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雑魚日記8/1

今日は祖父の湯灌がある。
本当は湯灌のあと勤務があるのだが、亡くなった祖父の姿を見たあとで通常の精神で働ける自信がなかった。
勤務先に欠勤連絡をする。


身支度をし、母と一緒に隣駅へ向かう。
駅前で姉と合流し、斎場へ。
冷房の効いた斎場のフロントで伯父を待つ。
ここ数年で父方の祖父、母方の祖母と立て続けに亡くなっている。
最初に来た頃は落ち着かないと感じていたこの斎場も「そういう場所」だと思って平静でいられるようになった。
悲しいものだ。


伯父が合流し、定刻より早いが湯灌を始める流れになった。


亡くなった祖父は、びっくりするほど冷たくて、硬くて、「死」を感じる。


祖父の顔を、初めてじっくりと見る気がする。
安らかな表情でよかった。
生前の祖父が眠っているときはいつも眉間にしわが寄っていた。


祖父の唇の薄さや、入院していたせいで伸びっぱなしの髪、母と私にしっかり遺伝されている受け口、大きな耳、しっかり見ておかなくては。
もうすぐ見られなくなってしまうから。
目に焼き付けておかなくては。
それなのに、視界が揺れてぼやけて、私は涙が祖父にかからないように気をつける。


祖父は無事に三途の川を渡る支度を調えて、棺に入った。


斎場で伯父と別れ、姉と母と共に駅前で買い物をする。


祖父の棺に入れる果物を買う。
祖父は果物全般が大好きだったのだが、もう何年も「カリウムが高いから」という理由で口にできていなかった。
これからは好きなだけ果物を食べていいんだよ。


私から祖父へは、祖父の好きだった歴史小説家佐伯泰英さんの新刊。
そして、一緒に大相撲を見に行ったときにイベントで撮ってもらったカードを入れることにした。


祖父は一人暮らしをしていた頃、大相撲中継をよく見ていた。
九月に高校を卒業し翌年四月に大学入学するまでの間、私はほぼ毎日祖父宅に足を運んでいた。
受験勉強をしていたけれど、夕方になると祖父と一緒に大相撲を見た。
私も祖父の影響を受けてスー女(相撲好き女子)になった。
一度、祖父と母と、同じくスー女の大学の先輩と4人で両国国技館に行った。
そのときのカードだ。
表面には祖父・母・私の写真が。裏面には力士が印刷されている。
1枚は私が大切に持っているから、1枚はおじいちゃんが持っててね。


大相撲カードも入れよう。と思ったところで、私はあんなに一緒に祖父と大相撲を見ていたのに祖父の好きな力士を知らないことに気づいて悲しくなった。
もう聞くこともできない。
持っている大相撲カードの中から、やっぱりここは横綱だろう。と鶴竜のカードを入れることにした。


明日は自分の通院と副業アルバイト。
明日は、「普段の日」、だ。

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