もやもやを見出し、かけ算の反対側になれる、デザインが楽しい。
社会人にデザインの知見を、という想いで講師と学生が共になって日々の学びを深めているXデザイン学校。実際に学びの場にいる方々の声を届けていく、クラスルームインタビュー。第16回目は現在マスターコースで学ばれている寺本裕美子さんです。
どんなお仕事からデザインを学ばれるようになりました?
私はまず新卒で社会人になってから、システムエンジニアとして働いてました。その後事業会社に転職してIT担当として仕事をしています。この先仕事をしていく中でもう少し自分の幅を広げられないだろうか?という考えでいろいろ調べていった時に、UXデザインという領域を知って、学んでみたいと興味を持ったのがきっかけです。そこで最初はUXデザインって言葉と出会ってからしばらく独学で本を読んだりして調べていたんですが、やっぱりものを作ってみないとよくわからないな……というところがあって、本を見ながらでもできなくはないと当時は思ったんですけど、それだとなかなか続けられなくて、それなら学校に行こうと思って調べてみたら社会人でも通えるスケジュールでXデザイン学校に興味を持って応募しました。働きながら学んでいる方が大半ということもあって、自分と同じ状況で学ぼうっていう皆さんと一緒に学べると思い、去年1年間ベーシックコースで学んでその後にマスターコースへステップアップしました。
ベーシックで1年間学んでみて、やっぱり自分が本とかで読んで“こういうものだ”と思っていたUXデザインがすごく狭い範囲のことを思ってたんだなというのが一番大きい気付きで。もっといろいろな範囲のことを考えないと、UXだったりサービスを考えるってことが成立しないんだなっていうことがわかりました。それで1年間やってみたんですが、自分的にはやりきった感があまり得られなかったんです。できる限り頑張ったんですけど、もっとできたんじゃないか?とか、こうできたんじゃないか?という気持ちがあって、燃焼し切きれなかったし、これで終わってしまうとまだ自分で実践できるっていう自信を持てなかった。そこで学び続けるためにマスターコースへ上がりました。マスターに上がるとまた課題が出て新たなメンバーと改めてグループワークをやることになるので、まったく違った新たな気持ちで取り組む2年目を迎えるわけですが、1年間ベーシックをやったからすごく余裕しゃくしゃくでマスターいけます、みたいなことはまったく起こらなくって(笑)、悩むことも同じように多いです。
デザインの学びは、仕事に役立ちますか?
もともとシステム開発をしてきたんですが、私はXデザイン学校に入る前に異動でIT領域の人材開発の仕事に移ったんですね。研修育成の領域に軸がずれたというのがあって今、人材開発の仕事をしているんですが、インターンシップの学生の受け入れや企画も含まれるんです。会社で働くっていう体験自体も会社によってはEmployee Experienceと呼んでいて、UXというと世間的な意味で言えばサービスを受ける側の体験、顧客に対しての体験価値という文脈で使われることが多かったりするかもしれませんが、社内の体験価値向上という点でも一緒という捉え方もできるなと思っていて、研修やインターンも同じように、対象者が本当に望んでいるものは何なのか? それをどういう手段で実現させていくといいのか? そのためにどういうことができるのか? と考えること自体はマネタイズという意味でのKPIは変わる部分はあっても共通性がすごく高いなと思うので、そんなところで学びを実務に活かせてると思ってます。
人材開発の仕事にしろシステム開発の仕事にしろ、体験価値を向上させる重要性はどの領域であっても共通してる価値観だと思うし、自分が一番大事にしていきたいと思っているので、今時点で言うとまだその体験価値が何かということを見極められなくて、発表の時に指摘されて爆発したりとかしてるんですが(笑)、でもそういうことをより本質的なところで捉えられるようになりたいし、それを届けられるようになりたいなと思ってますね。
いろいろ成立する、◯◯×デザインという方程式。
デザインを学ばれて楽しいですか?
楽しいです。デザインの学びが自分の思考の幅を広げてくれている、と思うからですね。その自由度を許容してるという表現が適切なのかわかりませんが“どういうアプローチであれいいんですよ”というスタンスでデザインという領域や先生方の考え方がその自由の幅を許容してくれるし、「自由であれ」という風に鼓舞してくれることがいいなと感じます。それに、デザインっていろんなものに対して“かけ算の反対側”になれるんじゃないかと思ってて、そういうことが楽しいですね。
それって本当に価値あるんだっけ?ということを考える大事なフォーカスポイントで、ありきたり過ぎたり、あまりニーズがないのかもしれなかったり、というアイデアを出してしまうことが発表の時に間々あるんですが、そういう時に、話してるうちに、ここに自分たち自身の思考が囚われてたから「ああ、そういう発想になってたんだ」と気付かされることが多くて、もしかしたら自由というよりも、“もっと別の角度”でと表現した方がいいのかもしれませんが、この方向性もあの方向性も考えた上でこうなの? という気付きをもらうことが多いなと思います。
それだけじゃなく、チームは5人なのですがバックグラウンドも経験もいろいろで、一番若い人だと入社されてまだ数年だったり、長い人は何年もデザイン系の仕事でポジションもいろいろ変わってこられてたりと皆バラバラなのですが、しかもオンラインだからできるチーミングで関西と東京半々なんですね。デザインを学ぼうとされている理由が皆さんいろいろで、本当にサービスデザインやUXデザインを実務でやっている人もいれば、私のように直接的にはデザイン業務じゃない人もたくさんいて、そんな仲間と一緒に学べていることがそうだし、そういう人が世の中にいるって知れたこと自体が私にはすごく励みになっていますね。若い人だけじゃなくて、自分と同じく働き出して何年も経ってから学ぼうと思ってる人が、世の中にはちゃんといるんだってことが自分には励みになるんです、会社の中だと自分の周りにデザインを学んでいる人はいないので。
会社という装置から切り離された自分にできること。
校外研修にも行かれていますが、いかがでした?
福岡・京都・和歌山とそれぞれ実施された研修にできるだけ参加しました。これがフィールドワークの主眼ではなかったのかもしれないですが、例えば和歌山県すさみ町でのデザイン合宿では“課題がなくてやる”っていうのが自分自身にとってはすごく新鮮でした。普段のクラスだと、企業からこういうオーダーがあるからこういう提案をしてくださいという課題があったりするんですが、すさみ町でのアクションリサーチは「ではペアで町に出てアクションリサーチしてください」という話だけだったので、非常に苦しかったし何かもうちょっと考えられたんじゃないかという後悔はあるんですが、でも何と言うか、そういうことをやること自体が自分にとっては新鮮でした。
自分自身が普段システムを開発したり研修を企画したりという“会社という装置”ありきの中で仕事をすることが多いからこそ、その校外研修の時に「はい、じゃあ生身の人間一つで町に行ってきてください」ってポンと放り出されると、“あれ、会社の組織と切り離された私ができることって何だろう?”ということを大変考えさせられて、会社ではない私ができることについて思いを馳せることができたのは意味深かったです。
それにやっぱりリアルでやってみてわかること、オンラインでやってみてわかること、紙で見てやってわかることって違うものがあると思っていて、各々どれがいい・悪いはないけれども得られるものは違うと思ってるので、リアルの機会はそうないからこそ校外研修はとても貴重な学びになるなって思っています。
私にとって、デザインとは「もやもやを見出していく力」。
そんな寺本さんにとって、デザインとは何ですか?
そうですね、私にとってデザインって「もやもやってしてるものを見出していく力」みたいなイメージです。何かいやだなとか何かいいなというのをデザインという力を使ってあげることで、その輪郭ってこういうものなんですね、じゃそれってこういうサービスになりますね、なのか、こういうことを改善していった方がいいですね、なのか、何かそういう定量的には測れない定性的なものを形にしていくような力を持っていると思っています。
システムで考えてみると、数字で表せないものは大抵の場合システムとして扱えないので、何らかセンサーなのか手入力なのか計測なのか手段は何にせよ数字化して扱いましょう、というのがシステムで何か物事を扱う時の基本的なやり方なんです。今は言語を扱うとか画像を扱うというのも出てきてるのですべてが数値とも言いにくい部分もあるんですが、基本私がやってきたのは数値なんです。デザインで考えてもそれをメインとして仕事されている場合は数字で扱わなきゃいけないことも、きっとあると思うんです。そうした時に「じゃそうじゃないものって別にいいんだっけ?」みたいなのは、自分の中で何かモヤモヤっとすることがあって、もちろん数字で図らないと進められないこともあるので、それが悪いと言いたいわけではないですけど、そうじゃないものってあるんじゃなかったっけ、というものに対してデザインは答えてくれる、そんなところがデザインの価値だと思います。
端的な言葉でデザインを学ぶ価値を教えてくれた寺本さん。デザインって思考の幅を広げてくれて別の角度を感じさせてくれる、と話されたときの表情がとても楽しげでした。デザインのおもしろさは、やっぱり広くて深いです。