ヒエラルキー#1(2/15)【鴨川洋子の事件簿】
「鴨川さん、どいて」
きつい眼を向けるのは、クラスカースト上位の三浦洋子だ。私が教室から出て行こうとドアをあけると、彼女がにらんで立っている。あわてて横にどいた。
(……さすが学内成績上位ね)
常に十位以内で頑張っている三浦洋子には、逆らえない雰囲気がある。美人で頭が良くて両親は政治家だ。
(なまいきよね)
(何様のつもり?)
三浦洋子は一部の不良っぽい子たちには、評判が悪い。見下されていると感じる。やはり私たちのような、頭のよくない子には、冷たい態度をとるように思えた。
(こわい……)
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三浦洋子は、頭が良いので、正論をズバズバ言うから誰も反論もできない。下手に反論すると何倍にもなって返ってくる。そんな彼女だったが、ある日、すっかり大人しくなっていた。
(成績も落ちてるって)
(遊んでるんじゃないの?)
三浦洋子が、陰気そうな顔で私に相談しにきた。オカルトクラブを作ったけど、今は幽霊部員しかいない。最近では自分もカメラ部で活動している事が多い。占いじみた事も披露したので、三浦洋子も覚えていたのかもしれない。
「鴨川さん……占いとかしている?」
「タロットならできるけど……、放課後に部室に来る?」
力なくうなずく三浦洋子が、なにか哀れに思える。どんな事を占いたいのか……
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久しぶりにオカルトクラブの部室におとずれると……、部室の窓側に男子生徒が立っていた。
(誰? かな、クラスメイト?)
「やぁ、洋子」
あの男だ、いかつい顔は、端正で整っていても邪悪に感じる。
「誰です……」
「いやだな、クラスメイトの麻焼尚人だよ」
「そんな生徒はいない……」
「最近、転校したばかりだ、忘れたのかい?」
部室の扉がガラガラと開くと、三浦洋子が、顔を見せる。
「あら、麻焼君も部員なの?」
「そうだよ、洋子と仲良くなってね」
三浦洋子はクラスメイトと認識している、だけど自分は、転校生なんて記憶にない。置いてけぼりのまま、麻焼が、部室のテーブルにタロットカードを並べている。
「何を占うんだい」
「麻焼君も、タロットできるんだ」
「もちろんさ」
「……実は好きな人がいて、仲良くなりたいんだけど」
顔をうつむき赤らめると普通の子に見えた。私はあわてて彼女に説明する。
「あ……の、麻焼君は部員じゃないのよ」
「そうなの?」
驚いたように、私と麻焼尚人を交互に見る。
「そうだね、入部届がまだだったね」
「でもタロットできるんでしょ?」
麻焼が、タロットカードをシャッフルすると、扇のようにテーブルに広げて、三浦洋子一枚引かせる。今から否定しても意味がない。場を支配しているのは麻焼だ。
引いたカードは……『死神』だった。
「骸骨……」
「このカードは死神だ、絵柄は不気味だけど始まりの意味もあるね」
三浦洋子は、魅入られたように麻焼の話を熱心に聞いている。
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