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ある言葉と書く文章

1.低カロリー宝くじ

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2.ころころ変わる時計

私の周囲に存在する時計を説明します。SEIKOの時計とCASIOの時計、これは腕時計です。机の上にあるのは小さな置時計で、これはBRAUNの白いものです。部屋の壁には丸型の壁掛け時計があり、白い文字盤に黒い針のものです。これらの時計は順番に5分づつ時間がズレています。SEIKOの腕時計が10時を示したとしたら、CASIOの腕時計は10時5分、BRAUNの置時計は10時10分、壁掛け時計は10時15分を示します。自然にズレたのかというと、そうではなくて、私が時間をズラして設定しています。SEIKOの腕時計は精巧につくられているので、時間はそうそうズレることはありません。CASIOの腕時計もデジタルのもので、それほどズレることはないです。問題なのはBRAUNの置時計で、月に2、3分はズレてしまいます。壁掛け時計はそれほどズレることはありません。なぜ5分単位で時計をズラしているのかについては、亡父の遺言を正確に実行しているだけで、詳しくは私にもわかりません。でも、なぜか5分単位でこれらの時計の時間をズラしておくと、物事がスムーズに運んでしまうのです。仕事で誰かに会う時にも、とてもスムーズに事がすすむのです。ちなみに、正確な時間に合わしているのはBRAUNの置時計です。このBRAUNの置時計の2、3分のズレを常に気にしているので、時間に関してはとても慎重になります。腕時計についてはSEIKOの腕時計が10分進んでいて、CASIOの腕時計は5分進んでいます。仕事ではSEIKOの腕時計をつけているので常に10分前行動、仕事以外ではCASIOの腕時計をつけているので常に5分前行動になります。家にいるときは、壁掛け時計をみて、5分ほど遅れた世界で過ごしています。時間に縛られる生活は歓迎できませんが、時計に縛られる生活なら大歓迎です。それぞれの時計を使って生きていると、時間を支配しているような気がします。理由はよくわからないのですが。

3.題名:キッチン

「では、30分後に」
Zoomのマイクをミュートして、スマホのタイマーを30分にセットする。Googleドキュメントをひらいてタイピングを始めるが、指先の動きが鈍い。先に2つの文章(1.低カロリー宝くじ、2.ころころ変わる時計)を続けて書いたので、疲れてしまったようだ。今から30分をかけて、何か書くことができるだろうか。そう考えると、自信がない。少し休憩した方が良さそうだ。今は自室に居るので、そのままイスに座ってゆっくり過ごすのも良いだろう。だけど、気分転換にはならない。

思い切ってイスから立ち上がる。リビングに向かうとソファに座る長男がベースを弾いている。先輩にもらったギターアンプにベースをつないで練習している。ちゃんとしたベースアンプが欲しいらしいが、まだお小遣いがたまっていないので、ギターアンプのままだ。それでも根気よくベースの練習をしているので、上手になってきているように感じる。家で長男がベースの練習をするので、自分が聴く曲のベース音が気になるようになった。家の外で、例えばショッピングモールでかかっている曲もベースの音が主になって聴こえてくる。そういう話しを長男にすると「ほんと、そうなんだよね」とうれしそうな顔をして答える。

ダイニングでは家内がイスに座ってテレビをみている。画面に水谷豊が映ったので、再放送の「相棒」だろう。水谷豊の相棒が誰なのかがわかると、どのシリーズかわかるのだけど、水谷豊の相棒は画面に映らない。「水谷豊の相棒」という表現はおかしい。登場人物としての名前を忘れてしまった。度忘れだ。なんだったかな。今は高い位置から紅茶をカップに注ぐ場面だ。

「ちょっと外に出てくる」と家内に伝える。
「ズームは終わったの?」と水谷豊を目で追いかけながら家内は言う。
「終わってないけど、ちょっと気分転換」とぼくが応えると、「そう」と家内は言う。
「相棒」はクライマックスにさしかかっていて、それ以上の言葉は交わされない。

玄関でスニーカーを履いてドアを開ける。「鍵わすれたから、閉めといてー」と大きめの声で言うと「えー」という声が聴こえる。ポケットからスマホを取り出して時間を確認する。13時50分。書き終わる時間まで25分ある。今から駅前の本屋に向かう。本屋の文庫本の棚でみつけた本のタイトルを題名にして、何か文章を書けないかな。どうかな。

線路沿いの道に出る。今日は蒸し暑い感じがする。人はそれほど歩いていない。踏切がみえてきた。遮断機は降りているので列車の通過待ちだ。左右に列車が通過するマークが点灯している。遮断機の前でスマホの画面をみると13時56分。踏切を渡ってすぐのところに駅前の本屋がある。文庫本の棚は本屋に入ってすぐの場所にある。なんでもいいので文庫本のタイトルをみて、すぐ家に戻ってタイピングすれば間に合うだろう。

なかなか通過する列車がやってこない。このままだと時間内に家に戻れない。書く時間がどんどん減って行く。Tシャツが汗ばんでくる。そうだ、駅前の本屋に置いてそうな文庫本のタイトルを勝手に使って、それを文章の題名につけて書けばいいんだ。もう時間がないからしょうがない。遮断機の前から線路沿いの道に戻って家に向かって歩く。少し走る。額から汗が流れてくる。

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【あとがき】

1.低カロリー宝くじ
引いたカードの言葉は「低カロリー」と「宝くじ」。書く時間は10分。記事化するに当たって少し校正した。タイトルを決めてすぐに書き始めるので、それなりの負荷がかかる。文章筋を鍛える感じだ。結果、あまり書いたことのないような文章になったので、書き終わった後は面白かった。書いてる時は必死のパッチ。

2.ころころ変わる時計
引いたカードの言葉は「ころころ変わる」と「時計」。書く時間は10分。記事化するに当たり、けっこう校正した。書いていて何がなんだかわからなくなって行った。その感じは文章に出ている気がする。その場、その場でしのいで書いていると矛盾することがどんどんでてくる。矛盾をなくそうとすると、またおかしくなってくる。そんな感じ。これも必死のパッチで書いた。

3.題名:キッチン
別の種類のカードを引いた。テーマは「ギフト、無邪気さ、家の繁栄、予想を手放す」。書く時間は30分。タイトルの縛りがなかったので、いつも通りの感じで書き始める。今いる自分の場所から書くと、スムーズに書ける気がするのは、事実からスタートできるから。事実から想像に向かう感じ。30分あったので、ゆっくり書けた。

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