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ビジネスを前進させるデザインの可能性を、分かち合いたい。

社会人にデザインの知見を、という想いで講師と学生が共になって日々の学びを深めているXデザイン学校。実際に学びの場にいる方々の声を届けていく、クラスルームインタビュー。第6回目はリーダーコースで講師を務める坂田一倫さんです。

坂田一倫さん
慶応SFCを卒業後、楽天株式会社に入社しUIデザイナーとしてキャリアをスタート。ウェブサービスのリニューアルやUX改善に従事。その後、UXデザイナーとしてUX戦略の設計、施策の立案から実務の遂行を担当。2016年Pivotal Labs Tokyoに入社後は、プロダクトマネージャーとしてLeanXPの開発手法を用いながら企業のDXを支援。2021年より株式会社Mentallyの創業に加わりCPO(Chief Product Officer)に就任。監訳書として『デザインの伝え方』(オライリー・ジャパン)に携われています。

現在、どんなお仕事をされていますか?

創業メンバーの一人として昨年10月に法人登記したばかりなんですが、株式会社Mentallyというスタートアップにいます。先日、日本経済新聞に記事として出ましたが、プロダクトとしてメンタルヘルスケアアプリを提供しています。まだクローズド版ながらプロダクト責任者として精力的に開発を進めています。

キャリアにも通じる、UXデザインの5階層モデル。

そこに至るまで、どんなキャリアを進まれてきましたか?

元々は楽天でUIデザイナーとしてキャリアをスタートして、ポイント何倍のバナーといったミクロのデザインや父の日特集やハロウィン特集といった特集ページのデザインを担当していました。最初はOJT研修をしながらゼロから独学で勉強を重ねていました。当時はまだUXデザインという言葉も浸透していない黎明期でしたが、自分が日々デザインしていく中で、本当にデザインがユーザに受け入れられているのか?とか、そのデザインが事業やビジネスに貢献できているか?と、ふと考えるようになりました。アウトプットの解析等しながら客観的に見てより良いデザインとは何なのか?を追求し始めたのが社会人3年目頃で、当時UXの5階層モデルが注目を浴びていました。デザインを階層的に分解すると、まず上にあるのが表層、次に骨格、そして構造、それから要件、一番下に戦略があるというモデルですが、自分のキャリアを鑑みると上から下へと辿っています。例えば商品を入れるというボタン一つにしても、そこに到達しないと次のステップに繋がらないので、どこに置くか、どんなコンテンツの見せ方がいいのか、と画面の設計が必要になる。そこで情報デザインに関心が出て考えを深めていくうちに、全体の体験を見直さなければそこに到達しないじゃないか、とUXデザインに興味を持ち始めたんです。そこでより体系的に学ぼうとHCD-Netを知って資格を取ったり、産業技術大学の人間中心デザインというコースで履修したり、自分が実務でやってきたことを体系的に学ぶというのが5年目ぐらいでした。

そこで、UXデザインの必要性や価値を自分なりに実感して、より専門性を高めていきたいというタイミングで事業会社から制作会社のコンセントへ移り、さまざまなクライアントとサービスのリニューアルや新規事業の立ち上げを経験しました。そこでサービスデザインについて視野を広げる機会も得ることができましたが、UXデザインを実務として担当していく中で生まれたのがビジネスサイドとの衝突でした。“ユーザとしてはこれを求めている、とはいえ、ビジネスサイドとしてはこういうことをすべき”とトップダウンとボトムアップで摩擦が起きるんですね。その度にユーザ視点を大事にしながらもビジネス視点を持つとどのように映るんだろう?という想いが生じ、デザイナーからビジネスサイドへシフトしていこうと考え、外資系コンサルに転職した時にプロダクトマネージャーという職種にキャリア転換しました。そこからはプロダクトビジネス側の人間としてビジネスニーズの観点からサービスの設計をリードしてきて今、自分で会社を作ってみよう、事業を作ってみようというキャリアを歩んでいます。

ビジネス側にいるプロダクトマネージャーはどんな職能ですか?

経営方針や企業戦略に基づいてプロダクトを立案したり、そのプロダクトを成長・グロースさせて成功に導く役割を担います。プロダクトオーナーとも言われますが、責任者として動きます。そんなプロダクトマネージャーへキャリア転換した時に真っ先に求められたのがリーダーシップなんです。チームを成功に導く、チームを引っ張ることが求められます。

そこでの経験がXデザイン学校の講座に織り込まれているんですね?

私がリーダーコースで担当している講座はソフトスキルを取り上げた内容がメインになっています。これは自分の経験から来ているのですが、例えばファシリテーションスキル。チームを束ねて、場合によってはステークホルダーや関係者を集めて、どういうものを作るべきなのか、メンバーを導いていくためのスキルです。そして、意思決定の方法。すべては意思決定の連続なのですが、ではどう意思決定していけばいいのか? そこにも重要な知見があるわけです。そういったソフトスキルを身に付けなければ、デザイナーという立場にあっても良いプロダクトや良いサービスを作り出せないんじゃないか、という考えに基づいて講座でそういったトピックを設けています。

ビジネスにおける、デザインの必要性。

ビジネスの学びでもあり、デザインの学びでもあるんですね。

近年モノからコトへというユーザの意識変化に伴って、ビジネスの世界でデザインが注目されました。その結果としてサービスデザインという概念が生まれます。一言で言うと無形財である事業やサービスといった“コト”と有形財である商品・製品といった“モノ”の全てを、サービスとして包括的に捉えようと言う視点ですね。デザイン思考が手法として取り上げられていた背景もあり、スマートフォンの利用が爆発的に増えたことで使い勝手ひとつが売上をかなり左右する時代、必然的にUXデザインの戦略や戦略におけるデザインの必要性が問われ始めました。ビジネスの世界で学ぶのは、ファイナンスやマーケティングといった定量的なスキルが中心になりますが、Xデザイン学校はそれをどうデザインで支援していくか、アプローチしていくかという点にフォーカスしています。

デザイナーが活躍できる領域は広がっているのですか?

いまだにデザインが道具として語られる印象も多いのですが、例えばデジタルトランスフォーメーション。そのHOWとしてデザインは存在すると思われがちなんですが、実は違うと思っていて。DXはサービスをデジタライズするだけじゃなく、自分たちの経営だったりサービスのオペレーションだったりを踏まえてダイナミックに組織をリ・デザインする必要があると思うんです。そこまで話が及んでなかったり、視野がそこまで広がってないことがまだまだ多くて。

デザイン思考を提唱したIDEOというデザインコンサルティング会社も当時はユーザ中心を唱えながら道具としてのデザインを活用していましたが、昨今はヒューマンセンタード(人間中心)の視点で経営や組織といったマクロな観点にデザインをどう適用していくか、という必要性を唱えています。私のリーダーコースもその必要性に応えるためにあると思っています。リーダーコースとして担っていくのはそういう人材を育成したり、そういうスキルを獲得してもらうことです。

構造的に事業責任者からデザイナーというヒエラルキーのもと組織って拡大したり、ものづくりの考え方は変えてもやり方は変わらないという流れがいまだに続いていますが、これからデザイナーがリーダーシップを発揮していく時には、事業責任者の下というより、対等に語り合えるコミュニケーションをして、インプットしたりフィードバックしたり一緒に考えていくというポジションを取り得ることができると思っていて、デザイナーのポテンシャルはすごくあると考えています。

コースではどんな方が学ばれているのですか?

驚くほど多岐に渡ります。IT企業で経営レベルにデザインを取り入れようとしている方や、事業会社でBtoBサービスの担当者としてサービスデザインを導入しようとしている方や、制作会社でクライアントと一緒に良いものを作っていくためにアプローチを模索している方や、デザイン組織を今からリーダーとして立ち上げようと思っている方など、本当に多様なニーズを持った方がおられて、それこそリーダーコースが求められている理由でもあるし、グラフィックやウェブデザインからキャリアをスタートしていても、課題意識がどんどんビジネス側へ寄っていく、そんな方々が多いですね。

デザインの学びとしての、ファシリテーションと意思決定。

ビジネス領域におけるデザイナーの強みは何ですか?

私がデザイナーとしてキャリアをスタートして良かったと思うのは、デザインにおいてもビジネスにおいても共通して、提供する先にユーザや顧客がいるわけです。その意識をデザイナーは早い段階から持てる。その意識は共通言語なんです、どの立場でも。経営者も自社製品を顧客やユーザーがどのように使っているか、絶対的に知る必要があるんです。だからユーザの声を届ける、ユーザ視点を維持し続けることができるというのがデザイナーの非常に良いところだと思っていて、ユーザと一番距離が近いところにいるというパワーをデザイナーは持っているからこそ、他の職業へのインプットや転換も非常にスムーズだと思っています。プロダクトマネージャーもまさにそんな観点を兼ね揃えていかないと良いプロダクトは作れないので非常に役立っていて、だからこそ私は講座にリーダーファシリテーションを内包させています。デザイナーが主導権を持ったファシリテーターとしてユーザの情報を始め、ペルソナはこうです、抱えている課題がこうです、それを解決すべき必要があります、では皆さんのアイデアが欲しいです、というデザイナーだからこその情報提供や振る舞い方ができると思うし、そこにデザイナーの強みがあります。その時点でリーダーシップを発揮しているし、すべきだと思ってるんです。

アジャイルであろうとも、何事も意思決定の連続だと思っていて。そのためのフレームワークを知るだけでもかなり進みやすさは変わります。サービスをデザインにするにあたって100%自信を持って進めることはまずないと思っていて、仮説が全ての出発点になるわけです。どういう仮説が存在するのか?という整理から始まって、じゃあ先ずはこれを検証しよう!という合意形成がないと次に進めないわけです。そこが曖昧になってしまってはNGだと思っていて、「これで行こう、この案だ」という明確な意思決定がないと全員が合意形成しにくい。さらにこの不確実な世の中では意思決定も変わっていく可能性が非常に高いので、そういったところもしっかり体系化していく必要があると思っているんです。特に狭義のデザインではセンスや主観といった曖昧になりがちな部分があるので、どういう意思決定を自分はしてるのか、見極めが重要になると思っています。

Xデザイン学校の学びの良さって何ですか?

Xデザイン学校の価値としてまずあるのが、多彩に分野の違う方と対話できる時間があるというところがフレッシュだと思います。そこで抱えている悩みを相談できたり、それに対して共感が得られたり、第三者的な意見をもらえたり、学びを多く得られると思っています。そして、私が心がけていることなんですが、“なるべく実務に生かせられるような内容”を意識しています。これを学ぶと翌週から実践できて即効性があるとか、悩んでいたことが解決されるとか、そういう場になれたら良いなと思っています。だからこそ私が扱っている内容はソフトスキルなんです。サービスのフェーズや、関わっている方々の職能と経験年数に左右されない本質的な価値提供を私は心がけています。

私にとってデザインとは、「自分の領域を広げてくれるもの」。

坂田さんにとって、デザインとは?

デザインって、自分の領域を広げてくれるものだと思っています。狭義であっても広義であっても、何かを作ったり形にしていくことがデザインの語源でもあるからこそ、デザインしていくためにはいろいろなことをインプットしておく必要があると思うんです。そうしないと応用が利かないですから。だからこそ自分の領域が広がっていく。その可能性を広げてくれるのが私にとってのデザインだと考えています。

時に熱く、時に楽しげに、大人のデザインの学びについて語っていただいた坂田さん。デザインとビジネスのバウンダリーオブジェクトになるからこそファシリテーションと意思決定が大切と教えてくれました。デザインのおもしろさは、やっぱり広くて深いです。