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あの「銀河」が紀南に登場 紀伊勝浦駅でも地域の輝きをアピール

 JR西日本が地域の活性化を狙って、多様性、カジュアルさ、くつろぎをテーマに企画した観光列車「WEST EXPRESS 銀河」が、紀南エリアで運行を開始して2か月あまり。停車駅のひとつでエリアの拠点でもある紀伊勝浦駅を訪れ、ルポを試みた。

IMG_9041 銀河(編集)

那智川橋梁を渡る「銀河」。新宮駅を出発し、京都駅に向かう。


「WEST EXPRESS 銀河」とは
 JR西日本の長距離列車(117系改造)。列車名には「西日本エリアを宇宙に、各地の魅力的な地域を星になぞらえ、それらの地域を結ぶ」という意味が込められている。車体の瑠璃紺色は西日本の美しい海や空を、側面の長いラインは長距離の旅をイメージさせるとともに「遠くへ行きたい」という願いを叶える列車であることを表現している。車両は1両目から6両目まで全て異なるデザイン。更衣室、車いす対応トイレ、席指定がなく誰でも楽しめるフリースペースなどがあり、乗客が楽しく、安心して過ごせる列車となっている。
 列車コンセプトのひとつに「複数の区間を運行して、西日本エリア内の様々な方面への旅行需要を喚起」があり、2020年9月の運行開始から、山陰エリア、山陽エリアを運行。京都駅と新宮駅を結ぶ「紀南エリア」の運行は2021年7月に始まった。5か月後の12月まで運行予定。

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「銀河」の運行区間と停車駅。京都駅と新宮駅を結ぶ。
(「WEST EXPRESS 銀河」ホームページ
  https://www.jr-odekake.net/railroad/westexginga/ より)


海外の観光客、車社会の国内客にも今後を期待 
 取材に訪れた紀伊勝浦駅は、那智勝浦町の中心部に位置する。「くろしお」などの特急列車を含むすべての列車が停車するうえ、バス停と接続していることから、多くの観光客が利用している。
 同駅の利用客は、新型コロナウイルスの流行によって大幅に減少。駅員の笹岡 大祐〈ささおか だいすけ〉さんによると、感染が流行する前は、利用客のうち8割~9割が海外からの観光客だったという。「アメリカや中国の方をはじめ、海外のお客様でいっぱいでした。もう、駅の構内が国際空港かなっていうぐらいに。電車を待つ間もベンチに座れない方が大勢いて、それでも皆さん楽しそうにお話をされていました」
 また、以前は鉄道を利用していた国内観光客も、感染を危惧してかマイカー利用者が目立つようになった。しかし、そんな車社会の中のあっても、「銀河」の乗客の中には那智勝浦を初めて訪れたという人が多いという。笹岡さんは、「『銀河』は、京都や大阪、和歌山市などの人が紀南を訪れるきっかけになっていると思います。今回訪れた人たちがリピーターとなって、今後も鉄道を使って紀南に来てくれたらとても嬉しいですね」と期待を膨らませる。


乗客と地域を結ぶ「おもてなし」
 西日本各エリアの活性化への貢献を目指す「銀河」が停車する各駅には、特産品の販売をはじめ郷土料理の提供、駅周辺の自然や歴史をめぐるミニツアーといった、乗客のための「おもてなし」が準備されている。
同駅では、日本三大火祭りのひとつ「那智の扇祭り」で用いられる大松明が特別に展示されている。手を触れることはできないものの、直径約45センチ、重さ約50キロもの巨大な松明を間近で見ることができる。そのほか、那智勝浦町内の色川地区で摘まれる「色川茶」が振る舞われる予定だったが、こちらは現在、新型コロナウイルスの感染予防のため実施されていない。笹岡さんは、「やはり色川茶を振る舞えないのが残念です。しかし、(次に停車する)新宮駅では地酒の販売もあるし、列車の中で食べるお弁当にも勝浦の店のものがあります。たくさん紀南を楽しんでほしいですね」と話した。
 なお、太地駅や古座駅といった無人駅でも、地元の人々や「銀河」に同乗しているJRスタッフらによる様々な「おもてなし」を楽しむことができる。まさに広い宇宙(西日本エリア)の中の星々(各地域)を結ぶ列車として名付けられた「銀河」ならでは、といえよう。

IMG_8921 松明(編集)

紀伊勝浦駅に特別展示されている大松明。駅構内、改札を出てすぐのところにある。


笹岡さんへのインタビュー
――紀南エリアでの「銀河」の運行が決まったときのお気持ちは?
「九州、中国地方などでの観光列車運行の話は聞きましたが、このような列車が紀南まで来ることは初めてなので、とても嬉しかったです。これをきっかけに那智勝浦町、紀南をもっとPRして気に入ってもらい、さらにリピーターになっていただく。そうやってより多くの人にここに来てもらいたいですね。また、感染の終息後はインバウンド(海外からの観光客)ももっと増やしていきたいと思います」

――紀伊勝浦駅周辺のおすすめスポットはどこですか?
「このあたりは、熊野三山のひとつである熊野那智大社、西国三十三所第一番札所の青岸渡寺など、歴史を感じることのできる場所がたくさんあります。中でも、那智浜(海水浴場「ブルービーチ那智」)は昔、修行者が極楽浄土を目指すために船に閉じこもって海を渡った補陀落渡海〈ふだらくとかい〉が行われていたところなんです。近くには補陀洛山寺〈ふだらくさんじ〉というお寺もあります。美しい自然の中でそういった歴史に触れていくと、旅がもっと深く味わえて面白くなると思います

【編集後記 たくさんの笑顔が戻ることを願って】
 マスク着用や手洗い・うがいをはじめ、こまめな消毒、清掃、換気など、紀伊勝浦駅の駅員の皆さんは毎日の感染対策を徹底している。「銀河」の車内でも、換気装置が稼働しており、空気清浄機や消毒液も設置されている。鉄道や観光に携わる方々が利用客の安全・安心のために全力を尽くしていることを痛感した。
 同駅では数年前、エレベーターが導入された。また、オペレーター対応が可能な券売機が設置され、きのくに線全体でICカードに対応した車両が登場するなど、より便利に利用しやすくなっている。「銀河」をきっかけに、もう一度紀南を訪れてほしいという願いが、駅で働く人たちや地域の人々の間にあふれているように思えた。
駅の改札前では乗客に道を尋ねられ、さっそく説明する笹岡さんの姿があった。分かりやすく的確に伝える笹岡さんと丁寧にお礼を述べる乗客、二人の笑顔が印象に残った。一刻も早く感染が収まり、にぎわう駅頭が人々の談笑であふれますように。(取材・撮影:山東 華)

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