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修行(04/15) 【幸蔵の旅】

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あらすじ:山賊を退治した天狗に大樹たいじゅに連れてこられる。

 井沢静いさわしずかは、天狗の世話をする。食事を作ったり部屋を掃除したりと忙しげだ。天狗の屋敷は巨大な大樹の枝にある。屋敷は、とても広く大きい。幸蔵こうぞうの家の百倍はあると思われる。そんな場所に天狗は一人で住んでいた。

「昔は弟子もいたが、みなが地上で暮らしてる」
 そんな風にさみしそうにする天狗は、元は人間で自分も天狗と暮らしているうちに神通力を得たと語る。

「おらにも神通力を教えてくんろ」

 幸蔵こうぞうは山賊に手も足も出なかった、かわいそうな井沢静いさわしずかを助けられない、自分にも力があれば彼女を京まで送っていける。

「ははははっ、天狗になれるかな? 」
 そんな風に笑う天狗は嬉しそうだった。弟子をひさしぶりに持てると彼も力を与えることにした。幸蔵は毎日のように木刀を振り、字を書いて勉強をして暮らす。不思議な事に、この屋敷の中では時間がゆっくり進むのか地上とは異なっていた。天狗の屋敷の一日が地上では、ほんのまばたきの時間でしかない。

 幸蔵こうぞうがぶんぶんと太い木刀を振り回していると静(しずか)が、やってきてお昼だと教えてくれる。

幸蔵こうぞうさんも少し大きくなりましたね」
 少年の体はいつしか胸板も厚くなり、たくましい体に見えるが、まだ子供だ。そんな風に語るしずかも大人の女性のようにも見える。どれほどの時間が経過したのかは自分では判らない。ひょいっと天狗がやってくる。

「ここにおったか、しずかは私の嫁にする事にした」
 天狗は京の娘と暮らしたかった、彼女は静かにうなずく。幸蔵こうぞうは本当にそれでいいのか疑問に感じる。

「天狗様、しずかさんを京の家へ里帰りさせるべ」
 天狗は少し悩むが、実家への報告も大事だ。幸蔵こうぞうの修行の成果を見せろと、大樹から里の地へ降ろした。

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「このあたりでしょうか? 」
 山賊たちがどうなったかしずかは知りたがった。顔が骸骨になった山賊の住処すみかに、父が残した荷物がある。大事な荷物を届ける途中で襲われたので、取り戻したいと幸蔵こうぞうに頼んだ。

「まかせてくれ」
 幸蔵こうぞうは今では天狗の神通力じんつうりきを、かなり習得している。人に負けない位には成長していた。しずかの手を握り地上に行くと山賊たちが居た場所を見つける。死体がゴロゴロと転がっている。山賊の手には貝の薬が握られていた。真っ赤な薬は唐辛子に見える。

「天狗様は罰を与えたようじゃ……」

 頭蓋骨がムキだしの顔に唐辛子を塗って陽をあてた。あまりの苦痛で悶絶もんぜつして山賊は死んでいる。

 山賊達の惨さにしずかは涙を流していた、天狗は想像したより残虐な性格だ。幸蔵こうぞうは天狗の嫁になる彼女をなんとか助けたいと願う。


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