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ユーザー目線で価値を描く、シニア向けサービスのためのワークショップ

マネーフォワードエックスカンパニー公式noteです。
共創サービス紹介第3弾として、共創サービス本部に所属するサービスデザイナーの遠藤さんより、仮説作りのためのワークショップの事例をご紹介いただきます。

遠藤 真緒(えんどう まお)
2020年に新卒で株式会社マネーフォワードに入社。デザイン思考を軸とした企業のサービス開発・改善支援を行う。近年では、中小企業向けSaaSの現状分析・改善やUI改修など幅広いプロジェクトに従事

共創サービス本部では、広義のデザインアプローチを用いてクライアントと共に課題解決に取り組んでいます。前回のnoteでは、チーフサービスデザイナー佐々木が、自社SaaSやこれまでのサービス企画の経験を基にしたMFSD(Money Forward Service Design)を用いたプロジェクトの主要な活動を紹介しました。

今回は、「仮説作りのためのワークショップ」の事例として、シニア層向けサービスの検討過程をご紹介します。


ワークショップ実施の背景

シニア層向けの新サービスを検討されている金融機関から、サービスの具体化のご相談をいただきました。
ただし、ご相談を受けた段階では、シニア向けサービスとしているにも関わらず、高齢の親を持つ子どもが主体のサービスとなっており、サービス利用者である親側の視点があまり考慮されていないように見受けられました。

共創サービス本部では過去にシニア向けサービスの開発を手掛けていますが、その開発過程で、シニア向けサービスにおいては「親と子の両方の視点」「機能だけでない人生のたのしみ」の2点が重要だと強く感じました。

私たちは、サービスが実際に利用されるためには、子どもだけでなく親にも寄り添う必要があると考え、親子双方の視点を取り入れたサービスにすることを提案し、コンセプトを検討するワークショップを開催することになりました。

ワークショップの流れ

0.ワークショップ設計

ワークショップの流れ

今回のワークショップでは、マネーフォワードが過去に手がけたシニア向けサービスの開発のノウハウから、健康/予兆/認知症・介護という、時間によって変化する健康状態を表す軸と、医療/お金/楽しみの観点を軸にアイデアを検討できるよう設計しています。
時間軸と観点の軸でフレームを作ることで、今まで見えていなかった視点でアイデアを出せるようにしています。

1.事前課題

事前課題のワークシート:親子それぞれのペルソナシートと健康/予兆/認知症・介護の時間軸に対して医療/お金/楽しみの観点から親子それぞれの体験が記載されている

MFSDを用いたワークショップでは、ユーザー体験に対する意識を高め、ワークショップ当日に具体的なアイデアを展開しやすくなるように、事前課題をお願いしています。今回は参加者に親子それぞれのペルソナと現状の体験マップを記入してもらいました。 

想定したペルソナの例
親世代:地方在住で一人暮らし。子どもが比較的近隣に住んでおり、年に数回孫を連れて遊びに来る。資産等は銀行に預けているが、詳しいことは把握していない。
子世代:親元を離れ家族と生活している。親との仲は良好であるが、連絡の頻度はそこまで高くない。親の介護などの不安があるが、直接親と会話できていない。

2.行動と心の声の書き出し

体験マップ(As-is)のイメージ:健康/予兆/認知症・介護の時間軸に対して医療/お金/楽しみの観点現状の体験を行動と心の声をセットで書き出している

ワークショップ当日、事前課題で書いてきたペルソナの認識を合わせながら、模造紙に体験をマッピングしていきます。

この時に、行動と心の声をセットで書き出すことがポイントになります。ジャーニーマップを作成する際に、行動ばかりが思いつき心の声が出てこない、逆に心の声ばかりでその原因となった行動や体験が記載されていないということはよくあります。
「何が起きているのか」「それによりどう思ったのか」の視点をフレームに落とすことでユーザー目線を意識できるようにしています。

3.価値の抽出

価値の抽出のイメージ:軸を一度取り払い、心の声をベースに親子それぞれの価値を抽出する

次に、作成した体験マップをもとに価値の抽出をしていきます。

価値抽出では、時間軸を一旦脇に置き、ユーザーの心の声に焦点を当てます。この時、価値抽出のポイントとして下記のような点をあげています。

  • 語尾を「〜の価値」にする

  • 提供者目線ではなく、ユーザー目線で言語化する

  • 具体的な機能のアイデアにはしない

  • 抽象度を上げすぎない

特に重要なのは、「提供者目線ではなくユーザー目線で言語化する」という点です。提供者目線で価値を言語化すると、アイデアの幅が狭まり、一方的な提案になりがちです。また、具体的すぎず、かつ抽象的すぎないバランスを保ちます。ユーザーの課題や欲求を理解し、どのような価値を提供できるかを考えることが重要です。

今回のワークショップでは、シニアの人にとって、「動くモチベーションが上がる」「周りの人に気を遣わなくていい」「いつまでも若さを感じられる」などの価値があるのではないかという声があがりました。

4.アイデアの発散

アイデアの発散のイメージ:出てきた価値を健康/予兆/認知症・介護の時間軸に医療/お金/楽しみの観点に当てはめながらアイデアを検討する

価値の抽出のあとは、アイデアの発散を行います。

ここでは、幅広くアイデアを検討するために、体験マップで使っていた「健康/予兆/認知症・介護」の時間軸と「医療/お金/楽しみ」の観点のフレームを再度利用します。
「『健康』期の心の声から生まれた価値を、『予兆』期に当てはめるとどのようなアイデアが生まれるだろうか」といった水平思考(※)を促し、価値の抽出元となった心の声の時間軸や観点にとらわれず、柔軟にアイデアを考えられるようにしています。

※水平思考とは
固定観念や既存の論理にとらわれず、「物事を多角的に考察する」「新しい発想を生み出す」ための思考法のこと

アイデアの発散のあとは、出てきたアイデアの関連付けや取捨選択を行いながら、ユーザーにとって理想的な体験とシナリオをチームでまとめていきます。

5.発表

発表のイメージ:出てきたアイデアの関連付けを行いながら、理想の体験をまとめ発表する

最後に、ワークショップの成果物の発表を行います。

発表では、チームごとにアイデアの相互評価を行うようにしています。
サービスの受け手として相手チームの発表を聞くことで、アイデアに対してユーザー視点で率直な評価ができ、発表する側は相手のチームから欠けていた視点や良かった点などのフィードバックを受け、ブラッシュアップができるようになります。

ワークショップ成果物

ワークショップ後には、サービスの全体ストーリーを見直し、改善します。

今回はサービスの流れや価値を直感的に理解できるように、簡易的なビジュアル化とストーリーのまとめを行いました。

ビジュアライズのイメージ:「楽しみながら利用する」「いざに備える」「いざで活用する」の3つのステージに対応する体験が記載されている

このようにMFSDを用いたワークショップでは、行動や心の声から価値を抽出し、アイデアの発散・検討を行っています。

最後に

共創サービス本部では現在、シニア向けソリューションを構想しています。次回の記事ではその構想についても触れられたらと考えています。

共創サービスに興味をいだいていただき、何かの課題感を抱えている企業様がおられましたら、お気軽にお問い合わせください。

また、マネーフォワードエックスカンパニーのデザイナーの活動やナレッジについての記事を集めたマガジンもあります。ぜひご覧ください。