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ビジネス書『抗う練習』(印南敦史著)発売 和歌山カレー事件林長男と著者の対談収録
5月23日にフォレスト出版から発売されたビジネス書『抗う練習』に、和歌山カレー事件で確定死刑囚となった林眞須美さんの長男氏と著者による対談が収録されている。著者は作家・書評家の印南敦史氏。印南氏が流されて生きないためにすべきことについて、自分の人生を振り返りながら指南するとともに、現在も抗い続けている人として長男氏を対談相手に選んだ。筆者も発売日に早速購入し、じっくり目を通してみた。
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※確定死刑囚として大阪拘置所に収監中だが、一貫して無罪を主張。動機が未解明であること、自白がないこと、直接証拠がないこと、2024年現在も再審請求を行っていることなどからあえて林眞須美さんと表記する。ご理解いただきたい。
著者の印南氏は1962年、東京生まれ。広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、音楽雑誌の編集長を経て独立した。ウェブ媒体「LifeHacker[日本版]」で書評欄を担当以降、ウェブサイト「NewsWeek日本版」「Suzie」「WANI BOOKOUT」などでも書評欄を手掛ける。年間の読書量は700冊以上。著書に『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)などがある。
印南氏は過去に長男氏の著書『もう逃げない。』に関する書評を執筆。X(旧Twitter)でお互い「いいね」を押す関係が数年続き、今回の機会へとつながった。
まずは全体について説明する。本書の構成は下記のとおり。
第1章 いつも、抗ってきた。
第2章 抗う作法
第3章 ささやかな「抗い」のプロセス
第4章 僕が伝えたい「抗う人」たち
第5章 いまここで抗い続ける人の声を聴く――林眞須美死刑囚の長男との対話
第4章までは、印南氏が生まれ育った家庭の教育方針や母親との関係、小学生時代の事故と周囲の反響、中学生時代の自宅火災、高校生時代の米国ロサンゼルスでのホームステイといったこれまでの人生を振り返りながら、諦めてはいけない必要性や人生を大切にする方法について分かりやすく説明。ビジネス書ではあるが、社会経験ではなく幼少からの人生を例に取り入れてるのが珍しいと感じた。
重たい内容も含まれるが、ふだん活字から情報収集をしない人であっても抵抗なく目を通すことができる文体だ。読者の世代も問わない。
第5章は、冒頭で和歌山カレー事件の概要や眞須美さんが冤罪と叫ばれている理由について丁寧に紹介したのち、長男氏が登場。4時58分にわたるインタビューが収録されており、実に本の厚さの約半分を占めている。
和歌山カレー事件は1998年7月25日に発生。和歌山市園部地区の夏祭りで提供されたカレーの鍋にヒ素が混入され、67人が急性ヒ素中毒を発症した。うち子供を含む4人が死亡。近所の主婦、林眞須美さんが殺人・殺人未遂・詐欺容疑で逮捕され、無罪を主張するも、状況証拠を根拠に一審から最高裁まで一貫して死刑が言い渡された。
長男氏と印南氏は2023年9月、2024年1月の2回に分けて、和歌山で場所を変えながら対面。だんだんと距離が縮まる中、お互いの過去や今思っていること、死刑制度の是非など、胸の内を話していくという流れだ。
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印南 黒い服に身を包んだ長身の彼は、予想していたとおり、物腰が柔らかでとても礼儀正しい人物でした。少しだけ固い印象もありましたが、初対面なのですから当然かもしれません。
2人は、長男氏が自身のX(旧Twitter)のポストにしたためた思いを振り返りながら、日常生活や長男氏がマスコミとありのままに向き合おうと感じるようになった経緯や正直な思いを語る。
林 和歌山で生きていると、「林眞須美って知ってる? 昔めちゃくちゃ悪いやつがおったんやで」って話題をふられたりもするんですが、そのたび「へえ、そんな事件があったんですねぇ」とごまかしています。
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本を出版後、テレビなどの出演増加とともに知名度が上昇。会社員と発信活動の二重生活で多忙を極めている。プライベートといえる休みが全くない生活をしている一方で、「立派な暮らしをしていそう」など世間から異なったイメージを持たれ悩んでいること、不特定多数から誹謗中傷を受けている現実も打ち明ける。
林 本音ですね。AbemaTVだとかメディアに出させてもらったり、(著作『もう逃げない。』の)書評を書いてもらったりして、知名度みたいなのが少し上がったんです。その結果、世間の人たちからは「本も出したし、きっと立派な暮らしをしているんだろう」とか思われたり。全然そんなことはないんですけどね。毎日トラックに朝から乗って、休みの日にこうやって取材を受けたりして、もうヘトヘトになって、帰って寝るだけの生活。
トラックドライバーとして働きながらメディアの対応をしている林くんは、プライベートもなにもない状態。想像してみただけでも大変そうです。
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そんな中、本音を発信し続ける長男氏。なかでも印南氏はこのポストが印象に残っているようだ。
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大手メディアなどでは話せないであろう家族、母親への正直な思いも吐露している。
世間からは「死刑囚」「冤罪の可能性がある受刑者」という目で見られているだろうが、長男氏にとって眞須美さんは世界にたった1人の母親。テレビなどで決して口に出せない家族への愛をしっかり話しているのが非常に印象的だ。
林 親子って、家族ってそういうもんじゃないですか。いくら過去に法を犯したからといっても、僕はもう(親のことを)好きになっちゃってるので、嫌いになれって言われてもなれないんですよ。
林 地上波とか新聞とかは、まるで美談のように「まだ(拘置所にいる親のところへ)会いに行ってる息子」みたいな構図をつくりたがるんです。でも、あんまりつらい悲しいばっかりしゃべっても、「こんな人生だったけどがんばってきたこの子」ってなっちゃうので。お涙頂戴というか。けれども、美談で終わらせるような内容でもない。
林 そうですね。本当のところは人間くささというか、「死刑囚だけど、会いたいから行ってるだけ」だという、ある意味でどうしようもない感情。そういうところなんですよね。
事件から26年が経ち、事件の概要ついてしっかりと知っている人が世の中にあまりいないと長男は痛感。加えて、母親が罪を犯していた場合には認めて受け入れなくてはならない現実、死刑執行されてしまった際の今後について不安も漏らす。
林 それと一緒なんです。AKBを好きな人はカレー事件の報道を見ないし、カレー事件ばっかりを追っている人はAKBのことをあまり考えないかもしれないし。だから、そういうことが全部網羅されたのが(カレー事件のあった)1998年なんです。あの年、半年にわたって毎日報道されたことによって、母たちはすごく印象に残る存在になってしまった。でも、だんだん時が経ってニュースもなくなって、また興味の分散が始まっていって。
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被害者と加害者に関する誤解、死刑制度の是非、事件から四半世紀以上が経ったことによる世代感覚の違い、死んじゃいたいと思ったことはあるかーー。他にもさまざまなことをテーマに会話が進んでゆく。
複雑な環境下に置かれながらも、発信を続ける上でバランス力を持つ長男氏。出身地や在住地、境遇、世代と何もかもが異なる印南氏とどんどんと距離を縮めるコミニュケーション能力は、今を生きる人々にとって参考になる点があるのではないだろうか。
2人の会話劇には、誰にでも想像出来る身近な出来事が多い。思わず笑みを浮かべながら読み進める場面もあった。両者の関係は、現代に普及しているインターネット、LINEやZOOMなどのやりとりでは決して生まれないもの。対面だからこその産物だと感じた。
一方で繊細な性格が垣間見える一面も。くだけている部分あり、議論ありで、しっかり緩急がついた内容。カレー事件だけを発信する姿とはまた違った、本の中でだけで明かされる長男氏の内面が詰まっていた。
対談の最後に長男氏は「いい対談だったと僕は感じています、いい議論ができたし」と感想を述べている。noteで全てを紹介するわけにはいかないので、さらに詳細を知りたい、読んでみたいと言う方には『抗う練習』を手に取っていただきたい。
※書店によって「実用書」「自己啓発」「事件・事故」「ノンフィクション」など置かれているコーナーが異なるためご注意いただきたい。
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今年8月3日には、同事件を扱ったドキュメンタリー映画『マミー』(二村真弘監督)の公開も控えている。
『抗う練習』購入はこちら Kindle版あり
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【林眞須美さんの再審を求めるオンライン署名はこちら↓↓↓】
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