転校生 (03/15)【橙狐は見た】
あらすじ
氷室愛優は、玲子の妹で憑依体質を持つ。危険な式神を二体封印をした彼女を橙狐が見守る。クラスメイトの前田さんが行方不明になるが、式神の活躍で助ける。
「深大寺真です」
彼は普通の小学生に見えるが、大人びた少年は周囲に興味が無いように静かに黙る。担任の山口かおりは扱いが難しそうな生徒に眉をひそめていた。橙狐の私から見ると先生の方が気難しげに見えた。
「クラスで判らない事は、前田さんに聞いてね」
クラス委員の女の子が自分の名前を呼ばれ、前田由美子は興味津々の眼差しで転校生を見つめた。彼は端正でドラマに出る子役のような顔をしていて、人形のように無機質にも見えた。そう……まるで人間ではない何かが生み出したような存在にも感じる。目鼻立ちが整っているにもかかわらず、無表情で冷たい視線が周囲に対する傲慢な意思を感じさせた。
「橙ちゃん、なんか犬さんが怒ってるみたい……」
眼を伏せている愛優は、転校生から視線をそらしていた。クラスメイトから見えない私は、常に愛優を見守る。危険があればすぐに姉に知らせないといけない。私は深大寺真を見るが、最初の印象とは変わらない。ただの子供だ。
「うーん、犬神は何で怒ってるんですか? 」
「器だと騒いでる、私には判らない……」
犬神は人に取憑いて家を繁栄させる、ただし取憑いた相手の命を削る。最後には殺してしまう。悪霊と同じだ。その犬神が器の少年を怒っている? 彼も犬神に取り憑かれている?
深大寺真がゆっくりと愛優の机に近づく。私は何か邪悪な気配を感じ、愛優の後ろに隠れてしまう。愛優も震えていた。彼の近くにいるだけで、悪夢のような気分に襲われる。何故だろう?
「はい、授業を始めます」
担任の山口かおりは、教室の生徒に手を叩いて集中させる。みなが準備を始めた。いつもの授業だと思った瞬間だ。
ガタン!
大きな音がする、私は振り返ると深大寺真が座っている男子生徒を見ていた。座っている男子生徒は足を押さえて痛がる。先生は騒がないように注意をする。
「みなさん! 座ってて」
(足出してたよね? )
(わざと足を伸ばしてた……)
男子生徒は苦痛に顔をゆがめていた。担任が駆け寄ると、痛がる生徒と転校生を連れて教室を出て行く。みんなが一斉に大声で騒ぎ始めた。よくあるいじめの行為だったが、転校生は蹴っていなかった。触れただけだと証言され、不問にされる。足を通路に出していた生徒は骨折はしていなかったが、足には黒ずむ傷が残っていた。
その足はがん細胞に冒されているように見えた。足を出していた子供はそのままクラスに戻ることはなかった。
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