ご免侍 五章 狸の恩返し(二十二話/二十五話)
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は蝮和尚の策略から平助と女房を助け出す。
二十二
平助は、なぜ一馬をかばったのかは自分でも判らない。侍が嫌いだった、横柄で人を見下すだけの連中だ。町人を邪魔と思ったら殺すのもためらわない。でも自然に体が動いていた。
「あんたぁ」
左の肩から腹まで太い鎖で打たれた、肩の骨は折れているのか動きもしない。女房のお勝の声が遠く聞こえる。
(俺は、しめえだな)
どうせ俺も悪党だった、ここらで善行をしとけば閻魔様も刑を軽くしてくれるかもしれない。薄れた意識でぼんやりと考えながら、ドブ板平助は地面に倒れた。
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一馬が鬼おろしをかまえて突撃しようとすると、蝮和尚だった隠形鬼が手で制する。
「お前らと戦う気はない」
「今さら命乞いか」
「まて一馬」
一馬の父親の藤原左衛門が、太い手でさえぎると、かがんで平助の傷を見ている。
「すぐには死なぬが傷の手当ては必要だ、いくぞ」
「父上、見逃すのですか」
「戦意が無い相手と戦うと、長引く」
じろりと一馬をみると、平助を両手でかかえて赤子のように運びはじめた。
「一馬、戸板をもってこい」
「戸板ですね、すぐもってまいります」
「お勝さん……」
お勝が伊土屋の方に走る。一馬は、まだ敵の残りがいる可能性を考えて、その場を離れた。
(父上ほどの腕前なら、倒せる筈だ)
疑問に思いながらも、平助の容体が心配になる。お勝が店の裏で戸板をはがしているのを手助けしてすぐに戻ると、もう隠形鬼は消えていた。平助を戸板に乗せて、武家屋敷に走る。平助は太っているので、若い一馬ですら息が切れそうだった。
「はぁはぁ、どうして逃がしたのですか」
「倒せる時期は、自然に来る」
まるで運命でもあるかのように息子につぶやくと、あとは黙って走る事に専念した。
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