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旅立ち(01/15) 【幸蔵の旅】

次話

 幸蔵こうぞうが旅に出たのは姉を探すためだ。流行病はやりやまいで村人が減り、父母も死ぬと自分では、生きるすべがない。姉は遠い山向こうにとついでいる。

「ほったらことむずいべな」
「あねこをさがしてもどる」

 村人は止めたが田畑を頼み探しに行くことにする。山には山賊や妖怪がいると噂されていて強い大人以外は安全ではない。しかし幸蔵は子供だし、すばしっこいので自分は平気と自信があった。

 食い物は山で取れる、山育ちの幸蔵は竹筒に川の水をくむと一人で山に入った。山道は暗く静かだ。さみしいが気楽で元気一杯で歩いていると人が倒れている。

「こったらところでなにしてる」

 見れば同い年の少女。助け起こすと周囲から大人が現れた、手には刀や槍を持っているので山賊だと判る。たちまち縛り上げられると山賊の住処すみかに連れていかれた。

「わらしなぞ連れてきてどうする」

 山賊の親分は、毛だらけの胸を見せて威張いばりくさって丸太に座っている。本来は旅人を油断させるために娘を寝かせていた。子供が釣れても仕方が無い。山賊達は手下にしようと幸蔵に刀を突きつける。

「逃げれば殺すが、仲間になれば助ける」

 幸蔵は考えた、ここは仲間になるふりをしよう。うなずくと縄を解かれた。それからは雑務をやらされる、川まで水をくんだり洗濯したり山賊の肩をもんだりと忙しい。はじめは監視が付いていたが、監視役が今日で終わりだと告げた。

 監視を解かれて逃げられると思ったが山賊は、もし逃げたらこの娘を殺すと脅した。

「この娘は商人の娘だ、こいつの親を殺して連れてきたべ」

 誰の子供でもないのでいつでも殺せる。そうやって幸蔵を縛り付けた。娘とは普段は会話すらできない、どこかに閉じ込められているのか、山賊の住処すみかでは見かけない。見知らぬ娘でも殺されるのは忍びない。幸蔵は山賊が油断するまで待とうと考えた。



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