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キリスト教について

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「キリスト教理解」の理解について
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2019年10月の記事一覧

友愛の政治経済学――『Brotherhood Economics』冒頭の註解:番外篇 賀川の「景教」理解

 賀川豊彦は「東洋には、ちょうど1300年ほど前、ネストリウス派のキリスト教が存在した…ただ教理を説いて、キリストの愛を教えようとしなかった」と記している。ここに賀川の時代性が「景教」理解として、よく表れている。  言うまでもなく、1549年ザビエル以前のキリスト教「日本伝来」は都市伝説である。現時点では、確たる歴史的証拠がない。「到来していない」証明は不可能であるし、到来していたとしても何ら不思議ではない。しかし、現時点では、確たる歴史的証拠がない。だから「伝来の可能性」

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怒りの賞味期限

 人間、おじさんオバサンになれば、思い出すだけで腸の煮えくり返るような出来事や人物が少しはあるだろう。ぼくにもある。が、最近、ある記憶については、そこまで思わなくなった。  怒りが乾いた。または、その湿度が蒸発してしまった。とくに「怒り」を持続させたいとは思っていない。だから、怒りが乾くのは、幸いなことだと思っている。  生来、物事に億劫で怠惰な人間なので「怒り」続けるのはしんどいな…と思っていた。もちろん、怒りの対象と相対したいとは思わない。新たに不愉快になる必要はない

友愛の政治経済学――『Brotherhood Economics』冒頭の註解 4

 賀川は、本書『友愛の政治経済学』第1章の小題1を「いま問われているもの」と題した。では、何が問われているのか。それは、政治的・社会的・国際的・思想的な混乱と貧困である。彼はこれらを「カオス」と名指し、そのカオス中にこそ「キリスト教の使命」があるという。しかし、現在、その使命は「共産主義」が果たしている、と指摘した。  続く、小題2「私の歩んできた道」で、賀川は「東洋性」を帯びた自身の来歴から「主観経済学」の必然性を導いて、「西洋=キリスト教社会」を相対化した。こうして、ま

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友愛の政治経済学――『Brotherhood Economics』冒頭の註解 3

 本連載は、賀川豊彦『友愛の政治経済学(原著"Brotherhood Economics" (London, 1937)』の第一章までの要約と註解である。第1回では、経済学者・野尻武敏(1924-2018)の「監修者まえがき」から、本書の特徴と方向性を述べた。第2回では「序文」と第1章の小題1「いま問われているもの」を解説した。まず前回までのまとめを置く。  なお、第1章は三つの小題で構成される。前回までと同様、引用部分の括弧内「」が本文、地の文は解説のための補足である。

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友愛の政治経済学――『Brotherhood Economics』冒頭の註解 2

 本連載は、賀川豊彦『友愛の政治経済学(原著"Brotherhood Economics" (London, 1937)』の第一章までの要約と註解である。1では、経済学者・野尻武敏(1924-2018)の「監修者まえがき」から、本書の特徴と方向性を述べた。  賀川豊彦(1888-1960)は、近代的課題「宗教と国家」の二項対立に「人々=協同組合」を入れ、国際社会の調和を求めた。教会、国家、協同組合、この三者の協働こそ、賀川の「社会≒神の国」理解だった。本書は、彼が戦後に傾倒

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友愛の政治経済学――『Brotherhood Economics』冒頭の註解 1

 基本的に社会運動とは距離を取るノンポリ――それがぼくの立場だ。とはいえ、研究対象が絡むのでそうも言っていられない。賀川豊彦は社会運動家であり、本書『友愛の政治経済学』は、賀川なりの「キリスト教社会科学」である。有神論的「経済」観という点では、前アメリカ大統領候補者バーニー・サンダース(ユダヤ教に基づく経済倫理の提唱)に似ているかもしれない。または、現在、巨大な力である「イスラム経済圏」を理解する手掛かりになるかもしれない。  以下は、賀川豊彦『友愛の政治経済学(原著"Br

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属性の孤独

 昨日朝シャワーを浴びながら、「あぁ、ぼくは孤独なんだな」と思った。平たく「さみしい」と言い換えても構わない。少し恥ずかしくはあるけれど。では、何がさみしいのか。「属性」が重なる人があまりいないことが寂しいのだ。  属性とは、ある事物のもつ性質や特徴である。「闇/光」属性、固有能力「火/水/土/風」属性など、性格や系統の表現としても使われる。キリスト教神学においては「神の属性論」という小項目があり、そこでは「存在」もまた属性として扱われる。そう思えば、「神の孤独」も考えられ