格子の中の娘(02/15) 【幸蔵の旅】
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あらすじ:姉に会うために山を越えようとした幸蔵は山賊に捕まる。
その日は、山賊達は上機嫌だ、酒を飲み、今日の獲物から酒樽を奪ったと騒いでいた。宴で大騒ぎの山賊は油断していたのだろう、みなが眠ってしまう。幸蔵は寝たふりをしていたが、夜半に起き出すと娘を探す。
「ここにおったか?」
森の中で少しだけ開けた場所があり、地面に穴が掘られていた、上には格子戸がかぶせてある。娘の力では持ち上がらない。
「私の事はいいので逃げてください、私は旅人を油断させる役目があるので殺されません」
幸蔵が最初に娘を見た時は油断をしていた、山賊は娘を釣り餌にして旅人を襲っていた。娘のなまりの無い言葉は上品に聞こえる、都の生まれかもしれない。幸蔵はなんとか格子戸を持ち上げようとしたが、とてつもなく重い。見れば鉄で補強されていた。
山賊達は、この格子戸で地面に蓋をするだけで工夫も何もしていなかった。格子の横から穴を開ければ娘を連れて逃げられそうだ、土地勘のある幸蔵は逃げ切れると考えていた。
「穴を掘るから、そこから離れてくれろ」
太い枝を探すと横の土を掘る、硬いので手の皮が痛くなるが無理してでも掘り続けた、しばらくすると土もやわくなり掘るのも楽で娘が這い出るくらいに穴は開いた。
「出ればあなたが殺されます」
娘は幸蔵の心配をするが、このまま山賊で居てもいずれ罰が下される。どうせ死ぬなら良い事をして死にたいと説得をして穴から娘を連れ出した。
夜の道は暗いが、星の光だけでも十分に歩ける。音を立てずに逃げていたが後ろから叫ぶ声が聞こえる。幸蔵を殺すとわめく山賊達だ。幸蔵達は獣道を探して背を低くして逃げる。明るくなる前に山を越えたいと急いだ、娘をかばいながら歩くのは難しい。幸蔵だけならば逃げ延びたかもしれない、山頂目前の所で後ろから追いつかれた。松明を持った山賊達は迅速に幸蔵を探せた。
「どうやら死にたいらしいな、娘も殺してやる」
「おらだけでいいだろう、手を出すな! 」
幸蔵も山育ちだ、そこらの子供とは違う。襟首をつかまれるが体を回転させると指がほどけた、棒を振り回して山賊達を手こずらせる。それでも子供のする事だ、力が尽きれば棒すら振り回せない。たちまち地面に押しつけられる。
「指を落とせ」
凶悪な山賊達は、幸蔵を苦しめて殺すつもりだ。
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