摩擦増える中国の戦狼外交─「ウクライナ」の影響で各国に不信感

 中国の「戦狼外交」はウクライナ問題の影響でますます対外的な摩擦が増えている。ロシアと似た中国の対外強硬路線に対する警戒論が国際社会で強まった上、ロシアの侵略について明確な支持を避けつつも事実上は擁護する中国の姿勢は各国の不信を買っている。

■習主席、比に露骨な警告

 中国は超大国・米国の「覇権主義」「一国主義」を非難し、多国間外交を重視すると称している。その多国間外交では東南アジア諸国連合(ASEAN)や欧州連合(EU)が主なパートナーとされる。だが、現実には中国がパートナーとして広く信頼を得ているとは言い難い。
 「目下の国際情勢の流れは、軍事同盟強化によって地域の安全を実現することはできないことを改めて証明した」。中国の習近平国家主席は4月8日、フィリピンのドゥテルテ大統領との電話会談でこう述べた。米比同盟を念頭に置いた発言とみられる。強気の言動が多い習氏だが、他国の首脳にここまで露骨な警告を発するのは珍しい。
 実は、ドゥテルテ氏は3月下旬、ウクライナ問題に関連して、中国による「侵略」の脅威に言及。その後、4月8日までの約2週間、米比両軍はルソン島などで大規模な合同演習を行っていた。
 しかも、いずれも米国の同盟国である日本とフィリピンが同9日に東京で外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を初めて開催することが5日発表され、7日には日比防衛相会談が行われていた。習氏の発言は、フィリピン側のこうした一連の動きにクギを刺すのが狙いだったようだ。
 しかし、もしウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟していれば、ロシアは手が出せなかった可能性が大きいので、「軍事同盟強化によって地域の安全を実現することはできない」という習氏の見解は説得力を欠く。中国の周辺諸国と米国の同盟関係が深まってほしくないという願望から出た発言と思われる。
 習氏は電話会談で「中国はフィリピンなどと共に地域安全保障の主導権をしっかりと自分の手中に掌握し、地域の平和と安定の局面を維持していきたい」とも語った。
 だが、実際には中国はフィリピンなどと領有権を争う南シナ海の島や岩礁の軍事拠点化を一方的に進め、領有権に関する中国の主張を退けた仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の判決も無視。中国のこのような行動から見て、「地域安保の主導権を自分の手中に掌握する」とは、南シナ海問題などに対する域外の日米欧、特に米国の関与を拒むことを意味すると解釈できる。
 つまり、「地域安保の主導権」は中国が握り、フィリピンなど他の関係国はそれに従えばよいということであろう。東南アジア側にとっては、疑心暗鬼にならざるを得ない。

■仲裁せず、米に責任転嫁

 ウクライナ問題自体に対する中国の態度も分かりにくい。盟友ロシアの言い分を支持しつつも、侵略の「共犯」と見なされないように中立を装っているからだ。
 ロシア軍がウクライナに対する全面的な侵攻を開始する直前の2月19日、王毅外相はミュンヘン安保会議でウクライナ危機に触れ、「各国の主権、独立、領土保全の尊重」を訴え、「ウクライナも例外ではない」と断言したが、侵攻後はウクライナの主権、独立、領土に対するロシアの侵害を一切批判していない。
 侵攻開始翌日の同25日、ロシアのプーチン大統領と電話で会談した習氏は、和平交渉を支持すると伝達しただけだった。ウクライナ側とは3月1日になって、ようやく王氏がクレバ外相と電話で協議したものの、やはり交渉の勧告にとどまった。
 その後、中国は一時、仲裁の意向を一時示したものの、具体的な動きはなかった。中国外務省の発表によると、王氏は4月4日、再びクレバ氏と電話会談を行い、停戦に向け「重要な役割」を発揮するよう求められたが、ロシア・ウクライナ間の直接交渉を促しただけで、自らの仲裁の役割には触れなかった。
 中国はその一方で、公式メディアを通じて「ウクライナ危機の元凶は米国だ」とする宣伝キャンペーンを開始。米国が主導するNATOの東方拡大がロシアを追い詰めたのが悪いと主張した。
 中国自身は台湾独立を「国家分裂」と見なし、武力を使ってでも阻止すると強調する。ところが、ウクライナを分裂させる、もしくは支配下に置くことを企図するロシアの侵略は容認し、逆に被侵略国を助ける米国やNATOを非難するという倒錯した態度を取っている。

■改革・開放路線に影響大

 中国と良好な関係にあるシンガポールのリー・シェンロン首相ですら、3月末に訪問先の米ワシントンでシンクタンク主催の行事に参加した際、公然とこの矛盾を指摘。EUのボレル外交安全保障上級代表(外相)も4月5日、欧州議会でEU・中国首脳オンライン会談(同1日)について「中国側はウクライナについて話したがらなかった」「話の通じない対話だった」と不満を漏らした。
 中国共産党中央委員会が昨年11月の総会で採択した新しい歴史決議が「鄧小平同志は1970年代末から80年代初めにかけて、東西間の緊張緩和で世界戦争の危険は小さくなったと判断し、それが対外開放という重大な政策決定の根拠になった」と指摘したように、中国の改革・開放路線は毛沢東時代の国際的孤立を脱し、経済面で優勢な日米欧などの先進国陣営とできるだけ協調する外交を前提としていた。
 しかし、「中華民族の偉大な復興」を目指す習近平政権は好戦的な戦狼外交を展開し、その一環として、反米共闘のパートナーであるロシアとの関係を全面的に強化。特にロシア軍のウクライナ侵攻に関しては、習氏が直前にプーチン氏と会談し、NATO東方拡大への反対を表明したことから、ロシアの侵略を中国が後押ししたのではないかと疑われる事態になっている。ウクライナ問題に対する中国の対応は先進各国との関係や改革・開放路線の行方に多大な影響を与えるとみられる。
 異例の党総書記・国家主席3選を狙う習氏だが、そのアンチ・ビジネス的な左傾政策の影響で国内経済は不調。せめて、外交で得点を上げたいところながら、今さら戦狼外交自体を改めるわけにもいかず、人事を決める今年後半の第20回党大会を前に頭が痛い状況だ。(2022年4月15日)

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