式神の裏切り (14/15)【橙狐は見た】
あらすじ
氷室愛優は、玲子の妹で憑依体質を持つ。危険な式神を二体を封印した彼女を橙狐が見守る。神社の巫女すら躊躇する悪呪鬼来迎、愛優を助けるために橙狐が飛ぶ。
「なんだ小娘の式神がまだいるのか?」
首根っこをつかまれると、私は深大寺真に吊り下げられた。そのまま居間につれていかれると、愛優が倒れている。まだ愛優には、黒いシミがない。
ぽんと放り投げられると、私は人の形に変化する。
「愛優ちゃんに何するの!」
「この娘は、贄としてとても優秀だ」
母親の深大寺凪も部屋に入ってくる。
「息子を殺した学校に復讐したいの、この町ごと壊したい」
深大寺真は、十年前に、あの小学校に通っていた。担任は山口かおりだった。息子は、いじめで命を失い母親にひどい中傷だけが残る、母親は呪いを決意した。白髪の彼女は、長い時間を使って呪詛を練り上げて復讐をはじめた。
「息子の骨に鬼を入れた、これですべてを壊せる」
私は不思議に思う、愛優が危機なのに、犬神や八夜狐は、なぜ助けないの?
「ああ、子狐か。わらわは鬼についたぞ」
「俺は、鬼から犬神として復活を約束された」
凶悪な顔の二匹の式神が現出する。愛優は深大寺真に眠らされて、式神の制約がゆるんでいた。悪呪鬼来迎は、凶悪な顔で私も勧誘する。
「お前も仲間になれ、自由に人から供物を奪えるぞ」
深大寺真が、私をにらみつける。自由と引き換えに愛優を贄に差し出せと言う。
「自由になってどうするの?」
私は自由が何なのか判らない。愛優のために作られた私は自分の意思なんて無い。
たとえ自由になっても愛優が消えてしまったら、私は自分を許せるの?
私は最善の選択をする。敵が油断している今なら呪い作る深大寺凪を倒せば、挽回のチャンスがあるかもしれない。私のリミッターを切って人間である母親の凪を狙う。
私が消滅しても、神社の美成が、私の代わりを作れば良い。私はボロボロと泣いている自分に気がついた。愛優と離れるのが、ツライ自分に気がついた。
(これが好きって事?……)
人の心なんて判らないと思っていた、好きを理解できないと思っていた。作られた心であっても今は悲しい。
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