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創作民話 関係

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#昔話

SS 太郎の仕事【お題:#気になる口癖】青ブラ文学部参加作品

 その昔、村のすぐ近くの山に大きな岩が乗っていた。 「大きな岩だのぉ」 「落ちると村がつぶれるのぉ」  みなが心配するが落ちる事は無い、落ちないのだから心配するだけ無駄だ。だから村人は岩の事を忘れていた。  その村には一人の大男が住んでいる。名は太郎、この男は力は強いが、なまけもので働きもしない。口癖は「忘れろ」だった。女房が働いて自分は何もしないから村人からは評判が悪い。 「すいません、疲れているようで……」 「なんもしないのに疲れるわけがない」  村人から責めら

SS 溶けかかった雪だるまは、どうしてこんなに物悲しいのだろう。#ストーリーの種

 大雪が降った日に太郎は雪だるまを作る。炭で目鼻をつけると立派な顔だ。太郎は嬉しくなり雪だるまに抱きついたが、冷たすぎて家に走って戻る。太郎は雪だるまが好きだ。 「――太郎、太郎」  寝ているとゆさゆさゆすられた、眼をあけると雪だるまが起こしている。驚くが母親の声なので、怪しみながらも起きて朝飯を食べた。囲炉裏には雪だるまが並んでいた、囲炉裏は炎で暖かいが、雪だるまは溶けないのが不思議に感じる。 「なにを呆けている、薪割りしろ」  雪だるまの父親に命令されて外にでる。昨日

旅立ち(01/15) 【幸蔵の旅】

次話  幸蔵が旅に出たのは姉を探すためだ。流行病で村人が減り、父母も死ぬと自分では、生きる術がない。姉は遠い山向こうに嫁いでいる。 「ほったらことむずいべな」 「あねこをさがしてもどる」  村人は止めたが田畑を頼み探しに行くことにする。山には山賊や妖怪がいると噂されていて強い大人以外は安全ではない。しかし幸蔵は子供だし、すばしっこいので自分は平気と自信があった。  食い物は山で取れる、山育ちの幸蔵は竹筒に川の水をくむと一人で山に入った。山道は暗く静かだ。さみしいが気楽

SS 損の一部、真イカ#毎週ショートショートnoteの応募用

「イカ喰いねぇ、イカ喰いねぇ 」 「イカとか気味わるいよ」  パンパンと手を叩く棒手振が長屋の住人を集めている。見れば白くみずみずしいイカが桶の中で一匹だけ売れ残ってた。長屋の女将さん、イカを見ながら顔をそむけている。見かねた長屋の八さんが、買い取り刺身にでもしようかと部屋に戻ると、助けを呼ぶ娘の声がする。 「堪忍してください、助けてください」  イカが声をあげていた。八さんがイカを皿にのせて箱膳の上に置くと、むっくりと起き上がる。 「私は竜宮城に仕える侍女、助けてくれた

格子の中の娘(02/15) 【幸蔵の旅】

前話 次話 あらすじ:姉に会うために山を越えようとした幸蔵は山賊に捕まる。  その日は、山賊達は上機嫌だ、酒を飲み、今日の獲物から酒樽を奪ったと騒いでいた。宴で大騒ぎの山賊は油断していたのだろう、みなが眠ってしまう。幸蔵は寝たふりをしていたが、夜半に起き出すと娘を探す。 「ここにおったか?」  森の中で少しだけ開けた場所があり、地面に穴が掘られていた、上には格子戸がかぶせてある。娘の力では持ち上がらない。 「私の事はいいので逃げてください、私は旅人を油断させる役目があ

SS 最後のおつかい #ストーリーの種

「最後のおつかいだよ」  手渡された握り飯を手に持って家を出た。十歳になると村の風習で子供を山に送り出して山の神様に挨拶をさせるのが習わしだ。山頂に登り藁葺き屋根の村を見下ろすと、霧が濃いのかよく見えない。ゴホゴホと咳が止まらない。体が弱いのか僕は両親から疎まれていた。 「最後かぁ……」  山の神様に出会えない子供は殺される。そんな噂がある。年上の何人かが消えたことがあるが、誰も何も言わない。村人に殺されたのだろうか? 「神様いますか! 」  声を出して探す、元からどう

天狗(03/15) 【幸蔵の旅】

前話 次話 あらすじ:山賊たちから娘を助けだして逃げるが、また捕まる。 「私は死んでもかまいません、この子を助けてください」  幸蔵が殺されそうになり、娘は山賊たちに懇願する。娘を見る山賊たちは、馬鹿にしたように大笑いをする。 「ははははっ お前たちは単なる犬畜生だ! 」 「やめろ! 」  娘を蹴り始める山賊たちに幸蔵は力を振り絞り立ち上がろうとした。必死の形相に、山賊たちも恐怖を感じる。山賊はすぐに殺そうと鉈を取り出す。 「ふむふむ、余興にしては、殺伐としているな」

SS ダジャレバナナ #爪毛の挑戦状

 顔を白く塗った道化が恐怖の表情で固まっている、手には黄色いバナナを持って舞台に立っていた。王はつぶやく。 「ダジャレバナナだ、笑わせろ」 「このバナナが黄色いのは……、太陽が黄色いから……」  王様は黙って首を切るまねをする。舞台の上の道化は悲鳴を上げながら兵隊に連れていかれる。 「つまらん、次を呼べ」  王様は気まぐれな性格で無能だ。主君に落ち度があったとしても、交代は難しい。無能でも害にならなければ放置される。彼はひたすら笑いを求めた。面白いことが大好きな王様は、

修行(04/15) 【幸蔵の旅】

前話 次話 あらすじ:山賊を退治した天狗に大樹に連れてこられる。  井沢静は、天狗の世話をする。食事を作ったり部屋を掃除したりと忙しげだ。天狗の屋敷は巨大な大樹の枝にある。屋敷は、とても広く大きい。幸蔵の家の百倍はあると思われる。そんな場所に天狗は一人で住んでいた。 「昔は弟子もいたが、みなが地上で暮らしてる」  そんな風にさみしそうにする天狗は、元は人間で自分も天狗と暮らしているうちに神通力を得たと語る。 「おらにも神通力を教えてくんろ」  幸蔵は山賊に手も足も出

仙人(05/15) 【幸蔵の旅】

前話 次話 あらすじ:静を京へ送り届ける。 「荷物は、ありました」  山賊にさらわれて、荷物を盗まれた静は、父の仕事を受けついで自分が荷物を運びたいと幸蔵に頼む。幸蔵は寄り道は気にしていない、今は天狗の神通力が使えるので彼女をかついで走る事もできる。 「どこさ行くだ? 」  山向こうの庄屋だという。姉が居る村だった。幸蔵は静背中におぶる。手に柳行李を持って走り始めた。山道をスイスイと登ると静は楽しそうに笑う。幸蔵はその笑い声が嬉しくして自分も笑う。背中にあたたかい重さ

屍鬼(06/15) 【幸蔵の旅】

前話 次話 あらすじ:幸蔵の姉の嫁ぎ先で尸鬼が発生していた。 「ならば、俺が退治する」  幸蔵は自分の力を試したかった、尸鬼がどのような化け物かはわからないが、自分で退治できる自信があった。  仙人と名乗る老人は、頭をふると尸鬼は目に見えないと言う。鬼に実態はなく人の体内に宿るため退治は難しい、だから薬を使う。  静は、幸蔵の背負っていた柳行李を調べたいと言う。幸蔵が持ってくると中から袋を取り出す。 「鬼退治の薬と聞きました」  見れば赤い袋に【鬼おろし】と書かれ

呪文(07/15) 【幸蔵の旅】

前話 次話 あらすじ:幸蔵は屍鬼に立ち向かう。 「阿毘羅吽欠蘇婆訶」  幸蔵が両手で印を切る。着物をはだけると背中から羽を生やして飛び上がる、幸蔵は天狗の術で空を飛べた、自在に飛び回りながら屍鬼の頭に、天狗礫をぶつける。幸蔵は手から石を生み出して投げることができた。時間をかければ両手を抱えるような大きな石を作れた。 「これはたまらん」  屍鬼が山頂に逃げる。幸蔵も飛んで追いかけるが、屍鬼の足も速く飛ぶように地面を走る、負けじと追いかけると寺が見えた。 「この女を殺

狻猊(さんげい)様(08/15) 【幸蔵の旅】

前話 次話 あらすじ:姉を人質にされて幸蔵が捕まる  土蜘蛛は幸蔵の体を糸でぐるぐる巻きにして引きずりながら山を下りる。妖怪達は人が増えすぎたのが心配になっていた。徐々に自分たちの領域を浸食している。このままでは、いつか自分たちが住む世界が無くなると人間に恐怖した。 「狻猊様に頼もう」  島国が形成される前から地下深くで生きていた妖怪は、マグマの中に住んでいた。ドロドロの体を灼熱の池の中で世界を見る。 「塵芥のような生き物を恐れるのか?」 「ゴミでも多ければ邪魔にな

解毒丸 (09/15) 【幸蔵の旅】

前話 次話 あらすじ:姉を人質にされて幸蔵が捕まる 「他の村人をどうなる!」  人を消して妖怪だけにすれば争いは無くなる、それが妖怪の理想の世界だ。みなが一緒ならば争うことも無い。人を消すために、村を襲って尸鬼を増やしていた。  幸蔵は、このまま連れて行かれて妖怪なるよりも死を選ぶか? とも考えたが幸蔵の姉の千や静を見捨てる事になる。幸蔵は、その狻猊を倒せないか考えたが難しい。 「なんじゃ土蜘蛛に捕まっておったか」  仙人の老人が空に浮かんでいる、その足の下は雲が