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ASD向け労働ロボットの成り方。あるいは職場において「歯車」として振る舞うためのヒント

私はASD(自閉症スペクトラム)の当事者です。現在は東京都内で事務の仕事をこなしています。過去、工場などで数年間働いた経験も合わせて、「ロボットのような働き方によって下っ端の立場のASDが日々の仕事をどうにかやり過ごすヒント」を書きたいと思います。

誰向けの記事か(想定読者)

  • 自閉症スペクトラムで手作業の職場で働こうとしている方

  • 単純作業が苦になりにくい特性の方

  • 「下っ端」という役割で作業している方

  • 生計を立てるためにやる仕事は時間とお金を交換するだけで十分と思える方

自分一人の心構え

定型的な作業をひたすら反復するということを想定するとき、あまり考えないでやり過ごしたいものです。というのも、とにかく時間が経過し、出来高が積みあがれば賃金はもらえるのですから。

しかし「考えない」は極めて難しいので、なにか別のことを考えるようにするとよいでしょう。反復作業中に考えることはあらかじめ決めておくのです。これは特殊過ぎて参考にならないかもしれませんが、例えば筆者の場合は数字列の暗唱でした(円周率を思い浮かべて頂ければよいかと思います)。それも毎日同じ数字列を最初から復習し、わずかな休み時間にスマホを眺めて確認していました。また、他の人から話しかけられたときは中断し、どのように復帰するかまでを訓練と考えて続けていました。

数字の暗唱には興味が無くやる気にならないとしたら、鉄道駅を順番に思い出していく、通勤経路の風景を朝ドアを開けてから職場につくまで一枚一枚思い出し、また退勤後の経路の風景をできる限り細かく頭の中で再生してもよいでしょう。大事なことは、既に憶えていて情緒的な色がついておらず、平安な気持ちで思い出せることを再生することです。

平安な気持ちで思い出せることを思い出しているあいだは過去のイヤな記憶を思い出すことは、つらいとは思いますが、比較的軽減できるはずです。また、仕事でミスをしたり上長からイヤなことを言われても、それで不必要に頭をいっぱいにしないためにも、過去の失敗を連想し過ぎないためにも役立つはずです。

作業をおこなうときは条件反射で

どんなに多くの仕掛品(しかかりひん、まだ加工する必要のある材料)があっても、多くの人数や機械を使えばそれらが無限にあるわけではないのですから、必ずいつか終わるということを工場で働いていて体感しました。とにかく正確に手を動かし、失敗が起きてもリカバリして耐え抜く必要があります(人間ですから必ず失敗はあります。完璧な作業を前提に終わる見込みを立てないように、自分自身にも他の作業者にも期待し過ぎないようにしましょう。期待してぬか喜びすると疲れるからです)。

正確に作業をするには焦点を絞る・特徴を抽出することを提案したいと思います。というのも、例えば何かを点検するときでも必ず点検すべきところや、比較的間違いがみつかりやすいところとそうでないところというかたちでムラがあるからです。例えば文章で言えば固有名詞と数字(金額や日付など)は間違いやすいのでそこだけは何度もチェックしたほうがよいでしょう。

数値をチェックするときでも実際には例えば識別番号10桁のうち下2桁もしくは下4桁だけをチェックすれば十分ということはないでしょうか。できる限り変化しやすい部分に注目点を絞りましょう。

また、作業する順序や作業の場合分けの分かれ目を上長の指示がなくても自分で順序や場合分けの条件を決めてしまいましょう。持ち場のどこを何歩で歩いて伝票のどこから記入するのか、すべて順番を決めるのです。箇条書きし、番号を振りましょう。ミスが起こった時にどの順番で何をやってリカバリするかもすべて書き出して決めて同じことを条件反射で繰り返せるようにしておきましょう。自分自身をプログラミングしましょう。そうすれば、何も考えなくて済むように成っていくでしょう。

スマホに対する人間の態度

もしかしたら、あなたの上長は気まぐれな人かもしれません。あるいは下っ端のあなたからみて同じぐらいの権限(勤続年数や役職などからみて)を持っている複数の上長から同時に実行できないような指示、優先順位の食い違う指示を交互に出されることがあるかもしれません(実際、数分ごとに異なる指示を出されたことがあります)。

組織というのは難しいもので、取引先や上長がアクセルを踏んでGOと言ったり、ブレーキを踏んでSTOPと言ったり、どちらかに寄せてほしい気持ちが部下からは湧いて来がちなものです。

しかし、ここであなたが普段触っているスマホやパソコンの気持ちを想像してみてほしいと思います。あなたはスマホに「アプリを開け、いや閉じろ、やっぱり開け」と言ったり、スマホが作業している最中に画面を連打したりしていないでしょうか? 上長があなたにしているのも多かれ少なかれそれと似たようなものなのです。スマホはあなたが操作した通りに動きます(思った通り、ではありません!)。ですから、あなたもスマホのようになって上長が「操作」した通りに動きましょう。あなたがスマホのように、いやスマホ以上に規則正しく動くことができれば、上長の方があなたの取り扱いをラーニングしてくれます。それは非人間的な扱いであったとしても、気まぐれに取り扱われるよりはずっとマシではないでしょうか? この記事ではマシだと思える方を対象にしています。

あいさつし、型を身に着ける

あいさつは極めて重要です! 筆者自身もパーフェクトにできているとは言えませんが、あいさつして怒られることはほとんどありません。たとえ間違ったあいさつでもあいさつしなかった場合に比べれば遥かによいのです。あいさつをしてもプラスはありません。ただ「あいさつをしない」ことにマイナスがあり得るだけです。

ここでは職場で毎日するあいさつについて述べたいと思います。「おはようございまーす!」「お疲れさまでーす!」「よろしくお願いします!」「ありがとうございます!」「助かりました!」「恐れ入ります!」「恐縮です!」「お気の毒です」「おかげさまで」「そうでしたか」「そうなんですね」などです。あなたが下っ端なら、必ずあなたが先手を打ってあいさつすべきです。あなたは職場で自分の存在を示し、かつ自分が相手に対して従順であり、相手の存在を「尊重」するためにあいさつをしてください。

しかし、「相手に対して」あいさつする必要はありません。あなたはロボットなのですから、通路のカドの柱に向かって毎朝あいさつしてください。もちろん、いつも決まった柱さんに向かってあいさつしてください。もしそこにたまたま職場の偉い人がいたらどうでしょうか。偉い人がいるかもしれない運転で歩くべきです。あなたが同じ柱に向かって律儀に「お早うございます!」とあいさつしていても、たまたまそこに居合わせた人は勝手に自分にあいさつがなされたものと認識します。誰もいなかったケースのことは気にする必要はありません。相手があいさつを返すかどうかも関係ありません。軍隊では相手に敬礼するのではなく、階級章に敬礼するのだそうですが、それと似たやり方かもしれません。とにかく反復作業で日常を塗りつぶしておけば、あなたの安全は確保されるのです。

ごまをすり、点数稼ぎをする

職場の人間関係をよくするために、職場環境をよくしましょう。

誰でも知っているようなお菓子を用意して、何かしてもらったら配るようにしましょう(あなた以外の人は言うまでも無く旅行に行くたびにお土産を皆さんに配っているかもしれませんね!)。あなたも飴ちゃんなどを配って点数稼ぎしてください。どんなに露骨でもからかわれても気にしてはいけません。継続していればみんながそれを「当たり前」と認識するようになります。小悪党になり、儀礼の範囲内で「賄賂」を送りましょう。

モノを渡すだけではなく、汗も流しましょう。まさか素手でトイレ掃除をしろとは言いませんが、職場の薄汚れた部分を毎営業日こっそり清掃しましょう。これと決めた幾つかのゴミ箱をカラにするだけでもよいのです。誰にも言わずにやることがたいせつです。毎日黙って繰り返していると、誰かが気が付きますが、気にせず続けましょう。誰かが気づいていることにあなたが気づいていないフリをすると好感度アップです。そして、綺麗な職場で過ごしていると、綺麗にしたあなた自身はともかく他の人のご機嫌が少しずつ向上します。それは結局、下っ端のあなたへの当たりを弱くすることにもつながるのです。

説明するときは証拠と現物をみせつける

あなたが誰か偉い人に何か困ったことや現場の状況を説明しにいく場合、口下手なあなたの報告に上長は聞く耳をもたないかもしれません。聞く耳をもとうとする上長であっても、自分の作業に忙しくてあまり注意を回してくれる余裕がないかもしれません。そうした場合、コトバは無力です。

そこで、できる限り、現場にあった物体(例えば破損した部品)や現場の写真(でかければでかいほど、鮮明なほどいいです)を手に持っていきましょう。あなたのコトバがつたなくても、あなたが手にしているモノをみて上長はとにかくこれについて何か訴えたいのだと理解してくれたり、必要なことをたずねて来たりしてくれるでしょう。

また、上長から口頭で業務指示として言われたことは、伝票の余白などに誰から何時に何を言われたか手書きで書き留めておくとよいでしょう。もちろん裁判の証拠にすることはほとんどないでしょうが、そうだとしても後に業務指示が二転三転したときに理解を得られるかどうかがそこで決まります。

投げ銭

人によっては「当たり前」のことばかり申し上げました。恐縮です。本文は以上でございます。もし本記事の内容がヒントになり、投げ銭したいという方は以下から投げ銭することもできます。筆者は「3」という数字が好きなので価格は333円に設定しています。頂戴したお金は老後の資金など私利私欲のために使わせて頂きます。

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