ご免侍 六章 馬に蹴られて(二十一話/二十五話)
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あらすじ
ご免侍の一馬は、琴音を助ける。大烏城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音と月華の事が気になる。一馬達は西国の旅先で山賊の権三郎と出会う。彼を捕らえた一馬は……
二十一
「一馬、交代するよ」
「わかった……」
月華が戻ってくると一馬は立ち上がり権三郎をふりかえる。
「俺の手下になれ」
「……」
「お前は鉄砲を使える、戦力になる」
「何をすれば……」
「姫を守るんだ」
月華が、一馬の腕をぐいっと引っ張ると
「なに考えてんだい、山賊だよ」
「……そうだ、でも使えると思う」
「裏切ったらどうすんだい」
「殺す」
一馬の殺気を感じたのか、権三郎がぶるぶる震えた。
「何をすれば良いんで」
「とりあえず、裏街道を安全に抜けて西国までいきたい」
「わかりやした、道を教えます」
月華が疑わしそうに権三郎を、にらみながら
「私が見張ってるからね、ちょっとでも変な真似すると」
月華は、自分の喉首をかっきるまねをして見せた。ペコペコと頭を下げる権三郎を残して、一馬は本当に人を信じる事が出来るのかと自問自答する。
(人は裏切る、もし琴音に害を与えるなら……)
自分の判断がすこしでも間違えば、姫は死んでしまう。それに耐えられるのか……
「一馬」
水野琴音が、名前を呼び捨てにする。
「どうしましたか」
「もう堅苦しい事はいいです」
「はぁ……」
「琴音と呼んで下さい」
妙に上機嫌に見えるのは気のせいだろうか、手首をつかまれるとぐいぐいと引っ張られた。
「もうご飯ですよ、雑炊です」
「わかりました」
囲炉裏には、熊のような大きな体の雄呂血丸が座っている。しゃもじで鍋からぐつぐつと煮られた茶色の何かを食べている。
「案外、うまいですぞ」
「なんのナベですか」
「イノシシらしいですな」
雑炊とイノシシ肉を煮込んだ鍋からは、それなりにはうまそうな臭いがするが……椀によそってもらい一口食べると、確かにうまい。滋養を感じながら腹一杯になるまで食べる。一馬は食べ終わると正座してみなの顔を見た。
「実は、聞いて欲しい事がある」
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