ご免侍 五章 狸の恩返し(二十一話/二十五話)
あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。蝮和尚の策略から平助と女房を助け出す。
二十一
「水攻めか」
藤原一馬が暗い地下牢を見回すと海水なのか潮臭い水が大量に流れ込んでいた。海水の勢いで倒れたのかロウソクの灯りが消える。
「あんた、このままじゃおぼれるよ」
「わかってる」
ドブ板平助の女房のお勝が心配そうに、旦那の袖をひっぱる。一馬と平助が下から押しても、格子の上げぶたを持ち上げられない。地下牢から逃げ出さない仕掛けがある。
「金具で止めてるのか」
「へぃ、そう思います」
「この木の部分だけでも壊す」
一馬が格子を鬼おろしで、たたき割ってると海水が階段を昇ってきた。
「あんた、もうだめだ。ここでおだぶつだよ」
「今壊しているからまってろ、ちきしょうめ」
平助の持っている十手じゃ傷もつかない、一馬は必死に腕をふるい続けるが、足首まで海水がたまる。もう地下牢全体が水で一杯だ。
「一馬様、俺はどうなってもいい、お勝だけは助けてくれ」
「あんたぁ、死んじゃいやだよ」
「もう少しで格子が壊れる、そうすれば腕を外に出せる」
その瞬間に格子が持ち上がった。
「一馬、生きているか」
声の主は、一馬の父、藤原左衛門だった。
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三人が倉から逃げ出すとあたりが血なまぐさい。
「伊土屋の連中は、どこですか」
「……わしが倒した」
一馬よりも頭二つ分は背が高い父親が、一馬の肩をやさしく叩く。一馬は安堵感でやすらぐような気持ちになる。
(親父が来れば何も心配はいらない)
「おまえが藤原左衛門か……」
蝮和尚が、月あかりに気配を殺して立っていた。見えているのに、見逃してしまう。居るように見えない。
「散華衆の一人、隠形鬼」
「旦那、危ない」
隠形鬼が、鉄の太い鎖を頭上から叩きつける。平助は一馬をかばうように鎖に殴打された。
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