ヒエラルキー#2(3/15)【鴨川洋子の事件簿】
「死神……不幸な事が起きるんじゃ?」
「確かに不吉だけど、決意の意味もあるんだ」
「死ぬ事が?」
「死はリセットの意味もある、再生も象徴しているんだ」
麻焼尚人の端正な顔を、うっとりと見つめている三浦洋子は、彼の言うことならなんでも信じてしまいそうだ。
「じゃあ、思い切って告白してみます」
「そうだね、でも告白は失敗する事もある………」
「……」
「これを君に渡そう」
「これは何ですか……」
「君の思いが届かない時の貴重なアイテムだ」
「アイテム……」
それは白い石がついたネックスに見える。細長い白い石は、蛇の卵のようにも感じた。
「ダメな時は、これに願うんだ、きっと成功するよ」
「……はい」
怪しげなアイテムを売りつけるセールスマンみたいだが、彼女がそれで安心できるならと何も言わなかった。
三浦洋子が、礼を言うと部室から出て行く。鴨川洋子は、アイテムの正体を無性に知りたくなる。話しかけたくはないが、我慢はできなかった。
「あのアイテムはなんですか」
「……リリスの卵だよ」
「リリス?」
「旧約聖書のアダムの妻だ」
「アダムの奥さんは、イヴじゃないの」
「実は名前の無い奥さんも居たんだよ」
鴨川洋子は、聖書に詳しく無いし反論できない。
「それで……なんで卵なの」
「見ていれば判る」
クククッと笑う麻焼尚人は、何か楽しげだ。
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「洋子君、放課後に君とデートしたいな」
「はぁ……」
午後の授業が、はじまるといつのまにか隣の席に麻焼尚人が座っている。まるで当然とばかりに、誰も何も言わない。
「ごめんなさい、部活動もあるから」
「大丈夫だ、十分もかからない」
この男は何を言っているの? 十分だけのデートなんて意味が無い。
「三浦洋子の告白を見るだけさ」
「え? なんで」
「彼女が校舎裏で恋人になる男性に告白するんだよ、見たくないかい」
「……悪趣味ですね」
「そうだね、人の恋路の事を気にするのは、まったく悪趣味だ、でも人間は好きなんだろ」
麻焼尚人の瞳が縦に細くなる。まるで猫の目のように瞳孔が変わる。彼は人ではない事を直感する。
「彼女に何をする気です」
「別に僕は何もしないさ……」
氷室玲子に、相談しようかと思った。しかし集団デートの帰りの惨劇は覚えている。あの事件では、不良が大量に死んだ。
(どうしよう……)
少なくても麻焼尚人は、あの魔物と違って話はできる。対話で解決が可能かもしれない。
「……判った、つきあう」
「即断する君の判断は好きだよ」
放課後になると麻焼尚人の後についていく。校舎裏まで来ると、そこには男子生徒と三浦洋子が、立っていた。彼女から見えない場所で、こっそりとのぞき見る。
「御門君、好きです」
ラブレターなのか、かわいい封筒に入った手紙を彼に渡す。古風な彼女は真剣で幸せそうに見えた。御門と呼ばれた、男子生徒はガラの悪い不良に見えるが、ハンサムだ。告白されるとニヤリと表情を変える。
「おい、俺の勝ちだぜ」
御門が、後ろを振り向いて叫ぶと、ぞろぞろと隠れていた男女の不良生徒が出てきた。
「なんだよ、賭けに負けたじゃねええか」
「いまどき手紙? ウケル」
「もういいのか、やっちまおうぜ」
彼らは、三浦洋子を騙して、乱暴するつもりだった。青ざめた彼女を取り囲むと、体育用具室に連れていく。
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