見出し画像

水曜のような火曜日

 目が覚めて枕元のスマホで時間を確認する。5:32。今日は水曜日か。昨日は火曜日だったような気がする。昨日は月曜だったか。大きな問題だ。慎重に考える。

 家庭的ソーシャルディスタンスを実施している家内が一階から階段を上ってきて冷蔵庫を開ける音がする。

 その音を聞いて布団から起き上がったぼくは、寝巻きのままダイニングに向かって「おはよう」と家内に伝える。「おはよう」と応えてトイレに向かう家内を追いかけるようにして洗面所に向かったぼくは蛇口をひねって水がぬるくなるのを待つ。

 顔を洗った後の出勤に際する一連の作業が終わり、ダイニングに戻るとスムージーに使ったリンゴの残りが小皿の上に置いてある。当たり続きだった美味しいリンゴも、昨日あたりからややハズレ気味になっている。

 部屋で仕事着に着替えてダイニングに戻るタイミングでミキサーが回りだす。大きめのグラスを二つ出して並べた家内が、出来上がったスムージーをグラスに勢いよく注ぐ。

 グラスを手に取ったぼくは、NHKのニュースが流れるテレビの画面を眺めながらスムージーを少しずつ飲む。「今日は各地で気温が高くなりますので、注意が必要です」とニュースキャスターが慎重に言う。

 棚から取った小さめのグラスにペットボトルの水を注ぐ。瓶から一粒取り出した花粉症の薬をグラスの水で飲む。テレビ画面の左上に示される時刻が6:07になったので、革のリュックを背負って「行ってきます」と家内に伝える。袋から食パンを取り出してオーブントースターに入れたところだった家内は「行ってらっしゃい」と応えて、オーブントースターのタイマーを三分半にセットする。

 階段を下りて行く途中で立ち止まったぼくが「今日は水曜だっけ?」と二階のダイニングでトーストができるのを待っている家内に聞くと「今日は火曜日よ」と大きめの声で家内は応える。「水曜日だと思ってた」と階段を下りながらぼくが呟く声はダイニングに届かない。「行ってらっしゃい」と家内の声が聞こえた。

 革靴を履いて紐を結ぶ。玄関を出て道に出たぼくは駅に向かって歩き出す。トーストが食べたくなっているぼくは、半地下カフェのモーニングセットを考えて歩く。斜めに飛ぶツバメが青い空に向かう。その先には白い月が浮かんでいた。

 今日も一日が始まった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?