ネクタイを貰ったこと、装うということについて

昨日、友人からネクタイを貰った。
それは私にとって運命的なタイミングで、とてもうれしかったのでその後周りに「もらったんだ～」と話をすると、「え、なぜ……？」という戸惑いの反応が返ってきた。
あ、そういえばこれが普通の反応か、と気づいて面白かったので、それについて記したいと思う。

私は学生のころ、ネクタイやハットという小物を使って自分を装っていた時期があった。
女性的なファッションをすること、それによって女性として扱われることにとにかく忌避感があり、そのころメンズウィメンズどちらも扱っているアパレルでアルバイトしていたこともあり、社販でメンズ物を買ってはドヤ顔で着ていたりした。

今思えば、コスプレ的な雰囲気もあり、それを素人が普段使いでやることのダサさみたいなものがあったのではないかと思うが、周りの友人たちはそれを「カッコいい」とか「おしゃれ」という言葉で受け入れてくれ、自分も自分でやりたい格好をやれていて満足だったので、それはそれで自己肯定感に満ちた時期だったと思う。

なぜそうした欲求が学生のころに突然噴き出してきたのか、今までちゃんと考えたことがなかったが、思い返してみると、高校のころまでは自分の着たい服を着るということをしていなかったのが原因かもしれない。

昔からあまりスカートを履きたがらず、ズボンとスカートのどちらかを選べと言われたらズボンを履いていた。（最近は中高生の制服も自由に選べるようになってきているようだが、私が今中高生だったとしたら、迷いなくズボンを選んでいただろう）
それでも「どんな」ズボンを選ぶかは私に権限はなく、母親の好きなブランドから母親が選んだもの、あるいは選ばされたものを着ていた。そして、それらは往々にして女性的でしとやかで上品な、あるいは可愛らしさのあるアイテムが多かった。なんか違う、私が望むものはこれではない気がする、と思いながら着ていたのを覚えている。

それが大学に入学して、アルバイトをするようになり、自分の稼いだお金で自分の好きな服を着られるようになった。
そうしたときに、私が思う女性的でないファッションアイテムの代表格＝スーツ（ジャケット、ネクタイ、シャツ、帽子）への憧れが一気に噴出したのだろうと思う。

私にネクタイをくれた友人は、このころ一番顔を合わせていた人間なので、ネクタイと言えば私、ということで思い出して買ってくれたのだそう。
ネクタイを貰った時になぜ私がとてもうれしかったのか、これで少しは理解できるかと思う。

では、それを周りに話したときに「なぜ？」と困惑されたのはなぜかというと、今はそうした格好をしていないからである。

ネクタイや帽子をドヤ顔で着ていたと書いたが、全く違和感がなかったかというと、実はそうでもなかった。
そうした自分の姿を映した写真を見たとき、私が思うカッコよさを私は表現できていない、これも何か違う、と感じたのだ。

それもそのはずで、私は別にファッション雑誌を読み込んでいたわけでもないし、ものすごく服好きで古着屋巡りをしていた、というわけでもない、ただそのファッションアイテムに飛びついた素人だった。
要するにサイズ感がおかしかったのだ。
今であれば、自分の体形に合うサイズは大体このくらいだから、メンズライクに着こなしたいならそれより大きめのサイズ、フィット感を大事にしたいなら体形そのままのサイズを選ぶ、といった知識が頭にあるが、そういうことを知らず、とにかくメンズ物を着ればメンズライクにかっこよくなれると思っていたのだった。

自分のファッションに違和感を持った私は、その違和感を「私にはメンズ物は似合わないんだ」と解釈し、結局女性的なものしか似合わないんだな、その中で自分が許容できるものを考えて選び取るしかないんだな、と諦めて、女性的なファッションに舵を切ったのが、社会人になってからだった。
だから、それ以降に知り合った後輩たちには私とネクタイがうまく結びつかず「？」となるのも無理からぬことだったのである。（私は現在、大学でやっていた合気道部の稽古にOGとして参加している）

その後、事務補助員に転職して男性が多い環境になると、女性的なファッションを着る私は「若い女性」として扱われることが多くなり、それに迎合して精一杯「若さ」をいじられる「女性」としてふるまい、辟易した。
これは私のやりたいことではなく、私は女性を「演じている」と感じた。
無理、と思った。

今はどうしているかという、フィット感がありながらもメンズライクな着こなしをすること、より中性的に装うことを知り（最近時々GISELeを読んでいる）、自分のやりたい放題シーズンが再来している。
その中でネクタイを締めるのもよいのではないか？断捨離であのネクタイ捨てるんじゃなかったな、と思っていたタイミングで、このネクタイをもらったので、タイムリー過ぎて私の心通じてるの？テレパシー？？？と思ったくらいだ。

そういうわけで、このタイミングでネクタイというアイテムをゲットすることは、私にとって大きな意義あることだったのだ。
私のジェンダーアイデンティティはクエスチョニングかジェンダーフルイドである、と前の記事で書いたが、それはこういうわけである。

私はリボンやパフスリーブやふんわりしたスカートといった、可愛らしさを装うアイテムは苦手だが、総じて「カッコよさ」が好きであり、だからヒールのある靴は好きでよく履く。他の人は矛盾を感じるかもしれないが、私の中には矛盾はない。
スーツ的な装いと、Iラインスカートにヒールのあるブーツといった装いは、私の中で共存し得るのである。

それが今後どういった方向にいくのか、私にもよくわからないが、それを受け入れてくれる友人たちがいる限り、探索は続き、新たな分岐点が生まれるのだろう。
それを楽しめる自分でいたい。

（緑青）