まれ、どのように使われてきたか、そのストーリーを継承し、デザイナーや企業等の愛着や創作意欲を掻き立てることを目的とする。

 自分が使い古したランドセルの牛革を活用して財布などに転用させ愛着を持って使い続けるという例もある。一見するとただの廃材であるが思い出を組み込むことで、その廃材自体に付加価値が生まれ、さらなる活用を誘発することができると考えている。


3-4. “遊休資材”のプロファイル(3Dスキャンデータ等)

 パーソナルファブリケーションやデジタルファブリケーション用に3Dスキャンデータ等もオープンデータとして付加していく。
 
 現代ではものづくりが情報を介して3Dプリンターやレーザーカッターの加工機に繋がっている。廃材の3Dデータがオープンな情報として連携することで、手軽に正確に具体的な加工検討が可能となり個人やデザイナーの創作を支援する。


3-5. Fab OpenDataがもたらす新たな価値

 このように“遊休資材”と “人”の余剰とニーズに目をつけ、新たな関係性を作ることを提案してきたが、さらにその関係性がもたらす新たな価値について述べていきたい。
 結論的には、①新たな廃材ニーズの創出と、②皆さんの資材・資源に対するリテラシーの向上だと考えている。

①新たな廃材ニーズの創出
 欲しい人が買いに行くという建材アウトレットではなく、オープンデータとして発信するため、廃材自体余っていることを知らなかった人、あるいは3-2に記載した活用レシピをみて、自分の望むインテリアイメージと予算に見合うコストから探索していき結果的に廃材に巡り会う人など、潜在的なニーズを発掘できることが新たな価値だと考える。

②資材や資源に対するリテラシーの向上
 普段気にしないことがほとんどであるが、何気なく利用している家具や内装にも、伐採、生産、加工という流れが存在し、貴重な資源から生み出されている。そして使われなくなったら目の見えないところで廃棄されてしまう。Fab OpenDataでは、こうしたモノの流れを可視化し、皆さんに資材・資源に対してもっと考えるきっかけになる取り組みだとも感じている。

 あらゆる先行事例から学べるように、単純な需要と供給のマッチングではなく、新たな価値提案があるからこそ関係性がより強固なものとなり、皆さんの生活に根付いて行くのだと考えている。


4. 0→1→それから -社会に対しての貢献可能性-

 最後にさらに踏み込んで、社会的にどのような貢献ができているか視野を広げていき、その可能性を示唆したい。

 談義⑤で紹介した社会とFMと経営の関係性の図を引用して、今回の提案がどのように繋がり、どのように社会に働きかけを行なっているか述べていきたい。下記にその模式図と今回の働きかけを赤線で記載した。

Fab OpenDataの社会貢献可能性について

 空き家や建築工事から得られる “遊休資材”をデータベース化し、Fab OpenDataとして運用することで、大きく3つの社会への貢献可能性が言えるのでないか。

①廃材活用の促進と改修アイデアの支援を行うことで、高騰する建築資材の代替、改修の促進や老朽化対策と、長く建築資産を運用していく社会へと貢献できるのではないだろうか。

②オープンデータ、デジタルファブリケーションと連携したプロファイル(3Dデータ等)により、潜在的に隠れていた廃材活用の担い手を発掘・育成し、人口減少時代の人出不足問題に貢献できるのではないだろうか。

③民間企業や個人に対して、遊休資材のマッチングを推進していくことで、企業のイメージ・ブランド力や個人単位での資源に対する理解レベルを高めていくことで、結果的にサステナブルな社会への貢献が考えられないだろうか。

 FMが解決すべき課題を多く抱える現代において、私たちの考える “遊休資材”と “人”の新しい関係性がエンジンのように働き、社会に対しても貢献できる未来を目指していきたい。

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