見出し画像

ご免侍 六章 馬に蹴られて(六話/二十五話)

設定 第一章  第二章 第三章 第四章 第五章 第六章
前話 次話

あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音ことね月華げっかの事が気になる。一馬の朝帰りで、月華げっかは、つい一馬と口づけする。


 月華げっかは玄関に戻りながら口をぬぐう。

(なんて馬鹿な事を……)

 ふとみると玄関で水野琴音みずのことねが立っている。

月華げっかさん、どうしました」
「なんでもないよ」

 月華げっか顔がまだ赤い感じがするので、あわてて顔をこする。琴音ことねは心配そうに近寄ると、声を落としてひそひそと話す。

「実は、相談があります」
「あたしにかい」
「はい」
「あのじいさんじゃだめなのかい」
「はい」

 琴音ことねが女同士の話をしたいのかもしれないと考えると、深呼吸をして普段の自分に戻ろうとした。

(心の臓がまだ痛い)

 心音が細かく激しく鳴っている。こんな気分になるのは、初めてかもしれない。琴音ことねと道場の中に入るとしんとした暗い場所で、膝をつきあわせた。

「それで、何の話」
一馬かずま様の事です」
「あんなのは一馬かずまでいいよ」
「命の恩人ですから」
「まぁいいけどね、それで一馬かずまがどうかしたのかい」
一馬かずま様は、好きな人が居るのでしょうか」
「んん、それをあたしに聞くのかい」
月華げっかさんが、どう思ってるのかなと」

 琴音ことねは、真っ正面から月華げっかを見つめている。その表情には、真剣というか真摯しんしだ。

「好き……なのは、あんただろ」
「私が好きなのでしょうか」
「えーそれは、私もわかんない」
「私は、きっと好きとは違うと思っています。」
琴音ことねは、一馬かずまを抱かれたいとかないの」
「抱かれる……夫婦めおとになるのは、想像できません」
「んん、たとえば体に触りたいとかないの」

 月華げっかの方が混乱してきた。男に抱かれるのは当たり前で、それが仕事だろうが、恋愛だろうが体を差し出す。これが大前提で生きてきた。

「それはあります、手を握られたり体に触れられるのは嬉しいです」
「……それ普通に、恋じゃないの」
「そうなのでしょうか……さきほどの、一馬かずま様が女と遊んでいたと聞いた時にとても嫌な気分になって……なんでそうなるのかなと」
「嫉妬じゃないの」
「でも月華げっかさんと一緒の時はそう感じませんよ」

#ご免侍
#時代劇
#馬に蹴られて
#小説


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?