中国政治評論1

時事通信社解説委員 西村哲也◇中国の鄧小平時代から習近平時代にかけて、特派員として北京…

中国政治評論1

時事通信社解説委員 西村哲也◇中国の鄧小平時代から習近平時代にかけて、特派員として北京・香港に合わせて13年駐在。◇中国政治評論2⇒https://note.com/xczy99

最近の記事

海洋・宇宙・サイバーに重点─「新興領域戦略能力」で軍事力強化(2024年3月)

 中国の習近平国家主席(中央軍事委員会主席)は、軍事力強化で海洋、宇宙、サイバー空間に重点を置く方針を示した。全国人民代表大会(全人代=国会)の解放軍代表団に対し、「新興領域戦略能力」の全面的向上を求めた演説で述べたもので、独自のイノベーションに基づく「新たな質の生産力」と「新たな質の戦闘力」の融合を進めるよう指示している。   ■「海上軍事闘争」に備える  習主席は3月7日、全人代解放軍代表団の全体会議に出席し、以下のように演説した。  一、新興領域戦略能力は国家戦略体系

    • 「思想解放」実は統制強化─習近平政権、官僚粛清を拡大か(2024年2月)

       中国で春節(旧正月)の連休明けから「思想解放」を大々的に呼び掛ける動きが話題になっている。改革・開放が始まった頃のスローガンを思い出させるが、その実態は習近平国家主席(共産党総書記)の教えによる思想統一という統制強化。習政権内で事なかれ主義が広がっていることから、腐敗官僚だけでなく、やる気のない怠慢な官僚も粛清する狙いがあるとみられる。   ■鄧小平演説を想起  湖南省党委員会は2月18日、「思想解放大討論活動」を展開するよう省内各レベルの党組織に指示する通知を公表。これ

      • メッシ香港欠場の謎─政治利用の企てが逆効果に?(2024年2月)

         サッカーのスーパースター、メッシが脚の不調を理由に香港での親善試合を欠場した3日後に日本でプレーしたことが香港で猛反発を招き、政治問題化している。メッシは「香港軽視」「親日反中」と批判されているが、実際には、現地政府が民主派の徹底的弾圧で悪化した香港の国際的イメージを改善するため、メッシを政治宣伝に利用しようとして、かえって逆効果になった可能性がある。   ■「二度と来るな」  メッシが所属するマイアミは2月4日、香港チームと対戦したが、メッシはベンチに座ったままで、約3

        • 香港政治体制、完全中国化へ─スパイ狩り新法で統制強化(2024年2月)

           香港政府はスパイや反逆の防止を口実に、政治活動や報道を全面的に規制する新法の制定作業を開始した。2020年に中国の習近平政権が制定した香港国家安全維持法(国安法)を補完する現地の立法で、香港の政治体制は完全に中国化する。政治の社会主義化により、資本主義体制下で発展してきた国際金融センターとしてのビジネス環境も一段と悪化する可能性が大きい。   ■「国家安全維持条例」案を公表  香港政府は1月30日、中国の香港基本法23条に基づいて「国家安全維持条例(国安条例)」を制定する

        海洋・宇宙・サイバーに重点─「新興領域戦略能力」で軍事力強化(2024年3月)

          警察幹部3人で収賄250億円━中国官僚の汚職、泥沼化(2024年1月)

            収賄の総額12億3100万元(約253億円)。中国国営テレビはこのほど、東北地方・遼寧省の警察トップが3代にわたって巨額の賄賂を受け取っていた異例の事件を詳報した。共産党政権は「反腐敗闘争」を長年展開し、習近平国家主席は取り締まりをさらに強化してきたものの、深刻な官僚の汚職は改善の兆しがなく、泥沼化している。   ■見返りは鉱山の株式  国営中央テレビは1月下旬、高官の汚職を取り締まる党中央規律検査委員会の宣伝部と共同制作した反腐敗の特集番組を4回放送した。「主役」は、

          警察幹部3人で収賄250億円━中国官僚の汚職、泥沼化(2024年1月)

          中国軍の大粛清確認─元ロケット軍トップら議員解任(2024年1月)

            中国の国会に当たる全国人民代表大会(全人代)で人民解放軍出身の代表(議員)9人が解任され、軍内で大規模な粛清が進行していることが確認された。核ミサイルなどを運用するロケット軍や空軍のトップ経験者が含まれている。これほど多くの軍要人の失脚が同時に公表されるのは異例だが、粛清はさらに拡大するとみられる。   ■装備調達関係の汚職か  全人代常務委員会の公告(昨年12月29日)で全人代代表解任が発表されたのは以下の9人。 【ロケット軍】周亜寧(元司令官、上将)◇李玉超(前司令

          中国軍の大粛清確認─元ロケット軍トップら議員解任(2024年1月)

          消えた天皇訪中─中国の公式歴史書に記載なし(2023年12月)

           1992年10月の天皇陛下(現上皇さま)訪中に関する外交文書が公開され、日本国内に慎重論や反対論もある中で紆余(うよ)曲折を経て、訪問が実現に至る詳しい経緯が明らかになった。天皇訪中は外交面で苦境にあった中国に助け舟を出す形になったが、中国側では現在、その事実は公式の歴史書に書かれていない。   ■日本側は外務省主導  中国は89年に民主化運動を武力弾圧した天安門事件の後、先進諸国などから各種の制裁を受けたが、日本政府は91年、海部俊樹首相が訪中して、真っ先に対中関係の修

          消えた天皇訪中─中国の公式歴史書に記載なし(2023年12月)

          闇深まる香港─周庭氏亡命、訪中記者拘束(2023年12月)

           中国化が進む香港の政治的な闇がますます深まっている。民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏が事実上の亡命に追い込まれたほか、北京に出張した香港有力紙の著名記者が消息不明になっており、中国当局に拘束されたもよう。2020年に制定された香港国家安全維持法(国安法)による弾圧で民主派は既に壊滅状態になっているにもかかわらず、締め付けの強化が続いている。 ■中国特区視察を強要  周氏は12月3日、SNSを通じて、留学のために9月からカナダに滞在しているが、おそらく香港に戻ること

          闇深まる香港─周庭氏亡命、訪中記者拘束(2023年12月)

          習近平指導部を牛耳る「福建閥」─内政・外交両面で存在感(2023年11月)

           中国共産党政権指導部で習近平国家主席の福建省人脈(福建閥)がますます勢力を強めている。内政だけでなく、対日米などの外交でも存在感を増しており、指導部を牛耳りつつあるようだ。 ■日中首脳会談で「重要な共通認識」  訪中した公明党の山口那津男代表との会談に応じたのは、共産党総書記の習主席でも李強首相でもなく、党中央書記局の蔡奇筆頭書記だった。蔡書記は、習主席がかつて福建省幹部だった頃の部下で、習近平派内の福建閥で筆頭格の地位にある。  「(日中)両国の執政党は両国指導者の重

          習近平指導部を牛耳る「福建閥」─内政・外交両面で存在感(2023年11月)

          李克強氏、変死の怪情報広まる─習主席への不満反映か(2023年11月)

           急死した中国の李克強前首相について、暗殺など変死説の怪情報が広まっている。いずれも具体的根拠は全くないが、改革・開放に積極的だった李氏と対立した保守派の習近平国家主席に対する不満を反映した現象とみられる。 ■異例の病名公表  中国の公式報道によると、李氏は上海で休養中の10月26日、突発的な心臓病で倒れて、翌27日未明に死去した。病死した中国指導者の訃報は通常、病名に触れず、「病気のため逝去した」と発表するので、病名の明記は異例だ。死因に関する臆測を避けるためと思われる

          李克強氏、変死の怪情報広まる─習主席への不満反映か(2023年11月)

          謎だらけの主要閣僚解任─混乱続く習近平政権(2023年10月)

           中国の李尚福国防相兼国務委員と秦剛国務委員(前外相)が解任された。いずれも習近平国家主席(中央軍事委員会主席)の大抜てき人事で任命されてから数カ月しかたっておらず、その失脚には謎が多い。国防相の後任は決まらず、習政権は混乱が続いているようだ。 ■主流派の「内ゲバ」?  李国防相らの更迭は10月24日の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会で決まった。李氏は中央軍事委員も解任された。中央軍事委の装備発展部は7月下旬、過去の装備調達に関する不正の調査を始めると発表。調査

          謎だらけの主要閣僚解任─混乱続く習近平政権(2023年10月)

          均衡崩れる習近平指導部─首相落ち目、蔡書記が実質ナンバー2に(2023年10月)

           今春に3期目の体制を整えて本格始動した中国の習近平政権は、早くも指導部内のバランスが崩れつつある。序列2位の李強首相の存在感がますます薄くなる一方、序列5位で共産党中央書記局の筆頭書記(幹事長に相当)を務める蔡奇氏が勢力を増し、実質的なナンバー2の役割を果たしているようだ。 ■巨額資産疑惑の怪文書も  中国の国慶節(10月1日)を前に北京の人民大会堂で恒例のレセプションが開催されたが、政権を代表して演説したのは李強首相ではなく、習近平国家主席だった。この演説は昨年まで、

          均衡崩れる習近平指導部─首相落ち目、蔡書記が実質ナンバー2に(2023年10月)

          中国軍内の粛清拡大─掌握に四苦八苦の習主席(2023年9月)

           李尚福中国国防相の失脚が確実視され、人民解放軍内で大粛清が進んでいることがはっきりした。打倒の対象は、先に司令官らが解任されたロケット軍や戦略支援部隊以外にも拡大。習近平国家主席は自分が重用した軍高官を次々と粛清しており、中央軍事委員会主席を10年以上務めてきたにもかかわらず、軍の掌握に四苦八苦しているようだ。 ■国防相が自宅軟禁?  李国防相は8月下旬から公の場に姿を見せず、9月中旬以降、欧米メディアなどが相次いで失脚説を報じた。米国のエマニュエル駐日大使もX(旧ツイ

          中国軍内の粛清拡大─掌握に四苦八苦の習主席(2023年9月)

          中国軍で大粛清か─習主席の行動にも異変(2023年9月)

           中国軍で大規模な粛清が進行しているようだ。核ミサイルなどを保有するロケット軍の司令官らが解任されたほか、消息不明や自殺とみられる不審死のケースが続出。不穏な政治情勢の下で習近平国家主席(中央軍事委員会主席)の行動にも異変が見られる。 ■異例の同時更迭と不審死  「事件はすべて調べ、腐敗はすべて罰する」。ロイター通信などによると、中国国防省報道官は8月31日の記者会見で、ロケット軍司令官と政治委員が更迭され、魏鳳和前国防相(初代ロケット軍司令官)の動静が全く分からないこと

          中国軍で大粛清か─習主席の行動にも異変(2023年9月)

          日本旅行禁止の提案も─過熱する中国の「処理水」非難(2023年8月)

           東京電力福島第1原発で生じた処理水の海洋放出開始に対する中国の非難キャンペーンが過熱している。政府が日本産水産物の輸入を全面停止する事実上の経済制裁を発動したほか、主要公式メディアが連日、日本政府の対応を批判。国政諮問機関では日本旅行禁止の提案も出ている。 ■習主席のお気に入り  日本旅行禁止を提案したのは、「愛国」が売り物のインターネット作家で、国政諮問機関の人民政治協商会議(政協)委員を務める周小平氏。習近平国家主席お気に入りのタカ派論客として知られている。周氏は処

          日本旅行禁止の提案も─過熱する中国の「処理水」非難(2023年8月)

          中ロ関係、微妙にぎくしゃく─異例の「野蛮」非難も(2023年8月)

           一時は「上限はない」と蜜月を誇示していた中ロ関係がぎくしゃくしている。中国人のロシア入国をめぐるトラブルで中国側はロシア当局の対応を「野蛮」と非難。ウクライナ戦争関係でも、中国はロシア抜きの国際和平会議に参加した。その直後に中ロ外相が電話で会談するなど微妙な状況だが、習近平政権はロシアとの距離を何とか調整しようと苦悩しているように見える。 ■「友好の大局に合わない」  モスクワの中国大使館は8月4日、中国人観光客5人が7月29日に中央アジアのカザフスタンから車でロシア南

          中ロ関係、微妙にぎくしゃく─異例の「野蛮」非難も(2023年8月)