はじまりのきょうしつ (10/15)【橙狐は見た】
あらすじ
氷室愛優は、玲子の妹で憑依体質を持つ。危険な式神を二体を封印した彼女を橙狐が見守る。行方不明になったクラスメイトは自宅で見つかる。
「みんな無事で良かったですね」
愛優は、前方を見つめたままうなずいた。遠足の帰りで行方不明になったクラスメイトは無傷で自室や居間で見つかる。彼らは眠っていたので判らないと異口同音で答えていた。
「おはよう」
クラスに入ると静かだった。子供達が椅子に座ったまま正面を向いている。
この世代の子供達がじっと椅子に座っている。これだけで十分に異常に感じるが担任の山口かおりが入ってくるとまるで別人だ。染めたように白髪だった。
「授業を始めます」
抑揚が無い声で授業を始めた。クラスの生徒達は黙って教科書を開いてノートを取り出す。まるでロボットのように黒板とノートだけを見ている。いそがしげに動かす指は、意味不明な文字を書いていた。
「愛優ちゃん、急いで知らせないと……」
明らかに霊障が発生していた。私では対応できない。すぐにでも、ここから離れないといけない。
「立ってはダメですよ……」
山口かおりが、こちらを振り向くと笑っている。まるで仮面をつけたように表情を感じない。生徒達が一斉にふりむく。みな同じように表情が無い。
「来るぞ!」
怒号とともに犬神が現出する。巨大な体は教室の天井まで届くほど大きい。全身の毛が黒く染まると犬神は咆吼した。
犬神は愛優の危険に自動で対応している。地縛霊を命令されずに破壊したように、犬神は宿主の危険に対応した。立ち上がったクラスメイトをふみ潰し始めた。
「愛優ちゃん!」
いくら霊体でも、犬神クラスになれば肉体すら破壊できる。ふみ潰されたクラスメイトは、バラバラになると教室中に破片がばらまかれた。その破片は陶器にも見える。人工物だ。
私は驚いている愛優の手を引っ張ると教室から連れ出そうとした。
「……これが愛優の力なんだ……」
深大寺真は、教室の扉の前で笑っている。子供に感じない彼は邪悪に見えた。愛優が叫んだ。
「みんなはどこ?」
クラスメイトを心配する愛優は、油断していたと思う。近づきすぎた愛優を、深大寺真が抱きしめる。力が抜けるように愛優が気を失う。
ぐったりした愛優は膝から崩れ落ちるように力を抜いた。深大寺真が、彼女を支えながら笑っている。
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