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シネマ想い出話Vol.1/『2001年』との初遭遇

 あれは2018年の11月1日。ファーストデーで、1100円で映画が見られる日でした。映画好きにとっては願ってもない日で、授業も特になかった僕は、映画三本立てを敢行しました。その時のラインナップが、『search/サーチ(アニーシュ・チャガンティ)』『ルイスと不思議の時計(イーライ・ロス)』、そして『2001年宇宙の旅(スタンリー・キューブリック)』だったのです。
 『2001年宇宙の旅』は、ちょうど2週間限定のIMAX再上映がされている最中で、翌日2日に上映が終了するというタイミングでした。僕は当時、同作を見たことがありませんでした。“SFの金字塔”“巨匠キューブリックによる名作”……と言われると、妙にハードルが上がってしまうものです。学部3年生の僕には、まだまだ遠い作品でした。でも、「2週間限定=もう二度と見れないかも」「ファーストデー=安い」と考えると(特に後者)、見に行かない手はありません。僕は、横浜ブルク13で10時10分からの回を早速予約し、初鑑賞に臨みました。
 当日。客席の入りはまばらで、周りは年配の方とスーツを着た大人ばかり。同年代の人は一人もいませんでした。多分初見の観客は僕一人だったのではないでしょうか。少し身が引き締まりました。
さらに驚いたのは、上映形式です。IMAXシアターの中では、リゲティ・ジョルジュ作曲の『Overture Atmospheres』(序曲)が流れていました。事前の予告編や、劇場案内が映写されるわけでもなく、序曲が終わると同時に灯りが消え、映画が始まります。シネコンで、本編上映前に流れる予告映像ラッシュに馴れていると、ここで既に特別な感触を覚えます(たしか映画泥棒の映像すら流れなかったと記憶しています)。「これが往年の映画鑑賞スタイルか」と、初体験の嬉しさがありました。
 あとは大画面の映像に呑み込まれ、各方面からの音響に包まれ、身を任せるがまま……。1968年の映画とは思えない描写の数々を、前のめりになって鑑賞しました。IMAXと言えばとにかくスクリーンが大きい。そこに猿人の顔のクローズアップが入ると、メイク等の多少の粗が見えてもいいはずです。でも見当たらないんです。目の動きの生々しさや、動きや姿勢の振り付けの見事さが、それを本物に見せていました。技法は古いかもしれませんが、僕の目に古いと感じるものは何も映らなかったのです。猿人だけじゃなく、もちろん宇宙空間の描写についても。
 もう一つ、今作の鑑賞で初体験がありました。“インターミッション”です。幕間で休憩が入るというのは、現在のシネコンで映画を見ているとなかなかないことです。それも『2001年宇宙の旅』の場合、絶妙な所にそれが配されているから憎かった。
 作品中盤、ディスカバリー号の船長ボーマンと船員プールが、船内の管理を行う人工知能のHALに聞かれないよう、船外活動用ポッドの中で密談をする場面があります。HALに異常があるかもしれず、このままでは任務に支障が出るうえに、命の危険もある。ボーマンとプールは懸念を共有するのですが、ポッドの窓越しに、HALは二人の唇の動きを見ているのです。見る見られる関係の逆転が起こり、HALの真っ赤な眼が映る。そして暗転し、INTERMISSION、の表示が。
 「どうなるんだよぉ!!」という最高の引っ張りを提供したうえで、トイレ休憩を入れてくれる構成に、作品への好感度をさらに上げずにはいられませんでした。

 作品自体の面白さ・上手さには既に定評があり、実際に僕もそうした評価の理由を知ることができました。ですが何より、“体験としての映画”をあれほどまでに体現している作品も、なかなかないはずです。テレビや配信で見るのとは違う、「あの時、あの場、あの瞬間だからこその何か」「かつて映画館が持っていた“劇場”としての特性」を見た鑑賞体験だったと感じています。
 その時まで見ていなくてよかったと、後年まで自慢できる体験だったと、心から信じています。
 (文・谷山亮太)

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