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二人の物語〜プロローグ〜

「二人の物語」のタイトルで、ショートショートの連載を始めたいと思います。
ぼんやりとしたあらすじはあるので、少しずつでも続けていけたらと思います。
忙しい毎日の合間の息抜きに、どうぞお読みください。

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「何度も言っているじゃない!」
カレンは不機嫌な声をデイビッドに投げつけた。
口論の始まりは、愛し合う行為の最中の出来事だった。

・・・
カレンは荒い息を吐きながら、うわごとのように口にした。
「あ、あいしているわ・・・デイビッド」
「俺もだよ、カレン」
デイビッドは身体を重ねながら、カレンの手を握りしめる指に力を込めた。
「もうそろそろ、いいだろ?」
カレンはうっとりとした眼差しでデイビッドを見つめた。
「ええ。いいわ」
だがその日は、普段のデイビッドとは様子が違っていた。ゆっくりと口づけをした後、カレンの目をじっと見つめた。
「もうそろそろ、子供が欲しいんだ。いいだろ、カレン」
そう告げた後、カレンの体を強く抱きしめ、深くまで押し入った。
「!」
カレンは夢から覚めたように目を見開いた。デイビッドの体を押しのけるようにして、体を引いた。
「だめよ、いけないわ!」
デイビッドの驚いた表情は、カレンのそれと同じだった。それからみるみるうちにしおれたようになり、首をうなだれた。
二人の間に、沈黙が流れた。

「私だって、子供が欲しいわ!」
フォークを持つ手を止め、ほとんど叫ぶように言った。
「だけど、子供が生まれれば、沢山のお金がかかるのよ。子供だからって思っていたらいけないわ。私たちと同じ、一人前の命よ。その命を育てるには、沢山のお金がいるの」
一息にそうまくしたてた後、カレンは沈黙した。
(ただでさえ、あなたにどれだけのお金がかかっていると思っているの! 少しも、稼ぎはしないくせに! どうやって、子供を育てるのよ!)
カレンは心の中で、精一杯普段の不満を吐き出した。けれど、それを口にしてしまったら、全てが終わってしまう。そう思ったカレンは、言葉を胸の内にぐっとしまいこんだ。
(せめて、私の体を満たしてくれたって、いいじゃない! そのくらいのことは、してあげているはずよ!)
そこまで思ったところで、カレンはハッと顔を上げた。悲しそうなデイビッドの顔があった。
「あのな・・・、俺だって、子供じゃないんだぜ。そのくらいのことは・・・」
そこまで言ってしまうと、食事の手を止めたままデイビッドは俯いた。しばらく必死にこらえていた様子だったが、片手で口元を覆うと、肩を震わせて涙を流した。
「俺は、俺だって、これでも考えているんだ」

次第になりふり構わず、デイビッドは嗚咽を漏らしはじめた。カレンは大の男が子供みたいに泣きじゃくるのを見たことがなかった。それまで関わってきた男たちはこんなとき、はじめのデイビッドと同じように、歯を食いしばって耐えて、決して涙をこぼさなかった。それ以上に感情を露わにする男の素のままを、目にしてこなかった。
「デイビッド、泣いてもだめよ。泣いているだけでは、何も変わらないわ」
カレンは肩を落として、デイビッドと同じように食事の手を止めた。もうそれ以上、お互いに胃袋を満たすことは、できそうになかった。

ベッドで気まずい空気を嫌という程味わった後、気が立っているカレンをなだめようと、食事はデイビッドが用意したのだった。
手をかけて作った料理は、次第に冷たくなっていった。

ーつづくー

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