中国政治評論1

時事通信社解説委員 西村哲也◇中国の鄧小平時代から習近平時代にかけて、特派員として北京…

中国政治評論1

時事通信社解説委員 西村哲也◇中国の鄧小平時代から習近平時代にかけて、特派員として北京・香港に合わせて13年駐在。◇中国政治評論2⇒https://note.com/xczy99

最近の記事

習近平人脈の左遷・失脚相次ぐ─主流派内紛?綱紀粛正強化?(2024年10月)

 中国共産党政権で習近平国家主席の人脈に属するとみられてきた高官の左遷や失脚が相次いでいる。国内経済の低迷や超大国・米国との対立などで内外情勢が厳しい中、主流派内でも反腐敗闘争による綱紀粛正を強化しているようだが、内紛が激化している可能性もある。 ■地方トップから閑職へ  中国全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は9月13日、共産党吉林省委員会の前書記(省指導部トップ)だった景俊海氏を全人代教育・科学・文化・衛生委員会の副主任委員(副委員長)に任命した。習主席の陝西

    • 実戦形式でICBM発射─中国軍、「核大国」誇示(2024年10月)

       中国軍は大陸間弾道ミサイル(ICBM)を南太平洋に撃ち込む訓練を行った。遠洋へのICBM発射は44年ぶり。実戦形式で国外の遠隔地に向け発射する訓練は異例で、「核大国」としての存在を誇示する狙いがあるとみられる。   ■核政策を転換  中国国防省報道官は9月25日、ロケット軍(ミサイル部隊)が同日午前8時44分(日本時間同9時44分)に訓練用模擬弾頭を搭載したICBMを太平洋の公海に向けて発射し、目標海域に正確に落下したと発表した。「年度軍事訓練で恒例の段取りであり、国際法

      • 反日デモと共通の背景─深圳の日本人男児刺殺事件(2024年9月)

         9月18日に日本人男児の刺殺事件があったのは、中国の改革・開放をけん引してきた深セン経済特区(広東省)の中心部だった。この日は、満州事変(1931年)の発端となった柳条湖事件が起きた「国辱の日」とされ、過去に全国各地で大規模な反日デモが行われたことがある。  容疑者は前科のある無職の男。日本たたきが肯定される雰囲気の中、大都市で経済発展の恩恵を受けられない人間が過激な行為に走ったという点は、暴徒化した2005年と12年の反日デモと共通している。   ■日本と縁の深い地区で発

        • 香港民主派の成功と失敗─「雨傘運動」から10年(2024年9月)

           香港民主派の大規模デモ「雨傘運動」から9月28日でちょうど10年。英国から中国への返還後も政治的自由が保障されていた香港における民主化運動は結局、中国共産党政権による国家安全維持法(国安法)制定で完全に封じ込められ、一国二制度下の「高度な自治」は事実上廃止された。運動の成功と失敗の経緯を振り返る。   ■「国家安全展覧庁」開設  香港歴史博物館内に8月6日、「国家安全展覧庁」がオープンした。習近平国家主席が国家安全保障政策の基礎となる「総体国家安全観」を提起してから、4月

        習近平人脈の左遷・失脚相次ぐ─主流派内紛?綱紀粛正強化?(2024年10月)

          中国の重要スパイ摘発相次ぐ─活動拡大する国家安全省(2024年9月)

           中国共産党政権のために重要な役割を果たしていたとされるスパイが米国などで相次いで摘発された。国家安全保障強化を重点政策とする習近平政権下で情報機関である国家安全省が活動を拡大したことから、関係各国が警戒を強めているとみられる。(時事通信解説委員 西村哲也) ■NY州政府にも浸透  米連邦検察は9月3日、昨年までホークル・ニューヨーク州知事(民主党)側近の高官だった中国系米国人リンダ・サン容疑者を逮捕・訴追したと発表した。発表によると、サン容疑者は中国共産党・政府の代理人

          中国の重要スパイ摘発相次ぐ─活動拡大する国家安全省(2024年9月)

          国産ゲーム「黒神話:悟空」異例の称賛─習近平政権、抑圧政策を転換(2024年9月)

           孫悟空が活躍する「西遊記」を題材にした中国国産ゲームの大作「黒神話:悟空」を同国当局や公式メディアが珍しく称賛している。習近平政権はこれまで、ゲーム産業に対する規制を重視してきたが、低迷する経済てこ入れのため、抑圧政策を転換したようだ。 ■外務省報道官も評価  中国で近年、ゲームソフトは公式メディアから「精神的アヘン」「電子麻薬」などと否定的に扱われ、政府のメディア管理部門が販売や使用を規制。新たな規制案の公表でインターネットサービス大手の騰訊(テンセント)など関連企業

          国産ゲーム「黒神話:悟空」異例の称賛─習近平政権、抑圧政策を転換(2024年9月)

          再発した習主席失脚説─経済低迷への不満反映か(2024年8月)

           中国の習近平国家主席(共産党総書記)について「政変で失脚した」「重病で辞めざるを得なくなった」という説が流れていたが、本人が公の場に登場して否定された。この種のうわさは前例があるが、当たったことはない。特に根拠もないのに、なぜ再発するのか。 ■総書記交代?  習主席は8月19日、北京でベトナムのトー・ラム国家主席(共産党書記長)と会談した。習主席が外国要人に会うのは3週間ぶり。中国の国営中央テレビは映像付きで中越首脳会談を詳報した。習主席はリラックスした表情で、健康に大

          再発した習主席失脚説─経済低迷への不満反映か(2024年8月)

          なぜか正式処罰なし─外相更迭の秦剛氏(2024年7月)

           中国共産党にとって今年の最重要会議である中央委員会総会では、政策よりも中央委メンバーの人事が注目された。約1年前に外相を更迭された秦剛氏は結局、自ら党中央委員を辞職した形とされ、中央委員解任などの処罰は免れた。一方、国防相を更迭された李尚福氏は政治局(党指導部)による党籍剥奪処分が追認されて完全に粛清され、明暗が分かれた。   ■「辞職申し出を受け入れ」  中国共産党は7月15日から18日にかけて、第20期中央委員会の第3回総会(3中総会)を開き、以下の人事を発表した。

          なぜか正式処罰なし─外相更迭の秦剛氏(2024年7月)

          中朝関係悪化の兆し─ロ朝接近が影響か(2024年7月)

           中国と北朝鮮の関係に悪化の兆候が出ている。外交路線を巡る食い違いから、金正恩政権が中国よりロシアを頼る姿勢を鮮明にしたことが、習近平政権との摩擦を拡大させている可能性がある。   ■双方の行事格下げ  平壌の中国大使館は7月11日、軍事同盟の取り決めを含む中朝友好協力相互援助条約の調印63周年を記念するレセプションを開催したが、北朝鮮側から国家レベルの指導者は誰も出席しなかった。  同大使館の発表によると、北朝鮮側の主な参加者は最高人民会議(国会)の朝中友好議員団委員長を

          中朝関係悪化の兆し─ロ朝接近が影響か(2024年7月)

          軍人トップ、苦境に─元部下の前国防相粛清(2024年6月)

           中国共産党政治局は国防相経験者2人の党籍を同時に剥奪するという異例の処分を決めた。軍関係の一連の汚職疑惑で軍指導部の元メンバーが処罰されたのは初めて。軍の制服組トップはそのうちの1人をかつて部下として重用していたことから、政治的に苦しい状況に追い込まれている。 ■大規模なミサイル汚職か  6月27日の決定で党から追放されたのは李尚福・前国防相とその前任者だった魏鳳和・元国防相。いずれも、軍の指導部である中央軍事委員会の委員や上級閣僚の国務委員を兼ねていたので、閣僚級より

          軍人トップ、苦境に─元部下の前国防相粛清(2024年6月)

          前外相の愛人問題、拡大か─元香港出先機関トップも失脚(2024年6月)

           中国外相を在任わずか7カ月で解任された秦剛氏の愛人問題が再び注目されている。この女性の記者としての活動を支援していたといわれる中国政府香港出先機関の元トップも失脚。さらに、地位がより高い有力者が関与していた可能性も浮上している。 ■左遷先も解任  秦氏は2022年12月、駐米大使から外相に抜てきされた。異例の3期目に入った習近平政権の目玉人事だったが、昨年7月に更迭された。香港の中国政府系放送局フェニックス・テレビの報道番組キャスターだったA記者(中国本土出身)との愛人

          前外相の愛人問題、拡大か─元香港出先機関トップも失脚(2024年6月)

          中ロの冷めた連帯─ウクライナ侵攻前と様変わり(2024年6月)

           ロシアのプーチン大統領が中国を公式訪問し、中ロの緊密な関係を誇示した。しかし、共同声明などを見ると、ウクライナ侵攻直前に同大統領が訪中した時の熱気は既になく、中国側は対米共闘のため、冷めた連帯をやむを得ず維持しているという雰囲気だ。 ■ロシア側が対中配慮  プーチン大統領は5月16日から17日にかけて訪中し、習近平国家主席との共同声明を発表した。ウクライナ戦争を巡って中ロが米国と対立する中、国交75周年を祝う文書だったが、2022年2月の北京冬季五輪を機にプーチン大統領

          中ロの冷めた連帯─ウクライナ侵攻前と様変わり(2024年6月)

          「内部の裏切り者」排除─習政権が「五反闘争」(2024年5月)

           中国の習近平政権は反転覆、反覇権、反分裂、反テロ、反スパイの「五反闘争」を開始した。「内部の裏切り者」を排除するとしており、外国や台湾に対する警戒を強めるとともに、国内の政治的粛清を徹底するとみられる。   ■「反中敵対勢力」警戒  習近平国家主席が「総体国家安全観」を打ち出して、4月でちょうど10年。これを機に、習主席の側近として知られる陳一新・国家安全相は4月15日と29日に総体国家安全観に関する論文を発表し、その中で五反闘争の展開を以下のように指示した。論文はそれぞ

          「内部の裏切り者」排除─習政権が「五反闘争」(2024年5月)

          スマホ内部検査など強化─中国国家安全省の新規定(2024年5月)

           中国国家安全省の法律執行に関する新しい規定が7月1日から施行される。電子データに関する取り締まりに重点が置かれており、外国からの入国者を含め、スマートフォンなどの内部に保存された文書や画像に対する検査が強化されるとみられる。   ■「反スパイ法」などが根拠  国家安全省は4月26日、国家安全機関の行政法律執行手続きに関する規定(以下、規定1)と刑事事案処理手続きに関する規定(規定2)を発表した。規定1は反スパイ法、国家情報法、行政処罰法、行政強制法に基づいて、規定2は刑事

          スマホ内部検査など強化─中国国家安全省の新規定(2024年5月)

          失敗した習主席の軍制改革─「戦略支援部隊」8年で解体(2024年4月)

           中国人民解放軍は2015年の軍制改革で新設したサイバー・宇宙担当の戦略支援部隊を分割し、「情報支援部隊」などを設立した。組織再編の目玉だった戦略支援部隊はわずか8年余りで解体。さまざまな軍事技術を担う寄せ集めの大部隊はまともに機能しなかったようで、中央軍事委員会主席を兼ねる習近平国家主席が力を入れた改革は失敗したことになる。   ■情報・宇宙・サイバーが独立  情報支援部隊の設立大会が4月19日、北京で開かれ、習主席や軍制服組の主要指導者が出席した。公式報道によると、大会

          失敗した習主席の軍制改革─「戦略支援部隊」8年で解体(2024年4月)

          「琉球独立」あおる?─中国で強まる日本の領有権懐疑論(2024年4月)

           中国でこのところ、「琉球」(沖縄)に対する日本の領有権を疑問視し、中国との歴史的関係の深さを強調する主張が目立つ。共産党政権の公式シンクタンクに所属する専門家が相次いで論文を発表。「琉球独立」をあおるかのようなキャンペーンを展開している。   ■公式研究機関の論文相次ぐ  中国歴史研究院は3月下旬、SNSを通じて、琉球に関する論文3本を紹介した。いずれも、同研究院が出版する「歴史評論」(隔月刊誌)の今年第1号に掲載されたもので、同国最大級の公式シンクタンクである社会科学院

          「琉球独立」あおる?─中国で強まる日本の領有権懐疑論(2024年4月)