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そして今日、私はまた旅人になった。


おはようございます。
朝晩涼しくなってきて、過ごしやすくなりました。
夏の終わりにいつも思い出すのはフランスのオーヴェルニュ。
私にとって、本当に大切な場所。
何度も足を運ぶたびに、自分が変わっていくことを思い知らされました。

もうしばらくは、遊びに行けないな、とあきらめていましたが、この本を読んで私のマグマが目を覚ましました。

一人旅でなくてもいい、子連れでもいい。
旅をしたいという感情は誰にも止められない。


今日は、旅人の想いが詰まったTABIPPOの新書籍「僕が旅人になった日」について紹介したいと思います。


◆穏やかな店内で…

ゆっくり、涼しくて洗練された店内。

メロウなピアノジャズが流れているカフェ。

夢中で読み進めると、時間がたつのをわすれてしまう。

氷が少しずつ解けて、いつの間にかカフェラテは薄まってしまった。

一気に読みきった。

ここから走れば、まだあの電車に間に合いそう。


そんな気分で読んだ。旅っていつだってそう。
私にちょっと違う世界を覗き見させてくれる。


◆でも現実は違う。

背中におんぶをしている息子は機嫌が悪く、かまってほしくて私の髪の毛を引っ張った。
それで、部屋を少しずつ移動しながら、読書をすることにした。少しでも彼の気がまぎれるように、と。
さながら、現代の二宮金次郎。背中には薪ではなく、赤ちゃんを背負っているが。

部屋の中は荒れている。
家族の洗濯物はどんどん山のように積みあがってしまう。
決まった場所に置いたはずのリモコンは、いつも家出で帰ってこない。
そして何より、自分一人の時間がない。3年日記も去年の夏で止まっている。
そんな私が、きちんとした読書の時間を捻出できるはずもない。気合で読むしかない。

義理の母はきちんと家事をこなしている。
比べられているわけでは決してないけれど、家族からの目が痛い。
本を読むよりも、そこに落ちているごはん粒を拾ったほうがいいかもしれない。
みんなが帰ってくる前に、あと一品おかずを作ることだってできる。
でも、私は落第ヨメでいい。とにかく今この本を読みたい。

ところが、タイムアップが迫ってくる。
家族が帰ってきたら、すぐにお風呂の順番が回ってくる。
三世代同居の私の家では、家族のルーティンを乱すことが最も嫌がられている。
だから、速読技術もさながら、とにかく読むスピードが最優先だった。
ページをどんどんめくる。そして、時々目頭を押さえながら読み進めた。

夜中、家族が寝静まってから読もう、としても無理だ。
いつの間にか一緒に寝てしまうから、自分が起きてこれる自信がない。
朝、早く起きてから読もう、としても実現しないだろう。
子どもたちが起きたら、自分の時間は強制的に終了してしまうから。
だから、今しかない。焦る気持ちの一方、内容に引き込まれてあっという間に読了した。

◆何より素晴らしいのは本の構成

この本は、「#旅とわたし」というテーマで旅のエッセイが募集されて、そこに寄せられたコンテンツが編集されて出来上がった本です。

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4300件以上の応募の中から厳選されたエッセイというだけあって、読み応えのある内容ばかり。

青臭い若者たちによる、泥臭い体験の数々。
一度決めたら実行せずにはいられない旅人たち。
そして、トピックはだんだんと日常へ。
死期の迫る父親との旅で垣間見る死生観。
海外で永住権を獲得した旅はもはや日常への回帰。
海外で生まれ育ったグローバルな旅人から見た世界中のダイバーシティ。

本を読みながらエッセイの主人公の追体験をし、
2時間の間に自分が一気に歳を取ってしまったような気持ちになりました。

01 イスラエルで見た戦争と平和
02 3.11から枯れた涙とパタゴニアにいた耳の聴こえない女の子
03 生まれて初めて人が燃えているのを見た日のこと
04 働きながら旅をするマチュピチュでうたた寝しながら考えた
05 ニューヨークで「今から野宿ね」
06 「Buen Camino!(よき旅を!)」800kmを歩く巡礼の旅
07 泣き出しそうなほど美しい青と白と灰色の世界
08 25才になるまでにユーラシア大陸を自転車で横断する
09 立派なキーウィになった娘とパスポートに貼られた永住権
10 ハイジみたいな藁のベッドで人生を少し休んだ
11 旅なんてだいきらいなのに今日もGoogleマップを開く
12 四季が迫った父の夢 ユーコン川で親子二人でこぐカヌー
13 2700kmの大陸横断 異国者たちと野性的な共同生活
14 漫画「ポレポレキリマンジャロ」
15 ハエとバナナとフライドチキン それは異文化の洗礼
16 「幸せだけどこのままじゃダメ」とアフリカの少女は言った
17 フランス人の彼女とアフガニスタン人のボーイフレンド
18 地獄の門の向こうに昇る朝日と桃源郷で飲んだチャイ
19 旅人のレールを脱線してロバを買って大冒険
20 チリ育ちの私にとって日本に行くことが「旅」だった


平和のこと、人生のこと、仕事のこと、
自分の魂が解放される「旅」のこと。

本を読み終える頃には、もう地球のことを何周もしてしまい、
何回もの異なる人生を輪廻しているような錯覚に陥ります。

旅が始まるときのあの高揚感。
降り立った時の不安感。
不便でも何とかなる満足感。
そして、人との出会いへの充足感。

旅のエッセイを手元に置くだけで
追体験できる色とりどりの景色。
これに尽きます。


◆私が死ぬまでにしたいことって何だったっけ?

そして秀逸なのは、この本の最後に、「BUCKET LIST100個の世界で死ぬまでしたいこと」が収録されていること。

死ぬまでにしたいことリスト。

目にするだけで私の皮をえぐる。

胸が高鳴る。

居ても立っても居られない。

「私たちはまだ長い旅の途中。
日常だとトラブルってイライラするけれど、
旅だとそれも楽しいでしょう?
だからこまることってそんなにないの」
それって別に、日本に帰ってからも一緒じゃないか。
要は気持ちの持ちよう次第で。

私をグサりと射貫くこのフレーズ。
そうだ、私だって、まだ旅の途中だったんだ。

やりたいこと、まだまだある。

何歳になったって新しいことを始められる。

記憶を頼りにもう一度呼び起こして、再スタートを切ることだってできる。

◆おわりに

旅に病んで夢は枯野をかけ廻る

旅に生きた松尾芭蕉の病中吟のことを想い出した。

旅に生きる人は、いつまでたっても旅のことばかり考えているんだろう。

夕暮れ時、家族が帰ってくるのを待つ間、積み上げられた洗濯物の山に立ち向かう。

私の人生の旅がまたワクワクしたものに切り替わったのを感じる。

そう、旅はいつだってキラキラしている。
でも、同時に泥臭く、辛いものだった。

結婚を期に都内から過疎の町に移住し、
日々に立ち向かいながら子どもを二人産んで、
長らく旅から遠ざかってしまっていた。
そう、思い込んでしまっていた。

私の日常だって、本当はずっとキラキラしている。
ときめきに満ち溢れ、時に困難を敢えて選び取り、
こうして、その先の明日にずーっと続いているんだから。

そして今日、私はまた旅人になった。

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